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名前泥棒  作者: 麻生 閃
20/22

空ニ浮カンダ銀ノ月。-始-



悪魔は神に組する者であり

単独では存在し得ない



悪魔は神に肩を並べる者であり

その能力は神に匹敵する



●●●●●


 その部屋は汚かった。いや、ゴミとかが散乱している汚いじゃない。物があふれている汚いだ、これは。

 まさに足の踏み場もない状態というやつ。


「で、ここを掃除しろと」

「うん」

「俺が」

「うん」

「一人で」

「うん、頑張って」

「えぇー……」


 もう一度部屋の扉を開け、中の様子を確認する。うん、悲しいけど見間違いじゃないようだ。

 そのくすんだオレンジ色の明かりの部屋には、俺の背丈をこえる重ねられた本の塔が数本。所々に空いた床のスペースには、またこれでもかってほどの本の群れ。


「これを、一人で片付けろと」

「うん。あ、ここの本踏んじゃ駄目だよ。リエ怒るから」

「………手伝っ」

「絶対い、や」


 唯一頼めそうなドルチェからの、笑顔いっぱいの最後の宣告。

 いや、本当どうしろと。



 事の起こりはほんの十分前。ちょうど俺が、シュークリームを食べ終えた時までにさかのぼる。


「ゼロくーん。まだ居る?」


 声の主はドルチェ。さっきフォルテに追われ、この部屋に一つだけの入り口から逃げて行ったのを見た。逃げきれたのか。

 周りを見回す。しかし、あの別の意味で目立つ緑のハイネックの姿はない。


「……………?」

「こっちー。そのまま右向いて」


 そのまま右。言われた通りに向くと、本棚から覗く茶色のくせ毛。

 にこやかに笑うドルチェの顔は、大きな本棚の向こう側、詰め込められた本の中で一ヶ所だけ出来た本二冊分の隙間から輝いていた。

 ということは。


「そこの本棚もドアみたいに開くのか」

「そ。あ、そこのオレンジのドアノブ捻って開けてね」


 本棚の扉に近付き調べると、確かに鮮やかなオレンジ色のドアノブがあった。形はランテが開けた扉の物と同じ。


「ここ開けて、ちょーっと来てくれないかな、こっちに」

「………はぁ」


 少し怪しい誘いにのる事にし、恐る恐るドアノブに手を伸ばし、右に四十五度回してからゆっくりと引く。

 きぃ。金具が悲鳴をあげ、重厚感たっぷりな見た目の本棚は、まるで自分の部屋に入るくらいの軽い力で開いた。


「凄ぇ、これ本当に開くんだ」

「不思議でしょー。ま、とりあえず中入って」



 そう言って一人微笑み立つドルチェ。そこに視線を移す。


 彼の背後にある景色――つまりこの部屋は、はっきり言っておかしかった。

 入口から真っ直ぐに伸びる廊下。さほど距離はなく、大体十メートル位。その突き当たりに一つ、ドアがたたずんでいる。いや、そこだけではない。左右を見ると、廊下沿いの壁にも二つずつ同じドアがあった。ここまでは良い。

 しかしだ。何故。何故その全てが蛍光色のまっ黄色に染められているのか。


「絶対目に悪いって、これ……」

「でしょー。蛍光色のオレンジはないよねぇ、ピンクなら分かるけど」


 分からない。ピンクだろうが絶対目に悪い、てかまず趣味悪い。リフォームの匠を呼ぶべきだ。


「何つっ立ってるのぉ?早く早く」


 正直、こんな圧迫感のある部屋には入りたくない。しかし、ドルチェが来い来いと手招きしたので、意を決してレモン色の異界に足を踏みいれる事にした。


「一体なんなんですか、この部屋」


 一応会って間もないし、明らかに歳上なので敬語を使い問う。

 するとドルチェは一瞬きょとんとした後、その只でさえ垂れている目を余計に垂らし、口許を緩めて答えた。


「何って、物置」


 趣味悪い物置!と、瞬時に思ったが、それは頭の片隅にしまいこむ事にしよう。ここの家主が恐いので。


「で、ゼロ君にリエから伝言という名の命令ね」


 頭に丁度浮かべていた奴の名を口にし、廊下の終わりにあるドアをドルチェは開ける。

 人間、こういう時の嫌な予感というものは、大抵当たってしまうらしい。


「ここを一人で二時間以内に綺麗に片付けろ、だって」




 そして今にいたる。

 ドルチェが言うには、フォルテから逃げている途中リエに会い――ちょっと赤い染みが着いていたらしい――フォルテをなだめてもらう代わりに、直に伝言を頼まれた、という事らしい。

