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6,グレイ

 私たちが連れて行かれたのは、領主公廷の地下牢。まあたぶん誤解、というか私たち本人だから、すぐ釈放してもらえるよね? と素直に捕まっただけなんだけど。

にしても臭いっ! 汗というかドロというか、なんかすご~く臭うんですけど。


「そこで待ってろっ!」


詰め襟たちのリーダーは吐き捨てるように言い放つと、頑丈な鉄格子の中に私たちを放り込んだ。

二人の見張り番を残して、残る全員が地下牢を立ち去る。


「うーん、どうしたらいいのかしら?」

「こまったねえ、まさか偽物扱いされるなんてねえ」


私と一緒にきららも困惑顔。まあ、その気になれば聖なる双剣ラ・カリボールで鉄格子を切ってしまうのはわけないんだけど、それやっちゃうと話がややこしくなるもんねえ。


「相手の出方を待つしかないのかも」

「そだね、思いつめたら負けだよっ♪」


あれ? きららったらもう立ち直ってる。


「とりあえず座ろうよ!」


きららの提案を受けて、私たちはそれぞれ粗末なベッドに腰掛ける。


「けど…他のみんなはどうなっちゃったのかなぁ?」

「傭兵団ゴッドハンドのメンバー? みんな引退しちゃったらしいよ?」

「そうなの…」


やっぱ知り合いがいないって寂しいよね、思わず涙が出ちゃう。


「ほらほらそこ、泣かない泣かないっ!」


ううっ、きららによしよしされちゃった。


「きっとそのうち取り調べとかあるからさ、その時に正直に言えばみんな信じてくれるよ!」

「ぐすっ、だといいけど…」


程なく私たちを呼ぶ詰め襟の声。あとで聞いて知ったんだけど、これはラゲルタ正規軍の軍服なんだって。

道理でみんなお揃いの服だったわけよね。

連れて行かれた先は、領主公邸でもかなり上の方、部屋には「領主執務室」の看板がかかっていた。

兵士の一人がドアをノックする。私たちの後ろには総勢五人の兵士たち。


「入れ!」


横柄な声が部屋から響く。静かに兵士がドアを開け、私たちを引いて部屋に入る。

両手を後ろに縛られてるから、今の私たちには抵抗らしい抵抗もできないけど。


「ほほお、そやつらが“伝説の勇者”を騙る不審者か、確かに男好きのしそうな顔をしとるわ」


卑下た目線でジロジロと私たちを眺め回す領主、ひょろりと背が高く、長い黒髪のオールバックはいいとして、まるでヤクザ映画にでも出てきそうなガラの悪い顔つきだけは勘弁して! って感じ。歳は…三〇歳前後かな?

それに金銀派手な刺繍の入った赤いスーツに同色のマントって、ほんとに合わないと思う。


「本物なんですけど…」


わざと領主に聞こえるレベルでボソリと呟く。


「はあ? なにか言ったか小娘!? この国じゃなあ、偽証罪は死刑なんだよっ! だからお前らも死刑! わかったかっ!!」

「そ、そんな…!?」


領主の一方的な剣幕に、思わず後ずさりする私。でも兵士に後ろを塞がれているので、ほとんど後ろにはいけなくて。


「お言葉ですが領主様、それは正規の尋問をしてから下される判断かと!」

「言うではないかクルーゲ! お前の立場は何だ! 言ってみろ!?」

「はっ、ラゲルタ防衛軍第一二大隊大隊長、階級は中佐でありますっ!」

「ほほお、君はそんな階級だったのかねクルーゲ二等兵君?」


…それって、一種の降格予告、つまり脅迫じゃないの?

おかしいよ、絶対変だよこの人! きっとまじめに尋問する気もないんだよ!

きっ、と領主を睨みつけ、私はクルーゲと呼ばれた士官にそっと頭を振る。

私のためにもう犠牲を増やしたくないの。そのためにもきららも何とか助けてあげなきゃ。

でもどうしたらいいんだろ…


「ふんっ、そいつらを地下牢に放り込んでおけっ! 処刑は明後日の正午だ!」


領主の命令に、半ば不承不承という感じで兵士たちが私たちを連れて行く。

再び地下牢へ、でも兵士たちの手つきがさっきまでと違ってひどく優しい。


「すまぬ、任務とはいえこのような目に合わせてしまった。前の領主であれはもっと誠実な対応をしてくれていたのだが、今のネロ公は何かにつけてあの調子なのだ」


悔しそうに詫びてくるクルーゲ、相当思うところがあるんだなあ、とは思うけど、どうせ私は死ぬつもりだったんだし、もういいの。

でも…


「私はどうなってもいいから、このきららだけでも助けてあげられないかしら?」

「えっちゃん何言ってるんだよっ!?」


私の提案にきららが猛抗議してる。やばいよ、この調子だと一緒に死ぬなんていいそうだよ。


「もともと私は死ぬつもりだったんだし、きららは普通にログインしてきたんでしょ? だから戻る権利はあると思うよ?」


言って気づく。ここにはベッドがあるじゃない!


