ドジッ子トトリーの悪夢
イーブルスター洞窟をかなりの速度で駆け巡り、ポーンバットやレッサーインプに飽き足らずイーブルスター洞窟の中にいるモンスターを駆逐する勢いで奥へと進んで行った。
EKO時代ではモンスターポップのリソースを求めてよくあった光景なので、駆逐行動が非常識だとは気付かないまでもイーブルスター洞窟には誰も来ないのでマナー違反だと言う人もいない。
それに、アカリ達の行動は巡ってはクレメンスのためなのでここは容認してあげるのが良い方法だろう。
「……アカリ、頼む」
「了解」
イサムはふたたびつるはしを持って壁につるはしを叩きつけて削りだし、アカリは二挺拳銃を構えてイサムの作業が終わるのを待つ。
またにイサムが素材になりそうなものを見つけては足を止め、アカリがイサムの警護をする光景がよく目に入る。
もっともこれはアカリも同じであり、もし洞窟の中でアカリが素材になりそうなものを見つければイサムが警護する羽目になっていた。アカリとしては、作業中はここにいるという安心感があるし、他のプレイヤー達にとやかや言われることも無いので、仲間と気楽に会話できるという利点もあってこの時間は嫌いではない。
アカリは警戒を怠らずに白い回転式拳銃&黒い自動式拳銃を一度構え、正確に狙ってから再びガンホルダーに直す作業をこなして現実となった体に二挺拳銃の使い方を叩き込む。
白い回転式拳銃&黒い自動式拳銃を構える練習をしていて、不意にルカと共にハニークリームベアを倒した時の事を思い出し、そこで出会った青年の事を不意に話題にする。
「そういえばさァ」
「……なんだ?」
「昨日『ドジッ娘』トトリーの末裔に出会った」
「………………アレのドジは健在だったか?」
かなり長い間をおいてそう聞き返すイサムにアカリは少しだけ笑う。イサムにも『ドジッ娘』トトリーに対しては苦い思い出があるようで、彼女の名前を出した途端に表情が苦しいものに変わる。
アカリとしてもその気持ちは分からなくもなかったので苦笑を浮かべ、彼がやったドジを思い出してイサムの問い掛けに答える。
「健在も健在。むしろ元気なぐらいだったよ」
「…………そうか」
「どうしてあんなにドジできるんだろうね?」
「……一生懸命だからだ。何事にも一生懸命に取り組んで、その気力が空振りしてドジという様子に見えるんだ」
ゲーム時代でもそれなりにトトリーの事を見ていたのか、かなり親しい口調でトトリーのドジの理由を口にした。
オンラインゲームのNPCなので色々な見方がされそうだが、イサムの言いたい事はなんとなく理解したアカリ。緊張した人間が普段どおりのことをやろうとして、それすらも失敗してしまうというのはよく聞く話。ただまァ――――
「トトリーが一生懸命かァ……。想像できないんだけど」
「……そうだな」
同じ錬金術師として多少は広い目で見ているアカリにとって、トトリーが一生懸命と言うのはなんとなく理解できなかった。というか、一生懸命とドジが到底釣り合ってない。
イサムもトトリーの弁護は難しいと考えたのか早々に弁護を諦めて作業に戻る。
「イサムはどんなドジに巻き込まれたの?」
「……探し物依頼の報酬としてポーションLv3を貰った」
「へぇ、かなり珍しいね。クレメンスでポーションをもらえるなんて」
「……そのポーションをモンスターに飲ませた途端状態異常『デス』が掛かったがな」
「はい?」
状態異常『デス』は本当にRPGでよくある掛かった瞬間にゲームオーバーになる。この状態異常はたとえどれほどバイタルが高くとも瞬く間に全損させるのでプレイヤーからは嫌われている。
ちなみに状態異常『デス』にするアイテムがあるが、それでも『デス』になる確率は10%程度。
「……『デス』率100%のアイテムはアレで見たのが限りだな」
「それ、別の方面で天才過ぎるでしょ……」
100%『デス』などEKOプレイヤーにとっては渇望してやまないアイテムだ。もしそれが売られることなれば、国一つが傾くほどの大金で売買されることだろう。余談だが、イサムが作った『デス』率12%の両手斧が実際に国1つレベルの金額で取引された。
「いっそのことそのポーション残しておいてくれればいいのに」
「……あるぞ」
一段落着いたのかつるはしをストレージボックスの中に直して鉄杭とハンマーを取り出す。それと同時にポーションらしきものもストレージボックスの中から取り出している。
イサムはアカリの方を一瞬だけチラ見した後取り出したポーションを軽く投げ、アカリは落とさないようにとしっかり受け止める。
「使ったんじゃないの?」
「……三つ貰ったんだ」
「なるほど。んじゃ《鑑定》。……ポーションLv3。効果:バイタル+15%、デス+100%、オドン毒+80%。作成者:トトリー……これってもうドジの領域じゃないよね?」
EKOきっての最悪に近い状態異常を持っているポーションに《鑑定》スキルを使ってそんな感想しか抱けないアカリ。本来のEKOには存在し得ないのでバグアイテムと認識できるが、バグにしては能力が凶悪すぎる。
デスも中々恐ろしいが、実は一瞬で死ねるデスはプレイヤーにとってまだ平和な方なのだ。様々な種類のある毒の中でもトップ10はデスすら凌ぐ凶悪性を持っているのでプレイヤー達はそちらの方を余計恐れている。たとえ現実になった今でもその毒を受けたくない、いや現実となった今こそ受けたらヤバイというのがアカリの本音だ。
「うぅむ、『ドジッ娘』トトリー恐るべし」
「……俺が使わなければ実害は無いから平和な方なんだ」
その言葉は暗に問答無用で巻き込まれて大きな被害を出したものがあると言っており、嫌でも深く突っ込む気力を失わせた。
「じ、じゃあとりあえずこのポーション貰うな。あとで量産してみる」
「………………なんと言った?」
「いや、この距離なんだから聞こえてるでしょ」
もしかして耳が遠くなったかな~なんて呟きながら親友の将来について考えるアカリ。大変失礼だと思ったイサムは採掘する手を止めてアカリの頭に痛烈な拳を振り落とした。
「……ありえないことを聞いたから聞き返したんだ。それ、量産できるのか?」
「ィタ~。何も殴ること無いじゃん。こっちは超絶神装甲で有名なんだよ。量産に関してはこのポーションが辿った製薬の記録を手繰ればレシピが判明するし、材料次第で大量生産も可能」
「製薬はつくづくチートだな」
呆れた、というほどの深いため息をついて採掘に戻る。
余談だが、製薬の記録を手繰るという方法は普通のプレイヤーには出来ない上に、記録を手繰る上で作成者の製薬スキルのレベルの二倍以上になっていなければならない。一見チートでもその裏では地味な修練を重ねる必要があるのだ。
適当な石を最上級錬金キットに入れてそそくさとサファイア(極小)を二つ作り終わってから動き始める。まァ作るといっても石に混じった細かな宝石を凝縮してある程度肉眼で見える程度に大きくしただけ。そこから容量の縮小のためサファイア(極小)三つに上位練成を使ってサファイア(小)一つに変えていた。
上位変換。それは錬金術にのみ許された技能であり、アカリの持つ生産スキルではできない。生産をチートと言うが、錬金術の方がよっぽどチートだとアカリは心の内で静かに呟く。