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5,きらら

 翌日は半ば強行軍でラゲルタまでの道を歩いた私たち、道中は特に変わったこともなく無事だったのはよかったけど、クラトス防衛戦の話をしつこく聞かれて困ったっけ?

けと、なんであれから八五年経ってるなんて…


「はぁ、それじゃみんなに会うことはできないよね…」


ちょっとだけ知り合いに会えるかなって期待してたのに…

私の悩みなどお構いなしで、ラゲルタの街は私たちに向けてどんどん近づいて…じゃなくて私たちが近づいてるんだよね。

ここラゲルタの街も、私が以前住んでいたクラトスに負けないくらいの巨大な城塞都市だった。

外周に沿っていくつも並ぶ、分厚い角楼は高さ、幅とも一〇メートル余りの巨大なもの。

その角楼を繋ぐように、一〇メートル近い高さの城壁が高くそびえ、見るものを威嚇する。

私たちの正面に向いている楼門も、今は巨大な門を開いて私たちを待っている。


「それじゃ、またいつか…」

「うん、またね~!」


門の前で三人と別れ、私は門の守衛所に向かう。

名残り惜しそうな様子で私を見送る三人だけど、目的地が違うものね。

ってか、私の目的自体まだわかんないもの。


「私、何がしたいんだろ?」


考えれば考えるほど分かんない。元々私はここに来るつもりじゃなく、死ぬつもりだったのに…


「クラトスのエステルです、一時滞在のために着ました」


私の申告に守衛たちが目を見合わせる。


「クラトスって、あのクラトスだよな? 八十年前に滅亡したっていう…」

「ああ、確かにそうだ。けどなんで今時クラトスなんだ?」

「さあ?」


そのまま守衛二人はお互い顔を見合わせたまま。

かと思っていると、改めて私の姿をジロジロ眺め回している。


「そういやクラトスって、あの英雄伝説の地じゃないか?」

「ああ、確か漆黒の姫君ノワールプリンセスって言ったよな? 黒いドレスに栗色のロン毛の…」

「黒いドレスに栗色のロン毛…? まさか!?」


また顔を見合わせて冗談っぽく言い合っていた二人が、また改めて私をじっと見つめる。

…私、いつまで待たされるんだろ? それ以前にジロジロ見つめられるのもけっこう恥ずかしいものがあるんですけど。


漆黒の姫君ノワールプリンセスのエステルですっ! これでいいですかっ?」


半ば自暴自棄で再度申告。再び守衛たちは顔を見合わせる。


「ま、まさか! あれ八五年前の話だぜ? 生きてるわけ…な…い…」

「確かに黒いドレスに栗色のロン毛、超美人だし…」

「ま、ま、まさか…!?」

「「お、お化けがでたあっ!!」」


悲鳴を上げるなり一目散に逃げ出す守衛たち。って、それじゃ守衛の意味ないんですけど?


「はうぅ…」


仕方ないので入門票に自分でサインする。名前は…面倒だからエステルでいいよね?

なんか疲れた…

大通りをとぼとぼ歩く。ここラゲルタも巨大都市だけに通りの往来も半端じゃ無い。

けど、ここでクラトスのことをどうやって調べればいいんだろ?

遠い昔の話になっちゃった以上、みんなには会えないのかな?

まあ…悩んでても仕方ないよね、誰かに聞かなきゃ。

とりあえず周囲をきょろきょろ、あれは案内所かな?

ひとまずあそこで聞いてみよ。

小さな天幕を貼った案内所には、たくさんの付箋を貼った掲示板と城内の地図、そして若い受付嬢が二人。

さらに何やらそこで話し込んでいる、赤いドレスを着た若い女性が一人。

あの服、なんか見覚えあるような… ま、いっか。


「あのぉ、ちょっと聞いてみるんですけど…」

「はいはいラゲルタ城内案内所へようこそっ♪」


私の呼びかけに明るく答える受付嬢。青いミニ丈のメイド服がけっこう似合う、さわやかタイプの美女みたい。


「クラトスのこと聞きたいんですけど…」

「え? クラトスですか? 八〇年前になくなっちゃいましたけど…?」

「それってどの辺だったのかな?」

「ここから北に歩いて三日、くらいの場所たったはずですけど?」


え…? じゃあ私が最初に着いた場所って、クラトスだったんだ!