 そんなの絶対的に嫌がらせだ。リエの俺が大の掃除嫌いというのをみこしての、新手の嫌がらせだ。絶対そうだ。


「でも、何で突然……」

「さぁーあ?僕それだけしか聞いてないからねぇ」

「やっぱ手伝っ」

「無理」


 笑顔で返し、頑張ってー、とひらひら手をふるドルチェ。ほぼ初対面で、これほど殺意を感じたのは彼が初めてだろう。


「物は本しかないから簡単だって。んじゃあ、僕はこれで」


 回れ右をし、ドルチェは同じ様に黄色に輝く別のドアに手をかける。

 しかし。何故かそのまま開けずに、顔だけをこちらに向け言った。


「そこの本。扉の鍵が古いから気を付けてね」


 そして、ドルチェはのったりとドアの向こうへ消えて行った。

 黄色の通路に残されたのは、俺一人。とりあえず、もう一度部屋の中を見る。

 変わらずそびえ立つ、本の塔たち。


「これを二時間……」


 思わず溢れる溜め息。これは、普通の人でもそんな短時間じゃ無理なのでは。

 でも、まぁ。ここに一人とり残された以上、ずっと立っておくのもあれだから。


「もう、頑張れ俺」


 シュークリームも食べたし、暇だといえば暇だ。頑張って、暇潰しだと思うようにしよう。いや、無理でもそう思え。





 部屋の片付けを始めて十分。いや、ここ時計ないから適当なんだけど。 俺は元の床が見えない本の床を見て、少し前の自分の甘い考えを悔やんでいた。

 俺、慣れない事をすると、それが裏目にでるようだ。


「だから掃除は嫌いなんだよ」


 少し前。諦めて始めてみたはいいが、いっこうに綺麗になる気配がないこの部屋。ただでさえ筋金入りの掃除嫌いなのに、息が詰まる様な色彩のこの部屋に入ると、十センチぐらいはあったヤル気もだんだん削がれていった。

 しまいには、肩が本の塔の一つに当たり、そこから本が総崩れ。塔は無くなったが、変わりに本の海が出来る始末。


「あー……どうしよ」


 自分の周りの本をどかし人一人座れるスペースを作り、とりあえずそこに腰を下ろす。

 ああ、めんどくさい。体育座りで本の海を睨んだ。


「俺、本当に慣れない事をすると、悪い結果になるんだよな」


 足下にあった黒い表紙の本を取り思う。そうなんだよ。あの時、何年ぶりかに本を取って、こんな事になった訳だし。

 あの時家に帰って寝ていれば、なんて後悔しながら、なんとなく黒い本の表紙を開く。

 これが、間違いだった。


「あ、れ?」


 開いたページから、何故か眩いばかりの光。それに、まるで俺を本に吸い込もうとするような風。

 これは、まさか。


「て、てか本の中はリエが居なきゃ行けないんじゃ!?」


 誰も居ないが絶叫。勿論、その問いに答えは帰ってこなかった。

 強さが増す光。それに比例して風もゴウゴウと唸りをあげる。沢山の本が宙を舞い、ページが捲られる。


「―――何だこれっ!」


 そして、光は部屋を包んだ。


○○○○○


          

偶然は

時に素晴らしい出会いを与えてくれる



○○○○○○


 背中に暖かみを感じた。全体的に広がる、懐かしいもの。

 次に、背後から腰に手が回されている事に気付いた。まるで、後ろから俺を抱きすくめる様な。

 この感覚。前、子供の頃にも、こんな事をしてもらった気がする。そうだ。


 ―――母さん。


 小一ぐらいの時だった。あの時、俺は夜が怖くて眠れなかった覚えがある。妹の八尋もまだ産まれてなくて、一人ぼっちで部屋で寝ていた。その時、今思うとおかしいが、このベットの下には妖怪が居て俺が寝てる間に食いにくるんじゃ、何て妄想が出てきて怖くて寝つけなかった。


 ―――怖い。怖い。


 そんな時に、俺はベットを抜け出し必ずと言っていい程母さんの部屋に行った。怖くて、眠れないと。

 すると母さんは俺をベットの中に入れてくれ、大丈夫、と言いながら抱きしめてくれた。

 そう、今のこんな風に。

 これは、夢なんだろうか。それとも、今までのやつが夢だったのか。

 どちらでもいい。今は、このままで。俺は目を開けず、懐かしい感触に身を寄せる。

 しかし。


 するり。


「………………?」


 腰にあった手の感触が、足に移ったのだ。次は腹、胸。まるで何かを確認する様な手の感触は、様々な部分に触れていった。



 一体どうしたんだろう。すっかり思考が小一の時に戻った怖がりの頃の俺は、ゆっくりと後ろを振り返る。

 そこに見えたのは優しい母さん、ではなく、鉄色の瞳。


「ぎゃああああああ!」

「うるさい」


 腹に痛みと時間をおいて背中に痛み。それがベットから蹴落とされたと認識するのに約十秒。


「―――――!?」


 昔の俺から今の俺に急激な早さで戻され、最初は何が何だか分からなかった。

 初めに認識出来たのは床の冷たさ。次に、あの時の夜の暗さ、でも俺の部屋じゃないこの部屋。

 すると、どこかにある窓から入った月の光が、俺ともう一つ、人の形の影を作る。



 それは、人の様な物だった。

 月明かりに照らされたそれは、ベットの上からこちらを見ている。人の形をしたそれには、傷がついていた。細い大人の男の形をしている上半身に、切傷なのか、思わず顔を歪めたくなる無数の傷。

 人の様な物の顔を見てみる。淡い光が当たるそれは、とても美しい造りをしていた。銀色の長めの髪にしても、まさにそれは月の様で。

 けれど。けれどもそれ以上に、こいつの眼は。鉛色のその眼は。俺を見下ろしてるその眼は。

 それは人の形をしているけれど、その眼は―――



「誰だ!」



 無意識に。自然に出たその言葉を、後悔するのに時間はそうかからなかった。




●●●●●



はてさて

これは夢か現か幻か



それとも






この回は立津先生作『Shortnight longnight』とリンクしております。いわば、コラボの回。

私と比べ物にも出来ない面白い作品なので、そちらにも是非。



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