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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
君に捧ぐソナタ
102/126

第五番 The Path of Wind

 自主連の場所はだいたい決まっている。

 音楽室を借りるか、カラオケか。


(でも今日はお外な気分)


 神社の境内を抜けて、鎮守の杜まで足を伸ばす。人気ひとけのない秘密の練習場所。

 木葉の隙間から日差しが差し込んで、キラキラと眩しい。

 木陰になっているこの場所には、涼やかな風がふわりとすり抜けていく。

 しん、と静まり返った森にサックスの音色だけが響き、それは流れるように舞って、風に溶けた。


「さやか、先輩……?」


 不意に名前を呼ばれて振り返る。

 そこには普段見慣れないTシャツ姿で、弾む息を小さく整えるピアニストがいた。


「駆くん? どうしてここに?」

「いや、さやか先輩のサックス聞こえたから……走ってきちゃった」


 頬が赤い気がするのは走ってきたせいだろうか……。照れながら笑うから、あたしも思わず笑ってしまう。

 ここ最近、毎日と言っていいほど顔を合わせていた彼と、約束もしていない日に、偶然こんな場所で会ってしまうなんて。

 それなのに。


「客観的に聞いてみて気づいたんですけど」

「うん」

「先輩さっきのとこ、もう少し走れます?」

「それじゃあ駆くんがキツいんじゃない?」

「いや、でもその方が先輩の良さ出るんで、俺合わせますよ」

「分かった、やってみる。ちょっともう一回聞いて?」

「はい」


 会話の内容はいつもと少しも変わらない。

 でもそれが心地いい。



「これからは自主練の時呼んでくださいよ」

「え〜悪いよ〜。いつも駆くんが完璧だから追い付くための自主練なのに」

「水臭いですよ。いつでも付き合いますから。ね?」

「うん。分かった。いつもありがとね」

「いいえ」


 駆くんと練習をしていると時間を忘れてしまう。気付くと辺りは夕暮れに染まり始めていた。

 アルサクをケースに仕舞って立ち上がると、二人で歩き出す。


「あれ……?」


 神社に向かうとオレンジの明かりが辺りを照らし、人々が行き交い賑わっている。それは参道にまで続いていた。


「今日夏祭りだったんだね」


 音楽に没頭する毎日で、すっかり忘れていた。


「少し歩きますか?」

「……いいの?」


 あたしが目を輝かせたのが分かったのか、駆くんは苦笑してお祭りの中に歩みを進めた。

 演奏だっていつもあたしに合わせてくれる。


(あれ? そういえばなんでそんなに合わせてくれるんだろう?)


「何してるんですか? 置いてっちゃいますよ」

「あ、待って!」


(そういえば今年夏っぽい事なんもしてないなぁ~)


 屋台の並ぶ参道をわざとゆっくり歩きながら、ぼんやりそんな事を思う。


「先輩? さやか先輩!」

「え、何?」

「何、じゃなくて。はぐれないで下さいよ? 危なっかしいんだから」


 そう言うと駆くんは目線を合わせるように、あたしの顔を覗き込んだ。


(……ッ!)


「あ、りんご飴!」


 慌てて顔を逸らし、ちょうど目の前にあった出店に駆け寄った。

 思った以上に近づいていた距離は、無駄に心臓に悪い。


「りんご飴好きなんですか?」

「う、うん」


(司と食べたいな……)


 一度思ってしまったら最後。ずっと胸に隠していた思いが堰を切ったように溢れ出す。


(花火も一緒に見たいし、海にも行きたいし、てゆーか司と会いたーい!)


「先輩」


 駆くんに呼ばれてハッとする。

 気付くと、目の前にりんご飴を差し出されていた。


「え、これ……?」

「俺といる時くらい、俺の事見てくださいよ」


 聞き間違いかと思った。

 でもあまりに真剣な目をしていたから、聞き流す事も笑い飛ばす事も出来なかった。

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