「じゃあクラトスにいた人って、今どうなっていますか?」

「末裔の方はあちこちにいると思いますけど、当時住んでた人は今いないと…!」


あれ? 受付嬢の顔がなんかおかしいような…?


「クラトスにいた人って?」


隣の赤いドレスの人がこっちを向く。赤いポニーテールに天真爛漫とした表情の若い美女。

歳はたぶん私と同じくらいで、私の服とそっくり色違いの赤いドレス…?

これってなんか見覚えあるような…??


「ま、まさか…えっちゃん!?」

「え? もしかして…きらら?」

「「……」」


呆然とお互いの顔を見つめ合う私と赤いドレスの美女。そして私たちを不思議そうに見比べる受付嬢たち。


「う、嘘…だよね?」

「ありえないですよね?」


疑いつつも改めて互いの顔をじっくり見比べ…


「「やっぱりそうだ!!」」


二人で納得しあうと再会のうれしさについつい抱きあう私たち。


「ふええっ、会いたかったですうっ!」

「あたしも会いたかったよおっ!」


------------


「そっかあ、えっちゃんそんなつらい経験しちゃったんだ…」

「うん…」


場所は変わって、ちょっと小奇麗なレストラン。奥まった小さなテーブルに着く私ときらら。

さすがにこんな隅の方には誰も来ないので、とりあえず聞き耳立てられる心配はないかな?

私はここにやってきた経緯をきららに説明し、それをきららが聞いてくれたとこ。逆にきららは引退はしてたんだけど、なんか急にこのゲームにログインしたくなってここに来たんだとか。けど、大学生のきららがゲームやってるというのは別に問題ないとして、なんで死んだ私とコンタクトが取れるのかな?

まさか私、まだ生きてるんじゃないよね? アパートにはちゃんと鍵もかけたし、暴行を受けたあとに出会ったのは孝志だけ。その孝志も私を追いかけては来なかったし、もし来たとしても部屋の鍵は持ってなかったはず。逆に言うともし私の死体の発見が遅れていたら、それは荷馬車の二人より更に惨めな姿になっていたはずで…

ううっ、そう考えるとすごく惨めな気分。早く見つけてて欲しいような、それでいて見つけてほしくないような…


「そう言えばきららってまだ生きてるよね?」

「もちろん! 死んでなんかいないよ?」


不思議そうに私に問い返すきらら、やっぱそうだよね、死んでたら辻褄合わないもん。

じゃあ死んでるはずの私は? なんでここにいるの? やっぱり生きてるのかな?


