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4,道程

「やっぱ遠いなあ…」


午前中を休まず歩いた私は、それでも全く先の見えない旅に音を上げかけていた。

なんで私、こんなに頑張ってるのかな? 楽になりたかっただけなのに…

倒木に腰掛け、ポンの村で貰ったパンを一口、それだけで「この世界で生きている」ことを実感する。

現実世界ではもう死んでるはずなんだけど。

手首を切った時の、あの身をえぐるような激痛が思い出される。今ここで、もう一度手首を切れって言われても、きっと怖くてできないと思う。

ほんと私のどこにあんな勇気があったのかしら?

歩き通しで引きつりだしたふくらはぎを揉んだりしながら周囲を見回しても、ただ広い草原が広がるばかり。せめて道でもあれば、少しは気が楽になるんだけどな。


「あれは…?」


よく見ると馬の蹄と車輪の通った跡が続いている。これは昨日私を助けてくれた二人連れの荷馬車のわだちかしら?

幾分疲れも引いてきたので、轍を追って歩くことにする私。あの二人が向かっていた先がラゲルタじゃなかったとしても、沢山の人がいる場所には近付けるはずだから。


------------


あれから二時間ほど歩いたかと思う。見覚えのある馬車に気付いて、私が急いで駆け寄ってみると


「な…なんで…!?」


そこには鋭い刃物か何かでめった刺しにされた二人の遺体と、馬とめぼしい荷物を持ち去られた馬車があるだけ。

二人の苦悶に満ちた表情が、私の胸に突き刺さる。


「なんで? どうして? これゲーム世界じゃないの!?」


私のプレイしていたあのゲームは、プレイヤーキャラであれノンプレイヤーキャラであれ、死んでしばらくすると霧のように消えていた。モンスターも同じで、消え去るまでに、どれだけ素材が剥ぎ取れるか仲間と競争したりもしていたはず。

でもそこには血まみれで冷たくなった二人が、何も言わないまま横たわっている。

これじゃ、この二人は私の身代わりに死んだみたいじゃない!

涙がぽろぽろ溢れてくる。もしこの二人があの時声をかけてくれなかったら、私がこうなっていたのかな? だとしても、こんな死に方なんて、あんまりだよっ!

しばらく泣いて、ふっと気づく。さすがに二人をこのままにしておくのはかわいそうだと。

荷馬車を見ると都合のいいことにスコップが載っている。これで穴を掘って埋めてあげればいいよね。

使い慣れないスコップで地面を少しずつ掘って行く。草の根が絡んだり、石があったりと穴掘りは大変だったけど日が暮れる頃には何とか二人が入れそうな穴が出来上がった。

二人の遺体を引いて穴に入れ、瞳を閉じてあげる。固くなっていた腕を何とか組み合わせ、お祈りの姿勢をとらせて…


「あなたたちは私の命の恩人です、安らかに眠ってください…」


両手を合わせて二人の冥福を祈っていると、また溢れてくる涙。それを振り払うようにしながら二人に土をかけていく。

埋葬が終わって手を見ると、手の平にはいくつものマメができ、そのいくつかは皮が剥けてしまっている。


「痛いっ!」


一つに触れると、けっこう痛かった。思い出したかのように、残るマメもズキズキと痛みを訴えはじめて、何か治療しないときっと耐えられないよぉ。

痛みを必死に堪えながらウエストポーチを探ると、やり慣れたゲームと同じ回復薬ポーションが見つかった。まあ定番アイテムだったから、引退の時も片付けるの忘れてたんだと思う。

手の平に軽く振りかけると、マメは見る見る小さくなり、元の真っ白な手に戻った。痛みももう無いみたい。

けど、肩や腕は疲れすぎてガタガタ震えてるし、腰もギシギシ鳴っているみたいでしばらくは歩けるとは思えなくて。

略奪でほとんど何も無くなった馬車の荷台に横たわり、少し仮眠と思った私は、そのままいつしかぐっすり寝入っていた。


------------


ガサガサ…

何か物音がする。

何かが草を踏み分けているような、そんな物音。

気付かない振りをしながらそっと脇に置いた聖なる双剣ラ・カリボールをたぐり寄せる。

足音は確実にこっちに近づいている! 人数は…三人くらいかな?


「誰かいるぞ!」


一人が私に気付いたらしく、残りに警戒を呼び掛ける。

ゆっくりと近付く足音たち。


「あなたたち誰っ!?」


間合いを読んでガバッ、と起き上がる。もちろん手には抜き身の聖なる双剣ラ・カリボール


「おわっ!」


一番近くにいた若い男が、私の反応に驚きたじろぐ。けどよく見ると、小綺麗なシャツにベスト、ズボンを着ていて、とてもじゃないけど人殺しをするようなタイプには見えない。


