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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
君に捧ぐソナタ
101/126

第四番 Pavane pour une infant e defunte

(やっぱりここか……)


 町外れの丘の上に、立ち尽くす見知った背中を見つける。

 ここが都内だなんて忘れてしまうくらい静かだ。

 町全体を見渡せるこの場所に、こいつの大事な人は眠っている。

 手に持った花束をそこに手向け、そしてそっと、石に刻まれた『Elisa』の文字を愛おしそうに撫でた。


「おい」


 俺がその背中に声をかけると、なんでここにいるんだと言った顔で振り向いた。


「ヴァイオリ二スト、今日命日なんだろ?」

「どうして……?」

「お前の用事なんて、こんなもんだろーが」


 俺の言葉に駆は困ったように微笑んだ。


「さやか先輩は?」

「一人で練習したいんだと。俺がいると集中出来ねーとか言いやがって」

「それで帰るなんて、司も随分素直だね」

「あ? 喧嘩売ってんのか、てめぇ」

「買ってくれるんですか?」


 今度はニヤリと挑発するように笑った。


(……チッ)


 平和主義者の駆は普段滅多な事がない限り事を荒立てるような事はしない。


(今がその時、ってか?)


「もう居もしねぇ女の面影追ってんなら止めとけ」

「そんなんじゃありませんよ」

「だったら何なんだよ!」


 胸ぐらを掴んで睨む。


「エリザは天才だった……。俺はその才能に惚れ込んだ」

「…………」

「でもエリザと彼女は違う。彼女の音は彼女にしか出せない」

「それがピアノを弾く気になった理由か?」

「また誰かのために弾こうって気持ちになるなんて、思ってなかった」


 遠い目をして、駆が言う。

 あまりに苦しそうに笑うから。

 胸糞悪くなって、掴んでいた胸ぐらを突き放した。


「好きですよ、さやか先輩の事」

「あ゛?」


 強い風が吹き、手向けた薔薇の花びらが舞う。

 自分でも眉間に皺が寄るのが分かった。


「お前、それを俺に言ってどういうつもりだよ」

「一応許可もらっておこうと思って」

「ふざけんな。渡さねーよ。あれは俺の女だ」


 駆は右の口角を上げて、不敵に笑って去っていった。


 あの野郎、この俺様に宣戦布告しやがった。

 上等じゃねーか。

 その喧嘩買ってやるよ。


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