「やっぱテンション低いねー」


心配そうに私の顔を覗き込むきらら。と思うと、いきなりにぱっ! と目の前で笑ってみせたり。


「えっちゃんのキモチ・・・もわかんなくはないんだけどねー」


ついには私と同じようにしょげてしまうきらら。けど…しょげるなんてきららには似合わないよぉ…


「あ、あのっ!」

「…なに? えっちゃん」


何とか元気づけようと声をかけた私に、きょとん、と不思議そうな表情を見せるきらら。


「きららがしょげちゃったら、私どうすればいいかわかんないよぉ!」


おろおろしながら私はきららを元気づけようと必死なんだけど、あ、涙出ちゃいそう…


「うふふっ、やっぱその辺はえっちゃんだねぇ♪」

「え…?」

「だって自分の心配より先に、人の心配しちゃうんだもん!」

「そ、そうなのかなぁ?」


いつものきららに戻ってくれたのはいいけど、逆に私が困っちゃった。言われてみれば、私困ってる人がいるとついつい手を差し出してあげたくなっちゃうのよね。


「でも素敵な性格だと思うよ? だからみんなえっちゃんの事好きなんだし!」

「そ、そう…?」

「けど今回は気を使いすぎて疲れちゃったのかもしれないね、たまには自分の心配もしなきゃね!」


うーん、やっぱそうなのかな? 自分の心配って言われても、私けっこう引っ込み思案だから…

はううぅぅぅ…


「ほらほら、落ち込んでても何も始まらないよ? とりあえずお互い汗かいてるからお風呂入って、お買い物でも行こっか!」

「そ、そうだね」


------------


「よく考えたらお風呂は三日ぶり…かな?」

「きったなーいっ! って、なんにもない所三日間歩かされちゃったもんねえ」


とか言いつつ、銭湯を探す私たち。とりあえずさっぱり出来ればいいかな? ってことでごく普通の銭湯を選んでみたけど…


「はううぅぅ…」

「えっちゃんどしたの?」


やはり越えられない壁がある、ということをまじまじと見せつけられた私。


「もしかして…バストサイズ、かな?」

「ぐすんっ…」

「ま、まあ…そだね、あんまり大きすぎるのも大変だよ? 年取ると垂れてくるらしいし、重いし、形も崩れやすいし…」

「まあそうなんだろうけどぉ…」

「ってかえっちゃん今バストサイズいくら? 少しは成長してるんじゃない?」

「えと…六五のC…」

「なんだー、やっぱ成長してるじゃん♪」

「そういうきららはけっこうおっきくなってるでしょ?」

「私は…七〇のE、かな?」

「…」

「そこそこ、僻まない僻まない! 逆にえっちゃんくらいのサイズが好みって人、多いの知らないのかな? 形もすっごいキレイだし」

「そう…かなぁ…」


とまあ、ちょっとえっちな会話になっちゃったけど、相変わらずきららはメリハリのあるグラマーボディがすごいよねぇ、私は胸のサイズから分かるようにまだまだ子供っぽいスタイルだし、背もちっちゃいし。


「きららって身長今いくらあるの? 一六〇センチくらい? 私、一五〇で止まっちゃったんだけど」

「私は一六二センチかな?」

「いいなあ…」


ま、そういうわけで、相変わらずコンプレックスの塊だったりする私。美人美人って言われてるけどロリ体型なのよねえ…

ともかく、久々のお風呂を満喫した私たち、シャンプーやコンディショナー、おまけに脱衣場にはドライヤーまであるのにはちょっとびっくりしてたり。

やっぱ時代の変化かなあ。


------------


「次は服買いに行こう! なんかわたしたちの服、浮いてるみたいだから!」

「そだね♪」


というわけで、女の子といえばやっぱファッション! とちょっとおしゃれっぽいブティックに顔を出した私たち。


「うわあ、あの頃とは品揃えも一新されてるねぇ!」

「ほんと、なんか平成大不況の頃のファッションって感じ? 私たちのがすごく古臭く見えちゃうね」

「ほんとほんと! すっごい様変わりだよね~♪」

「うんうん!」


ゲームを始めた頃とはぜんぜん違う品ぞろえに、ついつい派手に驚いてたり。

この辺も時代の変化かな?

…あれ? なんか妙にみんなの注目集めてるような…?

私がくるりと振り返ると、周囲の目線が一気にあさっての方を向く。私が商品に目を戻すと、またチクチクと振りかかる視線。


「…だーるまさんがーこーろん、だっ!」


二人でこっそりタイミングを合わせて、一気に振り返る!

…あ、みんな慌ててる♪


「うふふっ」

「くすくすっ」


みんなの狼狽ぶりに、ついつい笑っちゃう私たち。やっぱみんな、私たちのこと見てたのね。


「下着とかも買い込まなきゃだし、やっぱ人並みのおしゃれもしたいね!」

「そうよねぇ、おしゃれもいいよねぇ」


いろいろ服を見比べてみたりして、あれこれアドバイスしたりして、ちょっとはしゃぎ過ぎかな? とか思ったりもするけど、たまにはいいよね♪


「ねえねえ、こういうのどう?」


きららが選んだのは、Tシャツの上に赤いサマージャケット、ジーンズのショートパンツ、いかにも彼女らしいアクティブなもの。そして私は茶色のロングキャミソールに黒のミニ丈フレアスカート、それに黒のカーディガン。


「やっぱ自分色出ちゃうよね」

「ほんとだね♪」


お互いを評価したりして、ひとしきり満足した私たちは、今度は武器屋へ。もちろん互いの評価はなかなかの高得点だったけどね♪


「うわっ、前のと武器が全然違うよ?」

「最近は剣とかあんまり使わないのね?」


武器屋の陳列棚はメインが銃の類いに移行してて、剣や槍といった近接武器はせいぜい三割、といったところ。銃は拳銃ピストルから小銃ライフル、果てはロケットランチャーバズーカまであって、もう選ぶ基準が全然違うのね。


