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名前泥棒  作者: 麻生 閃
16/22

全ハ月下美人ノ為ニ。-7-




私は、貴方になりたかった





○○○●○○



「僕ですよ。暁です」

「俺も居る」



 二人の声に反応し、少女がこちらに駆けてきた。近くで見ると、思ったより幼い。童顔で俺より少し低めの背だからか。

 それともう一つ気付いた事。彼女の髪は銀ではない。この距離だと鉄よりの灰色に見える。



「暁と伊助!あと………」



 格子越しに、俺の顔をじっと見る。どこか怯えたような、警戒心溢れる黒の瞳と視線がぶつかった。どう反応していいか分からず、とりあえず会釈をする。



「こいつはゼロ。安心しろ。別にこいつは忍じゃない、脱走を手伝ってくれる仲間だ」

「………そう」



 珠奈と呼ばれた少女は、哀しげに目を伏せた。白く細い手で格子を掴み、うなだれている様を見てると自分がここに来てはいけなかったという考えに陥ってしまう。 そんな心中を悟ってくれたのか、暁が俺に声をかけてくれた。



「大丈夫、君は僕らにとって必要不可欠な人物なんだ。うん、まぁ、自信持って」



 何をどうやって自信に変えればいいのか。だが、暁の言葉は何故だか俺にとって、少し嬉しく感じた。



「あ、あの…………」



 探るような声。珠奈が俺の近くに寄ってきて言った。

 漆黒の瞳にはもう怯えの色はない。



「初めまして」

「あ、は、はじめまして」



 しまった、声がうわずった。慌てて咳払いをしたが、無駄な悪あがきだろう。

 そんな俺を珠奈は不思議そうに見つめ、視線を俺の腕に落とした。



「ホントだ。証、つけてない」

「証?あぁ、あの白い紐」

「ゼロ……さんは、ホントに忍じゃないの?」

「あ、あー。まぁ俺来たばっかりだし」



 たどたどしい会話。端から見れば、お前ら一体どこのお見合い風景だといっていいほど会話が続かない。というより、彼女とはなぜだか話難い。話題が無いとか、向こうが話をふらないとかではなく。ただなんとなく、会話をしてはいけない、と思ってしまう。

 重苦しい空気を打破するために、俺は暁と伊助に話をふった。


 

「あの、お二人とこの子はどういう関係なんですか?」

「おー、直球だねぇ」



 暁がからかう様に答える。確かに俺は、まわりくどい言い回しとかは嫌い、というより出来ないが。



「――物凄く簡単に言うと、敵同士?」

「敵じゃねぇだろ。れっきとした親友だ」

「僕ら的には、ね」



 苦々しく笑い、暁は伊助の頭に手を置いた。伊助はその行為が嫌だったのか、それとも暁の敵同士発言に納得がいかないのか、すねた子供の表情でそっぽを向く。身長差もあり兄弟に見える、とは言わないでおこう。



「私は、落鳳の武器なの」



 ぽつり、と言ったのは珠奈だった。その顔に表情は無く、視線は俺達ではなくどこか宙を泳いでいる。



「武器って、一体……」

「戦う道具、兵器ということ」


 どういう事か。話の内容が読み取れずにいると、今度は伊助が話始めた。




「昔、享廉の諜報部隊にこんな情報が入ってきた。“落鳳はとんでもない武器を隠し持っている”とな。それしか入ってこらずガセかもしれないと思った。けど、本当なら真っ先に穂積がその武器の餌食となるかもしれない。だから、真偽を確かめに、諜報部員である俺と暁は落鳳に潜入した」

「探っていくと、その武器は一瞬で全てを滅ぼす破滅の力というものをもっており、尚且簡単には破壊出来ないという」

「しかもその武器、とある部屋に隠してあるらしい。その部屋には鉄の門、中は檻で囲まれ灯りは月の光のみの暗い場所」




 あ、と思わず口を溢した。鉄の門、檻、仄かな灯りのみの部屋。

 まさしく、それはここの事。

 じゃあ、その破滅の力をもつ武器というのは――――。



「あの時はまさか人間が、しかも女の子が武器だとは思わなかった。この部屋を見つけて、珠奈を見た時は本当に驚いたよ」

「じゃあ、今ここに居るって事は」

「本部隊には伝えなかった。まだ珠奈が、武器だと決まった訳じゃないから。確実なモノになってから報告しようと思って、もう少し調べあげる為に接触を図ろうと思った」



 けど。そこまで言い、伊助は溜め息をついた。その時、一瞬瞳が珠奈をとらえたような気がした。


          