「ぼ、ぼぼ僕たちは、ただラゲルタに向かっているだけの旅人ですっ! 命だけは取らないでっ!」


悲鳴を上げつつ後退りする男だけど、どうも最初から武器は持ってなかったみたい。残る二人も護身用くらいにしかならない細身の片手剣だし。


「ダイジョブ、襲って来ない限り私も手は出さないから」

「え…女の人…?」


互いにゆっくりと武器を納めて穏やかに語りかける。

だいぶ暗くなっているから互いの顔はよく見えなくて…


------------


「すごい美人…」


声をかけてきたのはまだ少年たちだった。

その辺の木切れを集めて焚き火をしながら、私たちは互いに自己紹介をした。


「クラトスの街に住んでいたエステルといいます」

「ラゲルタのキースといいます。そっちのひょろっとしたのがカイ、ちっこいのがタスク」

「「ども」」

「けど、こんなとこでこんな美人の人に会うなんて…!」

「え…?」


呆然と私を見つめている三人の目線、恐怖までは感じないけど、そんな目線で見られると私もちょっと恥ずかしいかも。


「そ、そんなこと…ないよ…」

「いや、すごい美人だと思う! あの伝説の美少女剣士みたいに!」

「うんうん! あの人、なんて呼ばれてたっけ?」

漆黒の姫君ノワールプリンセスじゃなかったか?」

「「そうそう、それだっ!」」


…それって…、まさか私!? 伝説になってるなんてうそだよね…?


「そういえばその人、なんで漆黒の姫君ノワールプリンセスって呼ばれてたんだ?」

「確か黒いドレス着てたからじゃ? って…黒いドレス??」


三人の目線が、再び私に集中する。


「やだっ、そんなに見つめないでよ!」

「この人も黒いドレスだ…!」

「ほんとだ…」

「そういえばあの伝説って失われた街・・・・・のクラトスだったよな?」

「確かそうだよな?」


まさか…それじゃ、ほんとにあのゲーム世界なの? けど、漆黒の姫君ノワールプリンセスっていうのは赤の他人だと思うけど。


「その人の名前、なんて言ったっけ? きらら?」

「その人は真紅の妖精ルージュフェアリーだろ?」

「じゃあ…プラム?」

「それは氷塊の女王フロストクイーン!」

「じゃあ…エ、エ…なんだっけ?」

「「エステル!!」」


三人はそこまで盛り上がっておいて、互いの顔を見合わせると


「「「え? じゃあ…この人!?」」」


改めて私の顔をジーっと見つめる。

やっぱり私のことなのかな…? だとすると、なんで私が伝説の美少女剣士なんだろ?


「き、きっと別人よ! 伝説になるくらいだからずっと昔の話でしょ?」

「そ、そうだよな! いつの話だっけ、クラトス防衛戦って…確か、五〇年くらい前?」

「いや、今が大陸歴一二八五年だから…八五年前だ!」

「だよなあ、そんな昔の人が生きてるわけないもんな!」


なんか勝手に納得しちゃってる。って…クラトス防衛戦って、私たちの戦ったあの起源龍エレメンタル・ジェネシスから街を守った戦いだよね? 二人の名前も一緒だし…

って…今なんて言った? 確か…


「あ、あれから八五年!? 起源龍エレメンタル・ジェネシス撃退戦から?」

「そう、八五年…って、なんかその戦いのこと知ってるの?」

「え…?」


けど、話の辻褄は合ってるのよねぇ…


「知ってるといえば、知ってるけど…」

「「「うそっ!?」」」


仕方ないので私はあの戦いで知ってることを全部彼らに話すことにする。


「ま、まじかよ…?」

「やっぱりあの、漆黒の姫君ノワールプリンセスだったんだ…」

「ちゃんと話も通ってるもんねえ」


三者三様に納得しあっている。つまり、私がその伝説の美少女剣士になっていることは確かみたい。


「けど、クラトスが失われたってどういうこと?」


さっきの三人の話で疑問に思ってたことを私は聞いてみる。少なくとも私がプレイしていた頃にはそういう兆候はなかったはずだもの。


「皇帝派と独立派とで大きな戦争があってさ、皇帝派に攻め落とされちゃったんだよね」

「そうなの…あんなに大きな街だったのにね」

「らしいね、トラビア地方でも三本の指に入る大都市だったって聞いてるよ?」

「じゃあ住んでた人たちはどうなっちゃったの?」

「大抵の人が逃げ延びたらしいけど、みんなバラバラになったらしいよ? まあ今じゃ生きてる人もいないと思うけど」


うーん、なんかわかんなくなってきた、これってゲーム世界だったら死ぬとか寿命とか関係ないと思うんだけど…

妙に現実っぽい話しぶりなんだよね、この子たち。NPCノンプレイヤーキャラクター特有の名前と職種の頭上表示もないし…

まあ、ラゲルタに行きさえすれば少しはマシな情報が手に入るかも。とにかくそれにはまだまだ歩かなきゃだから、しっかり休んでおかなきゃね!


「今日はもう寝ておかないと、明日が辛いかも」

「そうたよね、明日も早いんだし、寝よっか?」

「「そうだね」」


というわけで、私たちはそれぞれ毛布にくるまり、交代で寝ずの番をしながら夜の明けるのを待った。


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