終焉の予感
かつて、世界がまだ一つだった頃。
そこには「音」を司る神子アベルと、その最愛の歌姫アテネがいた。
二人の奏でる旋律は、荒れた大地を癒し、生きとし生けるものに幸福を与えていたという。しかし、アビスの闇が世界を侵食したとき、残酷な悲劇が二人を襲った。
アテネが闇に呑まれ、その魂がアビスの底へと引きずり込まれたとき、アベルは自らの喉を潰し、二度と歌えぬ絶望の中で一本の笛を削り出した。それが**『孤独の断片(アベルの笛)』**。
アベルがその笛を吹くとき、奏でられるのは再会の喜びではなく、愛する者を失った全宇宙の悲しみ。その音色は、清らかな生命を狂わせ、魔物を強制的に進化させ、世界を終焉へと導く呪いとなった。
九天使は、その笛をガイアの最深部に封印したが、今もなお、アベルの咽び泣くような笛の音は、境界線の向こう側から聞こえ続けているという……。
聖議事堂:会議前の「大惨事」
「ひつじくん...フッ泣かせてくれるぜ」
「うっ……うわああああああああん! アテネぇぇぇ! なんで死んじゃうんだよぉぉぉ!」
荘厳な聖議事堂に、場違いな号泣が響き渡る。
末っ子のライトが、ボロボロに使い古された絵本を抱きしめ、鼻水と涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら床を転げ回っていた。
「びっくりしたぁ、あと二週間は余韻に浸るつもりだったのにスーパー余韻タイム終わっちゃったじゃん」
「だってぇ! アベルが可哀想すぎるだろぉ! 俺だったら光速でアテネを助けに行くのにぃ!」
「お前の速度じゃ、悲しみが追いつく前に壁に激突して終わりだ。……ほら、鼻をかめ」
ルイトが差し出したハンカチを奪い取り、豪快に鼻をかむライト。
「……ルイト。俺が決めた。俺は、この日記(天聖日記)に、アベルが笑えるような結末をいつか書くんだ……!」
「……。ふん、勝手にしろ。だがその前に、ルシフェル兄様が来られる。シャキッとしろ、バカ……じゃなくて、ポンコツ」
その時
バタンッッ
「おぉ、どしたの?ラムネなんか用事でもある?」
「ライト様とルイト様に伝達に参りました、もうすぐ九天使様方の緊急会議が開かれる予定です」
「おっけー、ラムネ同行ね。ルイトはどうする?一回部活れてこないとウリ姉ちゃんに怒られるよ」
「おれ一回爆速で領地戻るわ先行ってて」
会議室にて
「……以上が、下界ガイアにおける魔力の歪み、およびアビスの不穏な動きに関する報告よ」
長女、ウリエルの冷徹な声が、会議の始まりを告げる。
「ルシフェル。アビスの最下層から、八大魔王のプレッシャーが漏れ出ているわ。アベルの笛が共鳴を始めれば、地界の魔物たちは強制進化(ロード級覚醒)を遂げ、アイギスを始めとする諸国は数日で壊滅する」
円卓の最上座。宇宙の星々を瞳に宿した男、ルシフェルが静かに目を開いた。
「……秩序が乱れている。アベルの哀しみが、再び世界を塗り替えようとしているな」
その瞬間――。
――ゴガガガガガッ!!
ヘブンの空が裂け、漆黒の瘴気と共に、冥王ハデスが降臨した。
「……九天使の末弟か。光速を気取ったところで、死の静寂からは逃げられんぞ」
ハデスの手がライトの首を掴む。しかし、先ほどまで泣きじゃくっていたライトの瞳には、微かな怒りの炎が宿っていた。
「……ハデス。お前、アベルの哀しみを……利用してんじゃねぇよ!!」
「木星」
ルシフェルの圧倒的な質量攻撃がハデスのオーラを粉砕し間髪入れずに「土星」環の斬撃が凄まじい速度でハデスの腕を切り裂いた、すぐさま「水星」の超高速で切り離された腕からライトを奪還、
「ルイト、こいつ預かっとけ」
「うん、大丈夫か、ライト。……鼻水、まだついてるぞ」
「うるせー! 今のは格好よかったろ!」
ハデスは腕の傷を眺め、不敵に笑う。
「八大魔王の力に触れた魔物たちが、すでに地界を蹂躙し始めている。……次に会う時は、このヘブンをアビスの底に沈めてやる」
闇と共に、冥王は消えた。
ルシフェルは静かに立ち上がり、命じた。
「……聖魔大戦の幕が上がった。ライト、ルイト。お前たちに最初の任務を与える。アイギス聖国へ向かえ。そこにある『進化の種』を摘み取れ」
「了解! ルイト、行こう! アベルが泣かなくて済む世界にするために!」