「助けて、って頼まれたんだ」



 

          

 掌を握り締め、伊助は言った。その口調に揺らぎはなく、その目は真っ直ぐに俺を見ている。


          

「珠奈は初め俺らを見た時、格子を掴んで叫んだんだ。助けて、ってな。格子の間から俺達に向かい、手を伸ばしてきた。眼が、俺達に訴えかけてた」

「だから彼女を助けようと思ったんだって。そんで僕は、そんな伊助のお守り役」



 柔らかく笑い、伊助の肩に手をかける。そんな暁の行動は、伊助とは対照的に思える。この人の考えてる事は分かりにくい。

 だが、伊助の目からは事の重大さ、伊助の真剣さがよく分かる。俺にはあまり、文学的な要素はない。でもおそらく、こんな眼が、真っ直ぐな瞳というものだろう。

 俺はこんなのにはめっぽう弱い。そんな、断れるわけないじゃないか。



「分かりました!俺にもやらせてください、脱走の手伝い」

「最初から俺らが頼んでたろ、今更何言ってんだよ」



 よかった、笑ってくれた。ここに来てから目にしてなかった、伊助の笑顔を見て少し安堵し、嬉しい溜め息をつく。この伊助という人物は非常に子供っぽい。だが、どこかに人をひきつけるリーダシップの様な力を持ってるような気がする。頭の片隅で、俺はそう思った。


 

「珠奈、不服?僕らの計画」



 暁の言葉に、思わず珠奈の方を見る。と、彼女は最初の状態からそのままの表情が無い表情でいた。



「う、ううん。そうじゃないけど」

「じゃあ、何でそんなに悲しそうなの?」


          

 悲しそう、俺にはそう見えなかった。いや、分からないだけなのかもしれない。

 殊奈は、ゆっくりとこちらを向いた。




―――嘘吐き。



 ぐにゃり、と空間が歪んだ。殊奈、格子、部屋、壁、月灯り。俺の視界に映るものは、すべて溶かした絵の具の様に混ざりあっていく。沢山の色は打ち消され、やがて黒しか残らなくなった。全てが、黒になる。

 ふと、自分の掌を見る。黒に肌色がよく映えた。

 掌を握ろうとした。だが、動かない。指先一本たりとも。

 やがて、開いたままの掌も、ぐにゃり溶けていく。

 手足が消え、腕が溶け、胴体が無くなり、黒は首まで飲み込んでいく。

 そして、次は顔も。



「大丈夫?」



 ハッ、とし顔を上げる。殊奈がいぶかしげにこちらを見ている。歪んでは、ない。勿論黒一色ではない。掌も、きちんと肌色を保っていた。


「今のは………?」




 思わず声に出して呟く。さっき見た事は何だったんだ。夢?にしてはリアルすぎる。でも実際、この部屋は何も変わっていない。

 そういえば。さっきのやつを見る直前、何か聞こえた様な気がした。女とも男ともとれる声、だったか。さっきの夢の様な出来事は鮮明に思い出せるのに、これだけはどうしても思い出せない。



「だーいじょーぶか?」



 背後から声がし振り返る。大きな瞳。反射的にあとずさると、それは伊助だった。

 伊助は俺を見て首を傾げ、何故かその後何事もなかった様に、暁と共に部屋から出ていこうとした。

 いかにも当たり前の行動という雰囲気の彼等に、俺は訳が分からず慌てて声をかけた。



「ちょ、ちょっと待って!二人共どこ行くんですか!」

「何処って、今さっき言っただろ。殊奈がゼロと二人で話がしたい、って言うからじゃあ一回別の場所行って待ってる、って」



 別の場所?二人で話す?そんな事一言も聞いてない。

 考えてる合間に、伊助と暁は暗闇の中に溶け、そして消えてしまった。

 部屋に残されたのは俺と殊奈。痛い沈黙。とりあえず振り返って話を聞く事にした。

 殊奈は床に座り、格子を掴んだまま深くうつ向いている。




「あの、話って一体」

「助けてくんろ!」



 殊奈が顔を上げ叫んだ。助けてくんろ。くんろ。くんろ。

 く、くんろ?

