ギルドに登録
その後、朝食を終わらせたアカリ達はすぐさま行動に移った。
まずは全員で農業ギルドに向かってカケルの家のある場所の土地をすぐさま買収した。カケルの両親に対しては余計なお世話かもしれないが、あとで文句を言われて家を失っては笑い事では済まないので、みんなで話し合って決めた。そのために六人とも説得に回り、カケルの両親の言い分をすべてねじ伏せた。
ちなみに購入資金はEKOで溜めたお金を少し質屋に売って、無理やりにでも作った。カケルの家が建った土地は土壌の栄養価がそれなりに高く農作物が育ちやすい農業家において一等地だったので、土地自体がかなり高額だったものの、そこはEKOの上級プレイヤー、保持している金額が金額なので六人からすれば然したる額でもない。
カケルの家の件が終われば、本格的に動く必要がある。
ゲーム時代には全員冒険者で登録していたので、今回もとりあえず全員で冒険者ギルドに登録する事は決めていたので、全員で冒険者ギルドに向かった。
受付と書かれた場所には一人のギルド職員がいたので、ルサルカが代表して話しかける。
まあアカリは言葉が足りないのでちょっとした勘違いを呼びやすく、カケルは馴れ馴れしいのでこういった場には向かない。イサムは少し話すペースが遅いので却下。ルカは「~なのです」口調で少し変わった敬語に聞こえ、サナは言葉訛りがあるので、当然と言えば当然であるが。
冒険者ギルドの内装は西部劇のバーみたいなものだが、あれほど荒々しさを感じさせない、事務所みたいな雰囲気がある。しかしまあギルド内でも一応食事や酒類は提供しているようで、出入り口側にテーブルと椅子を無造作に並べ、入り口とは反対方向にカウンターが存在している。
こんな面倒な作りになっているのは、遊び半分で登録してこようとする新人を拒否すると同時に、新しく来た冒険者を他の冒険者達に見させるのが目的である。
話が合えば同じ依頼をこなす事もあるので、その時は生還率も高く冒険者ギルドとしては人材が減ることをなくせるというデメリットを消す事が出来る。
「こんにちわ」
「こんにちわ、新顔のようですね。今日は報告でしょうか? 新規加入でしょうか?」
「新規加入です」
「六人とも新規加入でよろしいでしょうか?」
「はい」
ルサルカが基本的に応対し、アカリ達はギルド職員から登録用の紙を受け取る。羊皮紙のように厚く固めの紙は現代人のアカリ達にとって少し慣れない物ではあったが、この世界である以上文句を言えるはずも無い。
「その登録用紙には特別な魔術が施されていて、嘘の申告をすると文字が消えてしまいます。偽証は出来ないので真実をお書きください」
全員偽証なんてする気は無いので聞き流しても良かった一言だが、アカリだけはかなりの冷や汗を掻いていた。
アカリだけは自分達の名前がプレイヤー名であり、本当の名前ではない事を知っている。プレイヤー名を書いて嘘だと判断されれば、アカリ達は未来永劫ギルドに登録できないのだ。
「えっと、その嘘の判別ってどうやってするんですか?」
「10秒経って文字が消えればそれは嘘だと断じられます。極稀に真実を書いて消える場合もあるので、少し注意が必要であり、一回だけこちらで書き直しをお願いする場合がございます」
とりあえずギルド職員の言葉を信じて、アカリは名前の記入欄に『アカリ』とだけ書く。そして10秒経ち、その結果は――
「はァ、良かったァ」
文字が消える事は無かったので、今使える名前は間違いなく自分の名前だと言う事だ。かなり不安だっただけに安堵する気持ちもひとしおであり、安堵しすぎて思わず全身の力が抜けてしまい地面にへたり込んでしまった。
「アカリ君、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
心配しながら手を差し出したルサルカの手を握り、アカリはルサルカに手伝ってもらいながらも再び立ち上がる。
とりあえず最大の懸念が消えたアカリは急いで残りの欄を埋め始めた。
「皆さん空欄はないようですね。では一人ずつこの水晶玉に触ってください。赤く光った時は残念ながら冒険者ギルドでは登録できません」
この水晶玉こそ過去の犯罪識別の道具であり、たとえ本人が忘れた罪であろうと絶対に捕捉して赤く光る、前科持ちの人間から嫌われている道具だ。発見する犯罪は殺人や窃盗などの重度のものであり、詐欺や草陰で○○(下ネタの為自主規制)することなどは犯罪として探知されない。
最初にアカリが触れ、水晶玉は青く光る。
「……アカリは青か。なら全員大丈夫だな」
色々とツッコミどころ満載であり、反射的にアカリはそう言い放ったイサムに冷たい視線を送る。だがしかし、イサムは何がおかしいと言いたげそうな得意顔を浮かべ、二人の会話が分かったカケルはアカリを宥めるように肩に手を置く。視線はなにか哀れなものを見る目に変わっているので、アカリにとってそれが無性に腹立たしかった。
アカリが内心腹を立てていることなど気にせず、次にイサムが水晶玉に触れる。その後も続いて水晶玉に触れ、当然の如く全員が青く光らせた。
「皆さん問題ないようですね。ではギルドカードを作成する間に御説明いたします。
まずはギルドのランクについて説明します。ギルドではある程度依頼をこなすと同時に昇格試験を合格するとランクが上昇します。登録時には誰もが一番下のFランクから始め、FF、FFFと並んで、最高はSSSランクとなっております」
それはEKOのゲーム設定と同じだったので、説明を聞かずともすぐに理解した。