「きららはここでログオフすればいいじゃない、ほら、それで二度と戻らなきゃ殺される心配もないんだから、ねっ!」

「えっちゃんもログオフするなら…」

「ごめんね、私はそれができないみたいなの。不具合か何かよくわかんないんだけど、ログオフボタンそのものがなくなってるから」

「じゃあさ、一緒に逃げよう? 私たちが助け合えばなんとでもなるじゃないっ?!」

「ダメよ、そんなことしたらここの兵士さんたちがひどい目にあっちゃうもの!」


しばらく言い合っていた私ときらら、そばで聞いていたクルーゲさんが何かとっても辛そう。


「話を聞いてると君たちが本物の勇者たちなんじゃないかって思えてきたよ、確か漆黒の姫君ノワールプリンセスが自己犠牲的な性格の持ち主だったと聞いている。容姿も伝承にある姿そのままだしね」


二人の会話が止まったのを見て、静かに語り始めるクルーゲさん。うわっ、やっぱり気を遣わせちゃった。私のために人が苦しんでるのはもう耐えられないのに。


「あの…気にしないで、もともと私は死ぬつもりだったの、だからこれですっきり出来れば満足だから」

「えっちゃん何言ってるのよっ! あんたまだ死ぬつもりだったのっ!?」

「もういいのっ! 私のためにみんなが苦しむのは、もうたくさんなのっ!!」



「そっか、えっちゃん昔からそうだったもんね、私とりあえず行くけど、絶対戻ってくるからねっ!」

言ってベッドに横になるきらら。ログオフのためにメニューを呼び出し…あれ?

「…ログオフボタンがない…?」


え? ログオフ出来ないの、私だけじゃなかったのっ!?


------------


「さぶっ! これじゃ風邪引いちゃいそう!」


慌ててウエストポーチから毛布を取り出し、身体にかける。


「お、おい! 今の何の魔法だ!?」


いきなり毛布を出した私に、びっくりして聞いてくる見張り番。

あれ? みんなほんとにウエストポーチのこと知らないのかな?

うーん、変に詮索されても困るけど…そだっ♪


「うん、これ魔法なの♪」


言ってにっこり、ちょっと小首を傾げて上目遣いに見上げてあげる。

まあ、これは口うるさい男性上司に対する常套手段なんだけど。

いきなりへなへな~っ、と腰砕けになる見張り番、やばっ、ちょっとやり過ぎたかも!


「おいお前、大丈夫か?」


もう一人が慌てて腰砕けの一人を引き起こしてる。腰砕けさんは「萌ええぇぇぇ…!」とか言ってるけど、それって何?

あ、私は見張りを篭絡なんて卑怯な真似はしないけどね!

と…

がくっ!

駆けつけたもう一人がいきなりへなへなと崩折れる。続けて「萌えぇぇ」とかやってた一人も。


「何? どうなってるの?」

「やっぱあんたらだべか?」


…この口調、どこかで聞いたような…?

長身の灰色服を着た男は天井から音もなく舞い降り、カチャカチャと鉄格子の鍵をこじ開ける。あっさり開く鉄格子。


「エステルときららだべ? 急がねえと衛兵に見つかるべ!」

「あ、うん」


急いで私はきららを起こす。ちょっと豪快な寝相の彼女は、ちょっと揺すったくらいじゃ起きそうもなくて。


「うーん、どうしよ?」


ちょっと考えて、耳元に顔を近づける。そ~っと息を吸って

ふうぅぅ~っ!

やさしく耳に吐息を噴きかける。秘技、桃色吐息っ♪


「ひゃうっ!」


あ、起きた。


「な、なにっ? 今の何っ!?」


きららったら混乱してキョロキョロしてるよ?


