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プロローグ

ここはアカリ視点です

 地上ではありえないほど薄暗く生い茂った森の中。オレは静かに息を潜めて、静かに敵を探す。森が深すぎて薄暗く、視界は良好とは言えない。しかし特定のスキルを持ったオレには関係ない話であり、見回してみると木の陰に隠れながらオレの居場所を探ろうとする相手を見つけた。


 相手は三人。

 一人は身長ほどもありそうな長い大剣を持った軽装の男で、警戒するように周囲を見回して少し不審な行動を取っている。一人はオレとは別方向を注意深く見つめている女で、片手剣に楯を握り重厚な鎧で全身を固めている典型的な騎士スタイル。最後は疲れたように木に背中を預けてだれている男で、手には何も持ってないが腰に手のひら大の拳銃をぶら下げている。


 相手を発見した途端オレは無意識に舌なめずりをして、物音を立てないようにゆっくりと弓を構える。こちらに反応する事はありえないと思うが、念は入れておいた方が良い。

 一撃の重たさを重視したあまり、文字通り重たくなってしまった矢を番える。この矢はオレが構えられるギリギリの重量に設定されているので、矢先が微妙にぶれてしまうが、心を落ち着けながら正確に相手を射抜くことだけを考えてブレを小さくする。

 矢に重量があるだけに弓自体もただの弓ではまっすぐ飛ばすことが出来ないので、弓もまた持てる中で最高の耐久性と鉄板のように硬く張られた弦で組み合わせた道具だ。

 研ぎ澄ませるように狙いを定め、一瞬のうちに矢を握る手を離した。


 手を離した瞬間に弦の張力に引っ張られて矢はオレの手元を離れ、紫色の残光を残して吸い込まれるように標的の元へと向かう。狙われた相手は咄嗟に気付いて避けようとするが、その行動はコンマ数秒遅かった。


「かッ!?」


 矢は片手剣の女性の顔に直撃して、大きな衝撃音が響き一瞬にして命を奪う。完全に命が失われた瞬間女性の体に虹色の亀裂が入り、その亀裂は徐々に大きくなって虹色の光を放つオブジェクトへと変わる。虹色に光る欠片となって体が砕け散る光景を見てオレは達成感に包まれた。

 しかしあまり達成感に浸る事は出来ない。相手は熟練した人間であり、仲間の死など簡単に乗り越えて逆襲をしてくるだろう。矢を放った時の紫色の残光のせいでオレの居場所がばれてしまい、残りの二人がオレの方へ駆け寄ってくる。


「《ファントムバレット》!!」


 拳銃の男が銃の引き金を引くが、銃声が鳴らないばかりか銃口からは銃弾は発射されない。いや、本当はそう見えるだけで実際は銃弾が発射されているのだ。使い古されたスキルだが、その不意打ちの有効性から未だに使われているスキル。


 頭の中で銃の引き金が引かれた時間を計測し、距離を計算して到達時間を計る。すると矢をもう一度番える時間があると分かったので急いでもう一度矢を構えた。


「ッ!? ウソだろ……!?」

「《パワーウェイト》」


 オレに到達しようとする時間を狙って体だけそらし、見えない銃弾を避ける。

 反撃として紫色の残光を残す矢を放つ。狙いとしては拳銃を持つ男の顔だったが、体をそらした影響で狙いがぶれてしまい、拳銃の男の右肩に当たっただけで致命傷とは言いがたいダメージしか残さない。


「ちぇ、オレの負けか」


 オレの呟きを諦めと取ったのか大剣を持った男が剣を振り下ろそうとする。今から反応しても避ける事も防御も不可能だ。行動を起こす前に大剣が振り下ろされて、オレの命が奪われる。しかしオレに動揺は無い。


 疾風のように黒装束を来た人物が大剣を持った男の頭上に出現してきた。手には片手剣より一回り小さい刀を握り、顔は覆面で隠しているのでどんな顔をしているのかは分からない。しかし背格好からしてクノイチを真似ることをしているのは分かるので、女性なのは分かる。


 瞬間的にクノイチの格好をした少女に気付いた拳銃の男は唖然として口を開き、そんなことを気にせずクノイチの格好をした少女は手に持っていた忍者刀で大剣の男を両断した。そのまま流れるように拳銃の男にも大きな横一線の剣撃を入れて、二人目の相手も倒してしまった。


 二人の男を一瞬で虹色に光るオブジェクトへと変えた少女は倒した相手のことなど見向きもせず、俺のほうに歩き寄って来て、怪我が無いかしっかりと見ていた。

 すると頭上から機械で合成されたような音声が響き渡る。トーナメントで試合をアナウンスする声だ。


『トーナメント決勝戦終了です。勝利したのはチーム≪大雪原に住まう氷結龍(グングニル)≫でした』



 途端にオレと黒装束の人間は近未来的な建物の中に転送されて、他の仲間達も戻って来た。その瞬間優勝と言うこともあって他の人達が一斉に押し掛けて来て、オレ達はもみくちゃにされる。いつものことながらこの瞬間ばかりは非常に鬱陶しい。

 それから解放されたのは数時間後で、決勝戦が終わってようやく仲間のメンバーで顔を合わせる。


「あ~、やっと解放された~」


 他の人達にもみくちゃにされてようやく一息つき、そんな声を漏らした。

 オレはアカリ(AKARI)と言い、名前があれだがれっきとした男である。格好はスカウトみたいな軽装スタイルで、鎧の類は着けておらず、背中に弓。腰には白と黒の拳銃をぶら下げている。