ゲームでは依頼の中に隠し要素として特定のポイントが設定され、そのポイントが一定値になれば昇格試験を受ける事が出来る。しかしその昇格試験が鬼ルールなので思うようにランクを上げられた人物は限りなく少ない。
「……現在の最高ランクはどれほどなんだ?」
「現在はAが最高です」
「よくあんな昇格試験合格したなのです」
少し意外だったのもあってルカが呟いた言葉に全員首を縦に振った。Aクラス(A・AA・AAAの総称)の昇格試験ははタイムアタックで、カケル、イサム、ルサルカの三人は何回か落ちた経験がある。逆に言えば、アカリ、ルカ、サナの三人は一発で合格したのだが、それはEKOプレイヤー全員の名誉のために黙っておこう。
それを咄嗟に思い出したカケルがギルド職員に聞こえないように聞く。
「ルカって一発合格したよな?」
「それはそれ、これはこれなのです」
カケルとルカの掛け合いはとりあえず無視して、ギルド職員の説明を聞く。
「ギルドカードは一定期間使わなければ自動的に更新が切れます。Fクラス(F・FF・FFFの総称)は一年ですが、その上のEクラス(E・EE・EEE)は二年で更新が切れます。そして更新料として半銀貨三枚がかかります」
「あっ、更新料がかかるんだ」
ゲーム時代にはなかった設定なので、アカリ達は少しだけ意外に感じた。
だが半銀貨三枚ならば少し高いもののしっかりと依頼をこなして行けば払えない額ではない。それに2,3年あればFクラスを抜け出す事も簡単だ。登録したばかりの新人にしっかりと経験を積ませる意味で更新料を設定しているのだろう。
「冒険者ギルドは採取依頼を基本として、モンスターが数多く出現する迷宮の探索依頼があります。薬剤師には薬剤の作成の依頼をまわすこともあるので、薬剤師も冒険者ギルドに登録しています。ですので、モンスターを倒したいと言う動機でギルドに登録されたのであれば、のちほど傭兵ギルドに御登録ください。鍛冶がしたいのであれば戦士ギルド、錬金の技術を使いたいのであれば魔術ギルドへお願いします」
「わざわざ迷宮の探索を出すって事は、この近辺に迷宮があるってこと?」
「はい、この街には迷宮は十三ヵ所存在します。それぞれが独特な迷宮ですが、攻略は捗っているのでギルドに依頼が回る事は多いですよ」
十三ヶ所と言うのは中々多いとアカリは感心し、1000年でどれほど地形が変わったのか驚いた。
ギルド職員は説明することをすべて終え、説明を締めくくった最後に疑問は無いか尋ねる。
「なにか質問はございますか?」
「チームの作成をしたいです」
「Fクラスではチームで組む依頼は無いですが……」
「問題ないです。チームを作ります」
申し訳無さそうに言い出したギルド職員をルサルカがばっさりと切り捨てて、無理にでもチームを作るように言った。
「それでは用紙を渡します。二枚書いて一枚を冒険者ギルドに提出してください」
アカリ達は一度見た事のある用紙でどうやって書けばいいのかすぐに理解した。そんなわけで達筆な二人、ルサルカとイサムが一枚ずつ書き上げ、不意に顔を上げた。
「……チーム名はどうする?」
「そんなの決まってるなのです」
「だな。俺達にはそれしかない」
「オレもルカとカケルに賛成。最初に決めたときも即決だったでしょ」
「せやな。うちも同じ意見や」
イサムの質問にアカリ達はなに馬鹿な事を言っていると言うように笑いながら答えを返していく。
アカリ達の返答を受けてルサルカは一気にチーム名を書き上げ、全員に見せた。
「じゃあ、これでいいのね」
≪大雪原に住まう氷結龍≫。
六人の過去を皮肉った最高で最低の言葉。ちなみにグングニルは≪大雪原に住まう氷結龍≫と言い辛かったので、某カードゲームをもじって付けた名前だ。
全員同時に頷き、≪大雪原に住まう氷結龍≫の名前を受理させた。
「そうですか。ではこれでチームの結成となります。新たに仲間を加入させる場合は再び同じ用紙に御記入ください。それではコレがギルドカードとなります」
六人分のギルドカードを渡されて、アカリ達はそれぞれ自分の名前が書かれたギルドカードを受け取る。
名前:アカリ
ランク:F
チーム:大雪原に住まう氷結龍
ギルド:冒険者
ゲーム時代にはこれにプレイ時間、所持金、現在の装備などが書かれた簡易版ステータスになっていたのだが、現実となった今ではそれらの機能は削られたようだ。
「詳細は見れないか」
一応EKOのステータス画面を見られるとは言え、ギルドカードの簡易ステータスは便利だったので、アカリはショックを隠し切れずにそんな言葉を漏らす。プレイヤー個人で持つステータスウィンドウにも当然ステータスが書かれてあるが、情報量が多いので必要な情報を見たいと思った時には少し不便なのだ。
アカリが漏らした言葉にギルド職員はすぐに反応し、押し売りをする。
「銅貨一枚でステータスを確認できるアイテムを渡しますが、いりますか?」
「一つください」
ギルド職員の言葉にすぐに反応したのは意外にもルサルカで、すぐに懐から銅貨一枚を取り出した。ちなみにこの銅貨はカケルの家の土地を買った残りで、全員が少ないながらも銀貨一枚分のお金を持っている。
ルサルカからお金を受け取ったギルド職員は一枚の付箋のような小さな紙をルサルカに渡した。とても小さいが、ステータスを表示するのには問題なさそうな適度な大きさ。
「現れろと念じる事でステータスを確認できます」
「……ではあとで確認しよう」
自分達のステータスの危険度をよく知っているイサムがそう言って、ギルド職員から離れる。ルカ達もイサムの後に続くようについて行き、ギルド内部にあったテーブルを囲むように六人で座った。