第2話 修行と仲間とエリートの影
「文房具業界へようこそ!」
その声を合図に、俺たちは箱ごと揺らされ、どこかへ運ばれていった。
箱が開くと、そこは巨大な倉庫だった。
棚には無数の文房具が並び、まるで軍隊のように整列している。
「新入りかい? よろしくね」
声の方を見ると、真っ赤なボディの“赤鉛筆さん”がいた。
落ち着いた雰囲気で、どこか大人の余裕がある。
「お、おう……よろしく……」
赤鉛筆さんは微笑んだ。
「あなた、削りたての匂いがするわね。新人さんって感じ」
そこへ、鋭い金属音が響いた。
「フン。鉛筆か。時代遅れだな」
振り向くと、銀色に輝く“エリートシャーペン”が立っていた。
細身のボディ、滑らかなノック、精密な芯送り機構。
どう見ても俺とは格が違う。
「俺は0.3mmのハイエンドモデルだ。お前みたいな木の棒とは違う」
ぐぬぬ……!
確かに、見た目も性能も完敗だ。
赤鉛筆さんが小声で言った。
「気にしないで。ああいう子は自分が優秀だと思ってるだけよ」
そこへ、ゴツい声が響いた。
「おい新入りィ! まずは“削り”からだ!」
振り向くと、巨大な鉛筆削りがいた。
木製の体に鋭い刃を持つ、まさに“鉛筆削り師匠”だ。
「お前ら鉛筆は削られてナンボ!
芯が太い? 甘えだ!
書けない? 甘えだ!
折れた? 甘えだァァァァア!!!」
「スパルタすぎるだろ!!」
師匠は俺を掴むと、容赦なく削り始めた。
ガリガリガリガリッ!!
「ぎゃあああああああああ!!」
痛みはないが、精神的にはめちゃくちゃ痛い。
「ほら立て! 次は書き試しだ!」
紙の上に叩きつけられ、無理やり線を引かされる。
「線が曲がってる! 集中しろォ!」
そこへ、消しゴム先輩がのそっと近づいてきた。
「お前の線、全部消しといたぞ」
「やめろおおおおおおおお!!」
赤鉛筆さんが苦笑する。
「消しゴム先輩はね、厳しいけど悪い人じゃないのよ」
「どこがだよ!!」
そんな地獄のような修行が続いた。
エリートシャーペンは遠くから俺を見て鼻で笑う。
「努力? 無駄、無駄。無駄だよ。
お前は削られ、短くなり、折れて終わるだけだ」
悔しい。
悔しすぎる。
俺は拳を握れない代わりに、芯をギリッと震わせた。
「絶対に……負けねぇ……!」
赤鉛筆さんがそっと寄り添う。
「その気持ち、大事よ。あなたはまだ削りたて。
ここからいくらでも強くなれるわ」
消しゴム先輩がぼそっと言う。
「……まあ、期待くらいはしてやるよ」
鉛筆削り師匠が叫ぶ。
「明日も削るぞォ!!」
エリートシャーペンは冷たく言い放つ。
「せいぜい折れないようにね、木の棒くん」
俺は芯を震わせながら、心の中で叫んだ。
――絶対に折れねぇ。
――絶対に追いついてやる。
こうして、俺の“鉛筆としての修行”が始まった。