「早くここから出るべ!」


灰色服は焦れたように私たちを急かす。急いで牢から出る私ときらら。

静かに上の階へと駆け上がる。深夜だからか衛兵の数もまばらで、注意してればそうそう見つかりそうにないのがいいよね。

廊下の角にたどり着くたびその先を伺う灰色の服の男。なんか手慣れた動き、というか、それが天職みたいな動作なんですけど…

なんか覚えあるのよね、この動き。それに、なんか変な口の聞き方。そういえば灰色の服は別にいいけど、なんで頭までそれかぶってるのかな?

というか、…これって忍者装束?


「まさか…ねえ」

「どうかしたべ?」


つい漏れたため息に、怪訝そうに灰色服が振り向く。三〇歳前後? のちょっとがっしりした顔と体つき、その目の下にはいくら寝不足でもここまでつかないでしょ? というほどの大きなくま・・、それって…確か…


「誰かなーってさっきから悩んでたんだけど、やっぱグレイだったんだ♪」

「久しぶりだべ」


きららの嬉しそうな問いかけに、ちょっと無愛想ながらも照れたように答えるグレイ。


「じゃあ他のみんなも一緒なの?」

「それは分からねえべ、とにかく続きは脱出してからだべ」

「そうよね」


------------


「…じゃあグレイってあの武器屋の騒動から私たちに気づいてたの?」

「いや、おめえらが案内所で出会った辺りから、だべ」


場所は変わって路地裏の小さな宿屋、その二階に部屋を取った私たちは、こうして再会の積もる話に盛り上がってたり。


「けどグレイって変わんないねー! 相変わらず口下手でさ!」

「…ほっとくだべ!」


あれ? きららの冗談を真に受けたのか、グレイさん拗ねてるよ?

ともかく、と互いにログインまでの経緯を話しあって、それぞれ近況報告とかもした私たち。どうやらグレイには、結婚も視野にいれている彼女がいるとかいないとか。

きららはこの性格だからみんなとまたまだ楽しくやりたいらしく、特定の彼氏は作らないんだって。逆に私は…はうぅぅ…


「ほらほら、えっちゃんは落ち込まないのっ!」

「ぐすっ、だってぇ…」

「だってもへったくれもないのっ! あんたは甘やかすとすぐくよくよ落ち込むんだからっ!」


ううっ、すっかり見透かされてます。やっぱ付き合い長いものねえ。


「そう言えば…」


ふっとなにか気づいたように、きららが言葉を切る。


「どしたの?」

「グレイって今日ずーっと私たちのあとをつけてたのよね? お風呂入ってた時どうしてたのかな? と思ってさ…」

「銭湯の屋根裏にいたべ? それが…」


きららの質問に答えかけてはっと気づくグレイ。もちろん私たちの表情は説明しなくても分かると思う。


「わ、悪気はなかったべっ!」

「見たんだねっ!?」

「え…その、ちらっとだべが…」

「ちらっと…ねぇ?」

「…すんません、ずっと見てただべ…」


ジト目で詰問していたきららに、ついに根負けしてしおらしくグレイが謝ったんだけど、そんなことでは乙女の純情は癒せない。絶対許してやらないんだからっ! と、これはきららの代弁ね。


「いやらしいことを考えてたのはこの頭かあ!?」


きららの両拳がグレイのこめかみ辺りでグリグリ言ってる。半分涙目で私にグレイは救いを求めている。


「も、もう許してあげようよきらら、せっかく私たちを助けてくれたんだし、それに、減るものでもないし…」


私のフォローに少し嬉しそうな表情を見せたグレイだけど、きららのグリグリ攻撃は終わらない。


「減るもの? 私は構わないんだけどねー、えっちゃんは減るとすご~く困るでしょ?」


ぎくっ!


「や、やーねぇ、そ、そそそんなこと、ないこともないけど…」

「えっちゃんったら自分で認めてる! かわいいんだからっ♪」


その会話で気が緩んだのか、ついグレイから拳を離すきらら。グレイは必死にグリグリされたところをさすったり首をひねったりしてリハビリを始めている。


「でも牢屋の臭いついちゃったね、服がちょっと臭ってるぅ」

「ほんとだ! これはもっかいお風呂入らなきゃだねー」


二人で話し合いつつ、しっかり目線はグレイに。びくっ、とたじろぐグレイがなんだかかわいかったり。


「「というわけで、お留守番お願いね♪」」

「わ、わかったべ…」


しょげながら返事をするグレイに満足して、私たちは宿の浴場へと向かった。

続けての定番キャラ登場なのですが、ちょっと出現タイミングが早かったでしょうか?

この人はもっとクールな仕事人なのですが、きららがこの性格なのでこういう展開は仕方ないかなと。

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