表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前泥棒  作者: 麻生 閃
6/22

泣キ虫ノ華。-1-


俺は、俺自身のために此処にいる


   ×××



チチチチッ………


上を見れば、鳥が飛んでいる。


「はぁ…………。」


下を見れば、街が広がる。


「はぁ…………。」


此処は上空6000フィート。

只今俺は竜の上。

上空飛行を楽しみ中。

一応。



〜数十分前〜


「何処だココ………。」

気付けば、見渡す限りは美しい草原。

今さっきいた所とは違う所を見ると、どうやら俺は無事に本の世界へ来れたみたいだ。

にしても。


「ここから俺にどうしろと?」


もう一度言うが、俺が居る所は見渡す限り広がる、大草原。

人は勿論、建物もないんですが。第一俺は、此処がどんな本の世界なのかも知らないぞ。

さながら今の俺は、何にも知らない産まれたての子鹿ってとこか。


「お前みたいな奴が子鹿なわけない。子鹿に失礼だ。」


俺は、いきなり頭の中から聴こえた、聞き覚えがある声にかなり驚いた。


「リエッ!?お前ここには来れないんじゃなかったのか!?」

「世界の中に入ったのではない。お前が元々いた私の部屋から話している。私はそちらに行くことは出来ないが、此処からお前にこうやって話しかけることも可能だ。」


何かズルイ気もするが、と思ったが口に出すのは止めておこう。

俺は空に向かい、今は見えぬアイツに向けて、思いっきり舌をだした。

「言っておくが、此処からはお前が今何をしているか良く良く分かるぞ。」


俺の脳裏に、瞬時に鬼の形相で此方(むしろ俺)を見下ろすリエが浮かんだ。

スイマセン。


「なぁリエ。此処はいったい、何の本の世界なんだよ?てか俺は何をすればいいんだ?」

「………はっ。」


オイオイ。今俺鼻で笑われたんですけど。

コイツはいたいけな子供を見下して、一体何が楽しいんだ。


「お前は自分の名前を取り返す為、名前泥棒を探すのだよ。」

「だから、どうやってだよ!この何にも無い大草原のド真ん中で!」


その時、いきなり太陽が陰った。

いや、どうやら何か大きな物が、太陽を遮っているみたいだ。

それは、まるで俺を中心に旋回するように飛んでいて、どんどん大きくなって…………。


「ウ、ウワァァァァ!!!!」


ソイツは、真っ赤な躰に大きな翼をつけていた。


「ドッ、ドラゴン!!!!????」





そいつの上には、人が乗っていた。



「アンタ、乗ってくかい?」



んで、今にいたる。

俺はこの男に、ここの世界の様々な事を教えてもらった。

まず、リエが教え忘れた(故意か?)この世界の事だ。

この世界は【レスリア共和国】というらしく、まるで御伽話の世界に迷いこんだように思わせる、本でよく見る国だ。

はたから見ると、一昔前のイギリスのような感じがする。

だが、此処にはイギリスとは違うところが一つある。


「もーすぐで街に着くぞー!」

「はぁ………てか、ホント竜が沢山いますね。」

「そうかー?まぁ今頃は出稼ぎに出る奴が多いからなー!」


そう、この世界はドラゴンが当たり前の存在としているのだ。

見渡せばあっちこっちに、赤やら青やら様々な色のドラゴンが飛んでいる。どうやらこの世界では、ドラゴンは交通手段とされてるらしい。


そして、この俺を拾った男。今ドラゴンの頭の上で、あぐらをかいているやつ。

この男は、現実世界でいうタクシー運転手らしい。

俺がいた大草原は、タクシーの停留所だったようで、ちょうど其処にいた俺を客と思い、街まで運んでやるー!と言ってくれた。


「そういえばーお前の名前何ていうんだー!」

「俺ですか?ゼロっていうんですけど……何故?」

「そうかーゼロかー!お前はあんな所に居たが、旅人かー!若いのに大変なこったー!ハハハハハ!」

「あそこには、誰か来ないのですか?」

「あそこは時空の入口だからなー!他の国と繋がっているっーことで、レスリア人は行きたがらねーんだ!レスリアは独立国家だしなー!」


この人、ガタイがいい上に声もデカイ。こういうのを豪胆と言うのだろうな。

てか、うるさい。


「着いたぞー!ここがレスリアで一番の大都市、【ラニガーデン】だー!」

「あ、ありがとうございます………。」


広い。そして人が多い。ドラゴンも多い。

俺は、辺りをぶらぶら歩く事にした。俺が今居るところは、ラニガーデンの商店街のようだ。肉屋や八百屋、文房具屋やなんやらが建ち並んでる。


グゥゥゥ〜〜〜〜


料理店の香ばしい薫りに反応した俺の虫。

そういえば、今日の朝から何にも食べてないな………。

俺は両ポケットをまさぐった。

ヤバイ。財布持ってねぇ。まて、この国の金も無い。

い、今の俺って、ピンチ…………?


俺は、人通りの無い道を捜し、深呼吸して叫んだ。

          

「リエェェェェェ!!!」

「煩いうるさいウルサイ。何だ。」

「おい!俺レスリアのお金なんて持ってねぇぞ!どうすんだよ!」

「はぁ………やはりお前は無知で無能で残念な少年のようだ。」

「ハイハイ!もー今は突っ込む気もねぇ!」

「つまらん。まぁいい。いいか」


          

 


「ハァ〜〜!食った食った!」


料理店の中にいる俺の前には、無数の皿が積み重なっている。

いやまさか、リエに貰ったあの銀貨が、ここではかなりの価値になるとは。


「腹ごしらえも済んだし、お金もお釣りが出たから大丈夫だけど。」

俺はテーブルに肘をつけ、ぼんやりと外を眺めた。

どうしようか、これから。

名前泥棒を捜す、と言ってもこの人の多さ。

しかも何処に、どんな風でいて、どうやって見付ければいいか。

リエに、肝心な部分を聞かず仕舞いだった事を、今更後悔した。

「しょうがない。またリエに聞くしかないか。」


そう考え、店を出た。

          

「待って!」

「グハアッ!」

          

その時、いきなり俺は後ろから何か、多分人に抱きつかれた。

振り返ると、そこには俺と同じ位の年齢の少年がいた。

その少年は、息を切らせながら言った。



「おっ、お願いだ…………アンタ………………一緒に生贄になってくれ!」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