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名前泥棒  作者: 麻生 閃
17/22

ソレハ珈琲ト言ウ侵入者。-上-



僕には欲しいものがある

それは玩具ではなく、菓子でも無く




○○○



 唖然とした顔。

 今の俺の顔は、そう表現できる。



「なっ、何だよコレ……」



          


 床一面に散らばった本。分解され利用価値を失った本棚。少し床が濡れているのはあの空っぽの花瓶のせいか。目の前に広がる、廃墟の様な部屋。

 いずれにせよ、まずはこうなった原因を知らねばならない。

 俺は奥に進みながら、この店の主の名を呼んだ。



「リエ!おいリエ何処だ!」


 いくら呼んでも返事はしない。買い物か?まさかな。あんな格好でスーパーは無理だろ。もしかして、強盗か空き巣?あーでも、こんな古いとこ来ないか。金目の物も無さそうだったし。

 じゃあ、一体――――?



「にしても、なんかここ暗いな………」



 天井を見ると、電灯まで壊されていた。どうしたらあんな高い所にある物がこなごなになるのか。

 目を元の位置に戻すと、ふと、壁にかけてある鏡に気付いた。



「こんな鏡あったっけ?」



 鏡は周りの風景に合わず、そこだけ独特の空間が創られていた。

 鏡に映った自分と目があった。思わず鏡の前まで歩み寄る。向こう側に居る、俺の前まで。



「俺、こんな顔してたんだ」


 鏡の俺に触れ――正確には、俺の映った鏡に触れながら、ぽつりと呟く。

 黒髪、黒目、アジア系特有の黄色い肌、比較的小さい顔、目の下にある泣き黶。確かめるように、順順にパーツを辿っていく。




「何しているの?」




 俺の口が言った。鏡の口が言葉を紡ぎ。

 ――違う、俺じゃない。今のは俺が言ったんじゃない。でも、あの声は俺だ。でも俺は何も言ってない。いや違う、これは。

 鏡の中の俺が笑う。



「一体何をしてたの?」



 何って、自分の名前を探す為に、リエって奴に本の世界に無理矢理――――そうだ。リエ、リエは何処だ。

 俺は後ろを振り向いた。しかし、そのリエも、誰も居ない。在るのは散らかされた部屋のみ。

 そこから、人のいた気配など、微儘も感じられなかった。



「本当に、リエなんて奴居たの?」



 居たさ、勿論。

 勿論、居た?本当に居たのか?確かに見た事は見た。だがそれで、本当に居たと決めつけていいのか?根拠は?

 本当に、リエなんて奴は、存在するのか?



 俺は、何をしている?



 違う、リエはいる。俺は首を左右に降った。黒い靄がまとわりついている。

 何考えてるんだ俺。この眼で確かに見たじゃないか。

          

 ――じゃあ、何故今居ない?


          

 部屋をぐるりと見回す。まるで暫く使われてなかった様に散らかっている。でも確かに、俺が戻る前までは、綺麗に片付いていたはずだ。


          

「本当にそんな奴に会ったの?」


          

 本当だ。もし違うなら、今までの事はどうなる?本の世界に吸い込まれて、竜にあって、忍者にあって。


「それは、確かな事?」



 勿論。だってこの目で見たんだから。



「なら君は、夢で見た事さえ真実だというのかい?」



 ―――夢?



 どういう事だ。思わず俺は口にだして言う。だが喉の奥から発する音は声にならず、ただ無様に空気の入った水泡となって逃げていった。

 急に呼吸が出来なくなる。息を吸おうとすると、空気ではなく液体が流れ込んで思わずそこでむせる。しかし、吐き出した空気は先程のように水泡になり、余計自分が苦しくなった。



