泣キ虫ノ華-2-
イ ケ ニ エ?
「は?」
俺はこの言葉しか言えなかった。
「はい?」
「いやだからなって下さい!」
「だから何に?」
「だから生贄に」
はい。話がまったくと言っていい程呑み込めません。
俺はひとまず、この少年の話を聞くため(聞かなきゃ抱きついたまま離れなそうだったし)もといた料理店に戻ることにした。
+ + + +
「いきなり呼び止めたりしてすみません!僕の名前はレント、レント=ルースと言います!話すと長くなるのですが………あの、お願いします!助けて下さい!僕の村が………大変なんです」
話の内容によると、このレントという少年の村は、最近になって突然雨が降らなくなり、村全体が干ばつに襲われているという。
「もしかして生贄って、雨乞いか何かをするためのか?」
「はい。雨が降らなくなったのは、雨を降らす【蒼色ドラゴン】が空腹で力を無くしたみたいだから、美味そうな子供を捧げ物にと」
「てことは、アンタがその雨乞いの生贄なんだな?」
だが。それが一体絶体俺と何の関係があるのか。
俺はその村の為に、自らを犠牲に出来るほど良い人づらしてたっけ?なんて思ったり。
向かいに座っているレントが口を開く。
「貴方、ゼロさんっていうんですよね? なら、この世界の人じゃないんですよね?だったら丁度いいんです!貴方はうってつけの、人材なんです!早く僕の村に来てください」
いやいやいや。ちょっと待て。
コイツ、話の辻端が合って無いのが分かんないのか?
丁度いいって、こっちは全然よかねぇよ。
て、何でコイツ俺の名前知ってんだ?
しかも別の世界から来たことまで………。
「おい。お前何で初対面のくせに、俺の名前知ってんだよ」
暫しの沈黙。
「………あ、この店ってバンバンジーが美味しいんですよ」
流したな。
「もう!そんな細かいことはいいじゃないですか!分かりました、とりあえず村に来てください!」
「だから良くないって!重要な事後回しかよ………ってオイ!」
レントは俺に発言の余地を与えず、俺の手をひき村まで走って行った。
「着きましたよ!ここが【ロニ村】です!」
ロニ村は、ざっと見渡してもなんら特徴の無い、昔ながらの村といった所だ。
点々とある畑等は、やはり干ばつの被害を受けてるらしく、元気に育っている物はあまり見ない。まぁ、でも風景的には平和な村っぽい。
俺はまだ、レントに聞きたい事(というより言いたい事)が沢山あったので、とにかくレントの家に行き詳しい事情をゆっっくり聞くことにした。
「で、よ。まず聞くが、何で俺の名前を知ってたんだ?」
「そ、それは…………。あ、貴方がうちの飼ってた犬のゼロによく似てて」
「嘘だろ」
「…………はい」
レントはそれ以上、口を開こうとはしなかった。
押し黙るレント、そんなレントを見ている俺。
時計の短針と長針が、重なろうとした、その時。
「おーいレントー!父ちゃん今帰ったぞー!」
沈黙を破るどデカイ声。
俺は驚いて、声のした入り口を見た。
そいつと、目があった。
「あ…………あー!」
「アンタッ、俺を送ったタクシーの親父!?レントと親子って偶然………」
そこで俺は思い出した。
俺が名前を名乗った、只一人の相手。
レントが、俺の名前を知ることが出来る人物。
いるじゃんよ、そこに。
「成程、お前らグルだな。」
+ + + +
テーブルを挟んで右側。俺はおもいっきり相手を睨んでいる。
テーブルを挟んで左側。タクシー親父とその息子が、二人仲良く座っている。
苦笑いで。
「成程な。これならレントが、俺の素性を知ってるのも分かる。そういえばタクシーの料金を、払わなくていいって言ったのも」
「これから貴方に、生贄になってもらうから、せめてものお礼の気持ちだー!と思ってなー!アハハハー!」
オイオイ、笑い事じゃねえよ。
何だ、俺の命はタクシー料金レベルか。
「あのな、言っとくが俺はこの村の為に生贄なろう、なんて気持ちは全然無いからな。」
「…………そんな!」
「………ヒドイー!」
目の前の親子は、そういうや否や俺に、泣きながら掴みかかってきた。
「ヒドイですよ貴方は!それでも人間ですか!」
「この村がどうなってもいーと言うんだなー!!!鬼ー!悪魔ー!」
うわぁ、俺凄い言われようだ。
てか親父のほう力強っ…………。
「鬼ー!」
「悪魔ー!」
『愚か者ー』
リエ、テメェさりげなく罵倒のなかに入ったな。
てか、ホント苦し………。親父首を絞めるな………。
「わ………わかったから………は、離せ……」
「「本当ですか!」」
俺はしまった、と思った。
だが時既に遅し、親子の目には輝きが戻っている。
まだ詳しい事何も聞いてないのに………。
「そうと決まれば話は早い、善は急げー!」
「え、おいちょっと今の無し………ってウギャア!!」
親父は、俺の言い訳にも聞く耳を持たず、俺を担ぐと突然走り出した。
嗚呼、親子そろって強引なんだなぁ………。
俺は、始めは抵抗したが、親父のその屈強すぎる体には、成す術もなかった。
抵抗をやめ、されるがままでいた俺は、親父が村の外の森へ行こうとしているのにようやく気が付いた。
「おい、今から何処に行くんだよ」
「なーに、行ってみれば分かるぞー!」
大事なところを流すとこまで似てるのか。
そんな事を思っている間に、いつの間にか目的地に付いていた。
言われなくても、ここが目的地だと分かった。
俺の目の前には、とても巨大な、真っ青なドラゴンが眠っていた。