「こりゃきれいなお嬢さんたちだ、伝説の勇者も泣いて逃げ出す美人さんだね! ささ、うちの武器は全て一級品だよ! サービスするから買った買った!」


店の親父さんが調子のいいことを言って武器を買わせようとしてる。けど銃の類いは使ったことないし全然わかんないの。


「どうしよきらら、私銃は全然わかんないよ」

「えっちゃん、そういう時はオススメ武器を聞くといいんだよ♪」


ついついきららに泣きつく私に、ニッコリ答えるきらら。そだね、確かにそれ言えてるよね♪


「きらら? きららってえと伝説の勇者の一人にいたねえ、両親は勇者の大ファンだったのかね?」

「まさか! だってそのきららが私だもん♪」

「お客さん、冗談言っちゃいけねえよ、だいたいあれ八五年前の話ですぜ?」

「そだよ? だってアタシたち、その八五年前から来たんだもん!」

「ね、ねえやめようよぉ、どうせ信じてもらえないし…」


という私の忠告を無視して武器屋の親父さんと押し合い問答しているきらら。と、親父さんの目が私、正確には背中の聖なる双剣ラ・カリボールに釘づけになり…


「お、お客さん、そ、その武器はまさか伝説の双剣、”真・ ツインカリバーン”じゃ…!?」

「これはその最終強化版、聖なる双剣ラ・カリボールですけど?」

「…!!」


…あれ? 親父さん固まっちゃってるよ?


「この武器がどうかしたんですか?」

「そいつは…あの伝説の二人の勇者しか持ってなかったという、失われた武器だよ、あんたどこで手に入れなさった!?」

「もともと私の武器ですっ! ちゃんと双牙巨熊カリバーン・ベア狩って素材手に入れたもの」

「…うそだっ! だって双牙巨熊カリバーン・ベアは七五年前に絶滅して…ってまさかあんた…?」

「クラトスのエステル、ですけど?」

「で、でで伝説の勇者が、ふ、二人!!」


あらら、親父さん腰抜かしちゃった…

けどそのせいか私たちの周り、つまり店の前にはすごい人だかり、ううっ、またこんな事態になっちゃうなんて!


「おい、あれ漆黒の姫君ノワールプリンセスと、真紅の妖精ルージュフェアリーらしいぞ!」

「まさか! あれ大昔の人だぜ? けどすっげえ美人だよなっ!」

「伝説の勇者もすごい美少女だったらしいから、案外事実だったりしてさ!」


うわあ、なんかすごい噂になってるよぉ!


「きらら、もうここ出よう?」

「そうだね、これ以上はいない方がいいかも」


私は目立つ聖なる双剣ラ・カリボールをウエストポーチに仕舞うと、急いできららと店を飛び出し、裏路地へ逃げ込む。どうやらやじ馬たちはついて来ないみたい。


「目立つのも困り者だねえ」

「ほんと、きららが美人過ぎてすごく目立ってるんだもの」

「はぁ、あんたまだ自覚なかったのね? 美人過ぎるのはあんたでしょっ!?」

「私美人なんかじゃないよぉ!」

うっ、これは険悪なパターン、ここで喧嘩してる場合じゃないのに。


「おいっ、お前らだなっ? 伝説の勇者をかたる不審者というのはっ!?」


高圧的な怒声、私たちは詰め襟学生服のような一団に囲まれ、十挺余りの機関銃を向けられていた。


やっとメインキャラクターの一人が登場しました。

前作を読んでいただいた方なら二人がどういう関係だったかも知っておられると思いますが、まあ、こんな関係です(笑)

きららはこのストーリーのムードメーカーなので、これからの活躍を作者自身も楽しみにしています。

あと、参考までに…

女性ブラのサイズは最近はアンダーバストが基準になっています。

だいたいカップサイズはアンダーバストとの差が5cmごとに1つずつ上がるので…あとの説明はもういいですよね。

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