「君はこれも、現実だというんだね?」



 声が聞こえた。くぐもらず、はっきりと。周りの音は濁って聞こえるのに。

 まるで、水の中にいるかの様に。

 目を閉じているのか開いているのかも分からない。視界はちらちらと移り変わり、網膜を刺激する。痛い。苦しい。

 体内の酸素が尽きてきたのか、無意識のうちに必死でもがいていた。だが、動けない。

 右の足首に違和感を感じた。しゃがみこみ、手探りで違和感の正体を探る。やがて、指先に無機質な感触がした。



 ――――鎖だ。



 足首に、頑丈な鎖が絡み付いている。視界が開けないまま、勘だけでほどこうとした。でも、解こうとする程に鎖はきつく俺を絞めあげる。

 いつの間にか床も消え、俺は空中――水中かもしれないが――に浮かぶ形になった。鎖だけが、俺をその場にとどまらせていた。



「やっと見つけたんだ」



 くすくす、クスクス。笑い声が聴こえた。煩い。うるさい。やめろ、耳障りだ。

 鎖にあてた手を止め、それを両耳に持ってくる。



「君は君じゃない。君は、僕なんだ」



 両耳にあてた掌を、いっそう強く当てがう。それでも聴こえる、あの笑い声。くすくす、くすくすと頭に響く。

 やめろ、煩い。黙れ。うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。



「君は、何も分かってないんだよ」



○○○○




 初めに分かったのは天井だった。次に理解出来たのは、俺はソファーの上で横になってるという事。

 かけてあった薄い毛布をどかし起き上がる。体が重く、少し気だるい。

 俺が寝ていた所は冒険の最初の場所、大量の本に囲まれたあの部屋だった。初めに座ったテーブルと椅子も見える。夢にあった、廃墟の様な部屋の姿はそこにはなかった。

 いや、夢と同じ事が一つ。リエがいない。誰も居ないのだ。静寂は夢とまったく一緒だった。



「夢で見た事さえ、現実と……」



 なら、今見ているこの風景は何なのだろうか。夢では無いと思っている。けれど、それを証明しろと言われれば―――。

 ソファーから足を下ろし、立ち上がって毛布をたたむ。すると、アレがあった場所が視界に入ってきた。



「鏡、無い」



 そこには鏡の代わりに絵画が飾ってあった。いかにも高そうな風景画、これはあった気がする。

 俺は夢の中と同じ様に、絵画に手を触れた。ちゃんとした立体的な感触。だが、それを感じたのは夢の中での鏡も同じ。もし今俺が見ている全ての物が、夢がうみだした偶像だとしたら、それは。




「居たーっ!少年はっけーん!」



 俺の思考は突然の声に中断された。反射的にその声がする方へ振り向こうとする。が、それは後ろから覆い被さった何か、のせいで不可能となった。かなり重く、支えきれない俺の体は悲鳴と共に、つんのめる様に床に倒れこんだ。



「痛ってぇ……だ、誰だ!」



 この時の俺は、後ろの何かは空き巣だと思った。耳元に息がかかり、腰に腕が回された所からのしかかった何かは人間だろう。

 このまま口封じで殺されてしまうかもしれない。本能的にそう悟り暴れてみるが、後ろの人物の腕はなかなかほどけない。てかこの人何かハァハァ言ってる。



「ちょ………マジ離せテメェ!」

「久しぶりの若い子誰が離すもんですか!」



 うわ、何かこの人頭おかしい。そう思うと同時に、今度は足が絡められてきた。これも、いくらあがいてみようがまったくとれない。

 そろそろ死期が近付いて来たかな、そんな思いが頭を霞める。その時再び、別の声が部屋に響いた。



「何、やっとんじゃあほランテェェ!!」



 その声に反応したのか、後ろの人物の力が緩まった。

 さっきの少し低めの女の子の声。というより怒鳴り声。なんとか声の主の顔を見ようと、力が緩まった隙に腕と足から逃れて体勢を整えようとした。 拘束するものが解けて、力を振り絞り後ろの人物を身体を思いっ切り突き飛ばす。

 何分ぶりだろう、俺はやっとの事で自由な仰向けの状態になった。

 その時。




「悪・即・斬!」



 最後に視界に入ったのは、きちんと両足揃ったスニーカーの靴裏。直後、顔に何かめり込む音と鈍い痛みが走る。

 俺の意識はそこで暗転した。



●●●



僕には欲しいものがある



何事にも変えがたいもの

素晴らしいそれは



●●●



「うっわ、酷い顔」

「その顔にさせたのは何処のどなたさんかしらねぇ」




 まったくだ。俺、何もしてないのに跳び蹴りくらうなんて。

 顔に衝撃が走り、気を失ったのはほんの少しの数分間、だと思う。話声がし目を開けると、寝転んだままの俺の体を囲んで、男の人と女の子が俺を見下ろしていた。



「あら、起きたみたい。オハヨー、生きてるん?」

「駄目だ死んでる」

「生きてる生きてる、生きてますよ」



 勝手に人を殺さないでくれ。両手に力を込め上半身を起こす。

 俺を挟んで両側にいる二人。右の男がさっき抱きついてきた奴だろう、声が一緒だ。黒い髪を一本に束ね、ギャルソンを思わせる服を着ている。

 黙っていると細身のお兄さんに見える。そして何故だろうお姉言葉。


 


「あっらー!そんな見つめられると………襲っちゃうわよ」



 飛んできたウインク。どうしよう、久々に背中に寒気がしたよ。てか目が獣だこの人。

 苦笑し視線を左に移す。



「あん?何見てんだテメェ」



 こちらはボーイッシュな女の子。短い茶髪がそれを際立たせている。髪を伸ばせば少しは女の子っぽくなりそうだが。

 右の男性とは違い、この子はパーカーにズボン。で、俗にいうウ○コ座り。態度といい言動といい、左右の人物は逆だと思う。



 で、だ。



「あんたら、一体誰?」







●●●



僕には欲しいものがある






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