香る残像
頭痛がする。昨日からずっとだ。また貧血、か。
大久保龍一はイライラしながら、サボれる場所を探していた。
「あ……ッ、九条せんぱ、い……」
まだ授業中で静まり返った廊下に、不釣り合いな艶めかしい女の声。それは明らかにこれから自分が向かおうとしている所から聞こえてきていた。大久保はそこをサボり場所に選んだ自分を激しく後悔した。
すると生徒会室から見知らぬ女子生徒が出てくる。その足元はフラフラして覚束ない。そこで何が起きたかなんて容易に想像がついた。
――ガラ……
生徒会室のドアを開くと、案の定我が学園を牛耳る生徒会長の九条大和がソファで優雅に寝そべっていた。
「おや? 副会長もサボりかな?」
「お前、また食ったのかよ」
「人聞きの悪い。かわいい女のコとの会瀬だよ?」
「毎回違う女に手出すくせに、よく言うぜ」
吐き捨てるように言うと、特に気にする様子もなく九条は大久保の頬に触れた。
「顔色が悪いね、大久保。イライラの原因はコレかな……?」
九条の手に触れられて、続いていた頭痛がスーッと消えていくのが分かる。
(クソ……!)
「気安く触るな!」
触れる手を思いきりはね除けた。そんな大久保を見て、くすりと笑う。
(いけ好かねえ奴)
声には出さなかったが、そのイライラを隠さずにドアに手をかけた大久保を、九条が呼び止める。
「サボらないの?」
「お前と一緒の部屋にいたくない」
「えー」
「えーじゃねーよ! このスケコマシ!」
「じゃあ俺が出てく」
「は?」
「俺は十分休んだから、大久保休んでっていいよ」
そう言って、一人取り残された。
「意味分かんねー」
一人呟いたこの部屋には、未だ女の残り香がこびりついていた。