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名前泥棒  作者: 麻生 閃
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雨ニ濡レタ迷イ猫ハ。


何であの時気付かなかったんだろう。




「…………あれ?」

気が付いたときには、俺は図書館を出ていた。

いつの間に?

思い出せない。


まぁいいか、涼しくなってきたし家に帰るとしよう。

母さんや妹もこの時間なら帰っているだろ。


「ただいま。母さん腹減った〜。」


俺の家族は世にゆう母子家庭だ。優しい母さんと、妹の八尋。それに俺との三人家族。

父親の顔は俺と八尋は知らない。俺達が、産まれる前に事故で死んだらしい。

父親がいなくて寂しくないか、とかよく聞かれる。

寂しく無いと言えば、嘘になるかもしれないな。

でも、その分母さんがいる。

母さんは、女で一つで俺たちを育ててくれた尊敬すべき人。

それに八尋。泣き虫で我儘だけど俺にとって可愛い妹。

たとえ父親がいなくたって、三人でいたらとても楽しい。

俺にとっては、二人が家族で、守るべき人。


二人がいなくなったら、辛い。こたえるだろうな、相当。




「母さん?いないの?」


おかしいな。この時間はもう帰っていると思ったんだけど。

俺は台所に向かった。


ガッチャーン

「キャアアア!!!!!!」



いきなり、俺の後ろで何かが割れる音と悲鳴がした。

とっさに振り返ると、そこには脅えきった目で俺を見ている八尋の顔があった。


「どうしたんだよ八尋。新しい冗談か」

「こないでっ!あ、あなた誰っ!なんで私の名前を知ってるの!」

「何でって、八尋本気で言ってんのか?俺はお前の兄貴の  」


兄貴の………の?

あれ。何でだ。ここから先が言えない。

まるで、そこに入る言葉なんかなかったかのような、不思議な、嫌な感覚。


「八尋!どうしたの!」

「あ、母さん良かった。聞いてくれよ、八尋が変な冗談を

「誰ですか!」


え?


「何ですか貴方は!八尋に近付かないで!警察呼びますよ!」


何だ?何かおかしい。


「誰って、母さんまで冗談やめてよ。俺はれっきとした、母さんの息子で、」

「家には」





「家には息子なんて居ません」








どうなっているのか訳が解らず、とっさに俺は家を出た。

その選択は正解だったらしい。八尋の泣き叫ぶ声が聴こえた。

胸が、痛んだ。


訳がわからない。

どうして母さん達は突然あんな事を?

俺の事を忘れたのか?

いや、それはない。図書館に行くときは普通だった。

考えていると、あの時の言葉が蘇った。


「家には息子なんて居ません」


胸がまた、キリリと痛んだ。

目から、涙が溢れてきた。


「…………っ!」


こんな俺の状態を察してくれたのか否か、空から雨が降ってきた。

かなりの大雨となった。


「……っちきしょう!」



ザァァァァァァ…

俺は走った。

がむしゃらに、只がむしゃらに。

どこへ行くでもなく、雨宿りすることなく、只只、人波をかきわけ走った。


「はぁ……はぁ、あ?何処だここは?」


気が付くと、俺は小さな店の前に立っていた。

【アンティーク本屋・STRAY CAT】


「さっきからこのパターン多いな。」


何故か、この店もどこか惹かれるところがあったからだ。

けど、あの本の時とは違う。

あの本は俺の意思に関係なく、まるで俺を誘っているようだった。

けど、ここは俺の体が行きたいと、入らなければならないと言っている。


でも、怖かった。

ここに入ってまた、母さん達の時の様なことが起こったら……。

俺は、その店に背を向け立ち去ろうとした。

その時だった。


「ここで帰ったら、お前は一生“名無し”でいる事になるぞ。」



店の中から、真っ黒なタキシードを着た若い男が現れた。

そして、こう言った。



「一言いっておく。今のお前は何も出来ない。名前を盗られたお前には、な。」




俺はその店に入る決心をした。

【STRAY CAT】、迷い猫という意味の古本屋に。





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