泣キ虫ノ華。-1-
俺は、俺自身のために此処にいる
×××
チチチチッ………
上を見れば、鳥が飛んでいる。
「はぁ…………。」
下を見れば、街が広がる。
「はぁ…………。」
此処は上空6000フィート。
只今俺は竜の上。
上空飛行を楽しみ中。
一応。
〜数十分前〜
「何処だココ………。」
気付けば、見渡す限りは美しい草原。
今さっきいた所とは違う所を見ると、どうやら俺は無事に本の世界へ来れたみたいだ。
にしても。
「ここから俺にどうしろと?」
もう一度言うが、俺が居る所は見渡す限り広がる、大草原。
人は勿論、建物もないんですが。第一俺は、此処がどんな本の世界なのかも知らないぞ。
さながら今の俺は、何にも知らない産まれたての子鹿ってとこか。
「お前みたいな奴が子鹿なわけない。子鹿に失礼だ。」
俺は、いきなり頭の中から聴こえた、聞き覚えがある声にかなり驚いた。
「リエッ!?お前ここには来れないんじゃなかったのか!?」
「世界の中に入ったのではない。お前が元々いた私の部屋から話している。私はそちらに行くことは出来ないが、此処からお前にこうやって話しかけることも可能だ。」
何かズルイ気もするが、と思ったが口に出すのは止めておこう。
俺は空に向かい、今は見えぬアイツに向けて、思いっきり舌をだした。
「言っておくが、此処からはお前が今何をしているか良く良く分かるぞ。」
俺の脳裏に、瞬時に鬼の形相で此方(むしろ俺)を見下ろすリエが浮かんだ。
スイマセン。
「なぁリエ。此処はいったい、何の本の世界なんだよ?てか俺は何をすればいいんだ?」
「………はっ。」
オイオイ。今俺鼻で笑われたんですけど。
コイツはいたいけな子供を見下して、一体何が楽しいんだ。
「お前は自分の名前を取り返す為、名前泥棒を探すのだよ。」
「だから、どうやってだよ!この何にも無い大草原のド真ん中で!」
その時、いきなり太陽が陰った。
いや、どうやら何か大きな物が、太陽を遮っているみたいだ。
それは、まるで俺を中心に旋回するように飛んでいて、どんどん大きくなって…………。
「ウ、ウワァァァァ!!!!」
ソイツは、真っ赤な躰に大きな翼をつけていた。
「ドッ、ドラゴン!!!!????」
そいつの上には、人が乗っていた。
「アンタ、乗ってくかい?」
んで、今にいたる。
俺はこの男に、ここの世界の様々な事を教えてもらった。
まず、リエが教え忘れた(故意か?)この世界の事だ。
この世界は【レスリア共和国】というらしく、まるで御伽話の世界に迷いこんだように思わせる、本でよく見る国だ。
はたから見ると、一昔前のイギリスのような感じがする。
だが、此処にはイギリスとは違うところが一つある。
「もーすぐで街に着くぞー!」
「はぁ………てか、ホント竜が沢山いますね。」
「そうかー?まぁ今頃は出稼ぎに出る奴が多いからなー!」
そう、この世界はドラゴンが当たり前の存在としているのだ。
見渡せばあっちこっちに、赤やら青やら様々な色のドラゴンが飛んでいる。どうやらこの世界では、ドラゴンは交通手段とされてるらしい。
そして、この俺を拾った男。今ドラゴンの頭の上で、あぐらをかいているやつ。
この男は、現実世界でいうタクシー運転手らしい。
俺がいた大草原は、タクシーの停留所だったようで、ちょうど其処にいた俺を客と思い、街まで運んでやるー!と言ってくれた。
「そういえばーお前の名前何ていうんだー!」
「俺ですか?ゼロっていうんですけど……何故?」
「そうかーゼロかー!お前はあんな所に居たが、旅人かー!若いのに大変なこったー!ハハハハハ!」
「あそこには、誰か来ないのですか?」
「あそこは時空の入口だからなー!他の国と繋がっているっーことで、レスリア人は行きたがらねーんだ!レスリアは独立国家だしなー!」
この人、ガタイがいい上に声もデカイ。こういうのを豪胆と言うのだろうな。
てか、うるさい。
「着いたぞー!ここがレスリアで一番の大都市、【ラニガーデン】だー!」
「あ、ありがとうございます………。」
広い。そして人が多い。ドラゴンも多い。
俺は、辺りをぶらぶら歩く事にした。俺が今居るところは、ラニガーデンの商店街のようだ。肉屋や八百屋、文房具屋やなんやらが建ち並んでる。
グゥゥゥ〜〜〜〜
料理店の香ばしい薫りに反応した俺の虫。
そういえば、今日の朝から何にも食べてないな………。
俺は両ポケットをまさぐった。
ヤバイ。財布持ってねぇ。まて、この国の金も無い。
い、今の俺って、ピンチ…………?
俺は、人通りの無い道を捜し、深呼吸して叫んだ。
「リエェェェェェ!!!」
「煩いうるさいウルサイ。何だ。」
「おい!俺レスリアのお金なんて持ってねぇぞ!どうすんだよ!」
「はぁ………やはりお前は無知で無能で残念な少年のようだ。」
「ハイハイ!もー今は突っ込む気もねぇ!」
「つまらん。まぁいい。いいか」
「ハァ〜〜!食った食った!」
料理店の中にいる俺の前には、無数の皿が積み重なっている。
いやまさか、リエに貰ったあの銀貨が、ここではかなりの価値になるとは。
「腹ごしらえも済んだし、お金もお釣りが出たから大丈夫だけど。」
俺はテーブルに肘をつけ、ぼんやりと外を眺めた。
どうしようか、これから。
名前泥棒を捜す、と言ってもこの人の多さ。
しかも何処に、どんな風でいて、どうやって見付ければいいか。
リエに、肝心な部分を聞かず仕舞いだった事を、今更後悔した。
「しょうがない。またリエに聞くしかないか。」
そう考え、店を出た。
「待って!」
「グハアッ!」
その時、いきなり俺は後ろから何か、多分人に抱きつかれた。
振り返ると、そこには俺と同じ位の年齢の少年がいた。
その少年は、息を切らせながら言った。
「おっ、お願いだ…………アンタ………………一緒に生贄になってくれ!」