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名前泥棒  作者: 麻生 閃
11/22

全ハ月下美人ノ為ニ。-2-




その銀色は、綺麗



◇  ◇  ◇  ◇  

 

目の前の銀色が風になびく。

長く、柔らかそうなその銀色の髪。

それはまるで、鋭い刀の様で。尚且、月の尖端の様で。


「話を聞けぃ!!」


鳴りの良い音が響き、同時に俺の頭に鈍い痛みが。

これで二回目。


「イスケ、別に後ろから叩かなくても…………しかも平手で」

「だってよ、折角俺がどうやってこいつらを倒したか、という素晴らしい武勇伝を聞かせてやろうと思ったのによぉ。こいつ全っ然返事もしてくれねぇの!こいつ聞いてねぇんだよ!」

「この人じゃなくても聞きたくないよ。あと僕もこいつら倒したから」


痛みが残る頭を後ろに向かせる。

居たのは二人。

途端、俺を叩いたと思われる奴と、目が合った。


「お、ようやく聞く気になってくれたか!俺のスンバラシイ武勇伝を!」

「イスケが叩いたから振り向いただけ」


状況がいまいち理解出来ないんですが。

てか、この人達誰ですか。

すると二人組の片方、どやしている奴をあしらっている、背の高い男が話しかけてきた。


「そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前は暁。季節の秋じゃなく、アカツキと書く暁の方。宜しく」


暁と名乗るこの男。

見た目は細身で長髪だから、一見女に見える。

衣装が白っぽい事もあってか、どことなく妖しい雰囲気がでている。

狐の幽霊が化けたら、きっとこんな感じだろう。


「俺は伊助!橘伊助ってんだ!んー。今度はちゃんと聞いてるよな?」



俺の頭を叩いたコイツ――橘伊助は、目の前まで近付き顔を覗いてきた。

視界に入った大きな丸い瞳に、幼さが感じられる。パッと見て16、俺と同じぐらいの歳か。


「んで、アンタの名前は?そのヘンテコな服から見ると、俺達と同じ穂積出身者っぽいけど」

「ホズミ?何ですかそれは?」

「え、違うの!?」

「いやだから………」

「もしかして、落鳳の奴ら―――」

「あのだから」


否定の言葉を出す前に、俺の口は伊助の手で塞がれた。

あまりにも唐突、素早い。

俺は、身動き一つとれなかった。

怒りを込めた目で俺を見、伊助が呟く。


「おいテメェ。俺は落鳳の奴らが大嫌いなんだ。もしテメェがそうなら、ここで生かして帰す訳には―――」

「伊助」


暁が呼ぶ。

伊助は悪態をつきながら、暁に顔を向けた。


「彼。何か言いたそうだよ」


伊助は俺を見て、一瞬眉間にしわを寄せてから、口を解放してくれた。

それと同時に、言いたかった事が流れ出す。


「あの俺はこんな風にされたり忍者に追われたりする覚えありませんし第一ホズミとかラクホウとかロウグとか姫とか知りませんから!以上!」


言ってから気付いた。

俺、パニクると言いたい事を、吐き出す癖があったっけ。

酸素を使い果たし、息切れしながら睨む俺。

それを見て、伊助と暁は暫く呆気にとられ、


「ぶっ………くはははははは!!」


二人同時に笑いだした。

次に呆気にとられるのは俺の方だった。

何だこの世界。意味が分かりません。

散々笑って、ようやく暁が口を開いた。


「いやごめん………あまりにも君が似てたもんだから……くくっ」

「いやホント!お前アイツの兄弟!?もうホント………っ、っははは!」


伊助は、腹を抱えてまた笑いだした。

そいつと俺は、そんなに似てるのか。

駄目だ。分からない事が多すぎる。

俺だけ一人、話題に乗り遅れた焦燥感にかられる。こんな事ごときで。


「―――あの。その人と俺って、そんなに似てるんですか」


二人同時に、肯定の頷き。

すると、伊助が涙目を擦りながら言った。


「あ、お前知りたいの?どうゆうやつか。なら里に来いよ!」

「おい、そんな安易に他者を入れちゃ駄目だって、あんなに頭領に言われたじゃないか」

「いいじゃねえか暁、減るもんじゃ無いだろ」


そういう問題じゃないと思う、と俺は一人ごちた。



「いや、別に俺行きたくないですし」

「いーじゃねえか!遠慮は禁物だぜ、って事で決まり!ハイ決定!」



強制かよ。


「いいのかなぁ………こんな理由で里に他者入れちゃって。ヒヨリ怒るよ?」

「大ー丈夫だって、心配すんな!ちょっとアイツに会わせるだけなんだし、里の奥まで入らなきゃいいだろ。ヒヨリには新しい下僕って言えば完璧!な?」

「………まぁ、伊助が頑固者だって事は、僕がよく知ってるし。どうせ何が何でも連れていくんでしょ?」

「勿論!!」


伊助の満面の笑みを見て、暁は諦めたように溜め息を付いた。

そして俺の方を見て問いかける。


「君。親御さんはいる?」

「い、いえ。居ませんが」

「お金持ってる?」

「いや、此処に来たのは初めてなんで」

「もしかして君、異国から来たの?」


異国というか、異世界から来たんだけど。

でもさほど変わりは無いと思い、俺は首を縦に振った。

訪れる暫しの沈黙。


「―――じゃ、いっか」


伊助とは違う、悪戯っぽい雰囲気が入った笑み。

明るいトーンで暁は言った。

これで、俺の発言権は無くなった様だ。

里には行きたくない。

ここでブラブラしていても、この服装からして怪しまれる事必須。里に行った方が、もしかしたら何かしらの情報が得られるかもしれない。多分。

だが。

何か、すっごく嫌な予感がする。


「なーに難しい顔してんだ!ほら、さっさと乗れよ!」


思考を中断し、声がした方を見る。

伊助が俺の前で、おんぶをする様な体勢で、しゃがんでいた。


「………乗れ、って事ですか?別に俺、歩けますけど」

「俺の足で行った方が、断・然速い!とにかく乗れ、明朝までに帰んなきゃ俺らが怒られちまう」


俺と同じぐらいの体格の伊助に、俺を背負えるか心配だったが、忍者との鬼ごっこで足が悲鳴をあげていたので、その言葉に甘えることにした。


そういえば、あの銀髪の人は誰なんだろうか。

あの美しい、視界からそらせない程の、銀を持つ人は。

俺は後ろを振り向く。


「――――いない」


そこには、闇がかった空間と、灰色の建物しかなかった。

まるで、何も居なかったかのように。

あれは、幻?

そんな筈はない。

だって、あの銀は――――


「おい!どうした!」


伊助の声で我にかえる。

考えても、仕方ないか。

俺は伊助の背中に乗った。見掛けより筋肉が付いてる事が分かる。

上手く乗った所で、隣に居た暁が口を開いた。


「そうだ。結局名前聞いてなかったよね。君、名前は?」


そうだった。何やかんやで本題が流れていってた。


「俺の名前は――ゼロです」

「ゼロって、壱・弐・参て数字の零か?」


そんな事を考えたこともなく、俺は曖昧な返しをした。

一瞬、暁の顔が歪んだように、いや歪んだ。

ほんの一瞬。


「よし、じゃあゼロ!しっかり捕まってろよ」


伊助は大きな息を吸い、少し上半身を屈める。

その瞬間、空気が止んだ。





◆  ◆  ◆  ◆  




格子越しに切り取られし月


手を伸ばしても届かない空


必ず助ける


いつまで信じ続ければ良いのですか


報われない




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