 先程のか細い、触ったら崩れてしまう様な雰囲気は、もう彼女にない。目の前の殊奈の瞳には力が宿り、しっかりと俺を見つめていた。

 殊奈の突然の変わり様に、どういう事か俺の頭は把握出来ずにいた。

 その間にも、殊奈のマシンガントークは進む。弾む弾む。



「お願ぇだ、おらをここから出してけれ!おら、ほんとは殊奈様じゃねぇ、普通の女だ!そりゃあ、殊奈様になってみたいとは思っとったさ。けどよ!まさかこうやって檻に入れられるなんて知らなかっただ!ホンマツテントウもいいところだ!このままじゃおら、殺されちまう!だから」

「ちょちょ、ちょ待った。ストップ。落ち着いて、とにかく落ち着いて!」



 格子を壊さんばかりの勢いで掴みかかり、しまいには泣きじゃくりながらも話す殊奈をなだめ、俺は彼女と同じ目線になるよう座った。



「あ、あの。今言った事、マジですか?」

「あ?」

「だから!自分は殊奈じゃないって、本当です、か?」

「んだ!本当だ!だから助けてくんろ!」



 メマイがした。俺は思わず頭を抱えた。

 何だ。どういう事だ。何だこの怒涛の新展開は。着いて行けない。意味が分からない。

 目の前の殊奈を見る。美しい顔は涙と鼻水で崩れ、まるでだだをこねて泣く三歳児の様である。


 とりあえずこの状況を理解しようと、こめかみに指を当て考えようとした。

 その時。頭の中で、ある意味今一番話をしたい奴の声がした。



「おい、大丈夫か!」

「大丈夫なわけあるかリエ!何だこの話、内容が突拍子すぎて」

「いいから早く戻って来い!」



 珍しく荒い、焦っているような口調。というより、リエのいかにも涼しげな人を見下した、まぁ良く言えばクールなあの顔からは、こんな慌てた口調は想像出来なかった。



「何、一体どういう……」

「話は後!こっちに戻ってから!だから早く目の前の女の子に名前返して戻ってきてちょうだい!」



 ち、ちょうだい?今さっきの声、リエだよな。リエ、男だよな。

 駄目だ、これは夢なのか。俺は寝ているのか。



「何一人でぶつぶつ言っとる?」



 殊奈がいぶかしげに尋ねる。確かに、一人で怒鳴ったり考えこんだりしている俺は、端から見ればおかしく映るだろう。

 ん?ちょっと待て。今さっきリエ、目の前の女の子に名前返して、って言ったよな。

 てことは。



「右手にその子の鍵がある!だからお願いだから早く戻って来てくれ!」



 今度はリエとは違う男の声が、頭に響いた。何だよ、本当に一体どうなっている―――



 コツン



 床についてた右手に、固い何かが当たった。その固い、冷たい何かをたぐり寄せ、視界に入るよう持ってくる。



 鍵だ。鈍い鉛色を放つ鍵だ。




「あの。あなた殊奈さんじゃないなら、本名は一体」

「わがんねぇ!だからおらが偽者だって言っても誰も聞いてくれんがった!早く帰んなきゃ、かあちゃんや弟が心配しとる!」

「最後に質問。あなた、夢の中で顔が白くて鼻が赤いヘンテコな服きた妙なテンションのやつに会わなかった?」

「あ、ああ………そういえば、その夢見てがらおら殊奈様になっただ」



 やっぱりだ。名前を言ったかどうかは聞かなくても分かった。やる事は、一つだ。

 右手の鍵の先端を殊奈に向ける。前回のドラゴン同様、殊奈からもゆっくりと錠が出てきた。鍵の先端を、鍵穴に差し込む。

 なんか最後はドタバタになってしまった。これは本当に、この本のシナリオなのだろうか?急展開にも程がある。おかしい。

 まぁとりあえず、現実世界に戻ったらリエに聞けばいい。今俺が考える事じゃない。



 鍵をゆっくりと回す。右に四十五度。


          

 ―――カチャリ


          

その音を確認した俺は、光に包まれる部屋の中、眠るように瞼を閉じた。



 そういえば、あのリエのお姉言葉。あれは何だったんだろう。







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