風の人2
(どうして美月の父親がここに!?)
ここは美月の家だ。それはつまり、その父親であるこの人の家でもある訳だが。
(ずっと山奥に籠ってるって言ってたじゃねーか!)
夕樹は声に出来ない言葉を、思い切り心の中で叫んだ。
この際自分が鬼である事や、カイトの素性は置いておくとして。娘が一人暮らししている家に、男が二人も転がり込むという事がどれだけ奇異な事であるかは、いくら夕樹であっても理解しているつもりだ。
それに『娘に対する父親は過保護なものだから』と。
一緒に暮らすのはいいがそれだけは気をつけろと、夕樹は以前九条に釘を刺されていたのだった。
「あ、あの……」
何から説明すればいいか、分からない。
夕樹はとりあえず口は開いたものの、その後の言葉は喉に詰まったみたいに出てこなかった。
(そんな事より!)
「どうして、俺の事……」
美月は、『パパとは山に籠っている間まともに連絡もつかない』と言っていた。
その父親が何故、最近転がり込んだ自分の事を知っているのか。
「風の噂でちょっと、ね?」
(ちょっとってなんだよ)
その人はニコニコと笑うだけで、何の感情も掴む事が出来ない。
妙な緊張感が身体を駆け巡る。
「美月は元気にしてる?」
逆に聞かれた夕樹は、『えぇ、まぁ……』と何とか頷いて、小さく息を吐いた。
「そっか」
それだけ聞くと、その人は満足そうに笑って立ち上がる。
「美月……さん、に会いに来たんじゃないんスか?」
「んー、今はその時じゃないかな」
「え?」
聞き返そうとした瞬間、部屋を強い風が吹き抜ける。
(あれ? 窓開いてたっけ……?)
そんな呑気な事を考えているのも束の間、夕樹は突然抗えない眠気に襲われ、そのまま膝から崩れ落ちた。
(なんだこれ? 身体が……動か、ねぇ)
「また会おう」
その声を耳の端に聞きながら、夕樹は意識を手放した。