「おつかれさま」


 オレにねぎらいの言葉を掛けてくれるのがルサルカ(RUSALKA)

 身動きがしやすそうな水色の薄い法衣を身に纏っている少女で、手には身長ほどの錫杖を持っている。優しそうな雰囲気もあって一見魔法職のように見えるのだが、その実態は狙撃銃も使う後衛の殲滅者。影では水色の魔王と呼ばれている。


「ルカ、お前一人だけ逃げてただろ」


 唯一逃亡した仲間に対して恨みがましい視線を向けるのがカケル(KAKERU)

 装備としては厚くもなく薄くもなく、本当に適度なレベルで押さえている。腰には普通より一回り大きい片手剣を二本差してて、さらに楯を二つ下げている変わった人物。


「あんな大群に襲われたら潰されるなのですよ」


 カケルから向けられる視線を逃れるように明後日の方向を向いて弁明するのがルカ(LUCA)

 オレを助けた黒装束の人物で、今は覆面を取って幼さが残った少女の顔を晒している。装備はクノイチ版の黒い忍装束で、ロールプレイを楽しむように懐に武器を隠し持っている。ちなみに身長は四捨五入で140センチ。


「ルカぴょんちっこいもんな~」


 笑いながらルカの低身長をからかうのがサナ(SANA)

 胸元にはサラシを巻いて白い学ランを羽織り、下は純白の学制服のズボン。腕にバンテージを巻いただけで他は一切装備を持っていない。


「……それがルカのいいところだと思うが?」


 ルカの小ささをそうフォローするのがイサム(ISAMU)

 武器は槍だけで、皮鎧やローブを多用しているなんとも地味な青年。しかしオレ達のキーパーソンであり、リーダー的な役割をすることが多い。ついでに薄い装甲とは裏腹に防御力はかなり高い。


 これがオレの仲間であり、オレ達六人で作ったチームが≪大雪原に住まう氷結龍(グングニル)≫だ。


 オレ達六人は昔からの仲良しで、家が近いこともあって物心着く前から一緒に遊んでいた。だから物心知れたメンバーは時に疎ましくも思うが、目だけでも会話できるほど意思疎通がとれることもあって、一緒に並び立てる事を嬉しく思っている。


「イサム、それフォローになってない」

「……そ、そうなのか。すまなかった、ルカ」


 背が小さいことをイサムにも認められてしまい、ルカの目じりには光る水滴がある。水など被る要素が無かったのでそういうことなのだろう。

 素早く謝って良かったな、イサム。


「そういえば今回の罰ゲームって誰? 俺はもちろん二人な」


 ルカとイサムの掛け合いを無視していきなりカケルがそう言い放った。


「アカリは確実なのですよ」

「……俺がもう一人だ」


 ルカがオレの事をチクり、イサムが自己申告する。

 オレ達の中では今回の戦いにルールを設定していて、ルールを守れなかった奴を罰ゲームに処すと戦いの前に決めていたのだ。そのルールとは『一人に付き二人以上を倒すこと』。このルール上イサムは結構不利な状態なので、イサムだけ一人で良いとなっている。


「つまり罰ゲームはアカリか。何してもらおうかな~」

「……お前絶対Sだろ」


 鬼の首でも取ったような嬉しそうな笑みを浮かべるカケルに思わずそうツッコまずにいられなかった。なんとか罰ゲームは回避したいがさすがにこのメンバーで罰ゲームは止めるなどありえない。それは長く付き合っているオレも身に染みてわかっているのだから。

 とりあえず逃げるように外へ出る事を言ってみた。


「もうログアウトするか。罰ゲームは外でやろう」

「そうね。罰ゲームの相手はもう決まってるんだし」


 そう言ってオレ達は一斉にログアウト(・・・・・)する。



 そう。この世界は現実ではない。

 EMPRESS KNIGHT ONLINE。それがこの世界の名前だ。VRMMOと呼ばれる種類のゲームで、VRMMO業界で人気のゲームとして三年連続第一位に輝いたゲームタイトル。完全スキル制で、初心者でも遊びやすく作られているこのゲームは初心者に対しての優しさ、熟練者に対してのやりこみ度や優越感でとても人気が高い。


 ゲーム内容としては魔法有り、剣技有り、銃有り。なんでも有りのいたって平凡なものだが、使い方は他のゲームタイトルを凌駕するほどに自由度が高いのだ。


 そして最大のシステムがオリジナル・スキル・メーカー。様々なスキルを組み合わせて自分だけのスキルを作成し、誰にも真似出来ないスキルを使うことができる。自分だけのスキルというのはプレイヤーの優越感をとても擽り、大半のプレイヤーはこぞってオリジナル・スキル・メーカーを練習する。

 ただ自分ひとりだけというのも寂しいという事で、一代限りだが他人に作ったスキルを継承することも出来る。


 その高性能に圧迫されたのかプレイヤーにつけられる名前は英数字だけなのだが、それを差し引いても楽しく夢のようなゲームであり、今でも止める人は少ない。




 そして異常はログアウト中に起こった。

 ログアウト中は視界はすべて漆黒に包まれるはずなのに、今の視界には酷い雑音が入ったようなモノクロ状態になる。本来のVRMMOではありえるはずのないモノクロ状態はオレの不安を掻き立て、オレの中にある目に見えないエネルギーを吸われているような感覚があった。

 不思議な感覚に抵抗する事すらできず、オレは不思議な感覚に導かれるまま意識を失う。



『やっと捕まえた』

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