悪夢
暗い。
暗い。
闇の中。
只独り。
闇に伸ばした手は、生温い朱に染まる。
「いやああぁ、ッ!」
美月は飛び跳ねるように起き上がると、深呼吸をして息を整えた。
(夢……か)
ここ最近同じ夢ばかり見る。夕樹から『父に会った』と聞いた夜からずっと。
何故山に籠もりきりの父が突然やって来たのか、その理由を美月だけは分かっていた。
まだ残暑の残るこの季節、必ず体調を崩す美月を心配して帰ってきたのだ、と。
父が直接美月に会わなかったのは、心配される事をひどく嫌がる美月を気遣っての事だろう。
家族にそんな気を回させる程、この時期の美月は不安定になるのだ。
呼吸の落ち着いた美月が視線を落とすと、まだ手が小さく震えている。
冷や汗が流れ、身体は冷え切っているのに、手にはあの生温さが鮮明にこびり付いて離れないみたいだった。
「大丈夫……?」
声に気付いて顔を上げると、部屋の扉から控え目にカイトが覗き込んでいた。
「何が?」
「毎日魘されてるみたいだから」
美月は一瞬ばつの悪い顔をしたが、すぐに『大丈夫』と笑った。
しかしその顔色は青白く、無理をしているのが見て取れる。
『どこが大丈夫なんだよ……』
そう、口をついて出そうになる。
しかし今の美月に何を言っても、きっとまた無理を殺して笑うのだろう。
(そんな顔は見たくない)
カイトはその言葉をそっと飲み込んだ。




