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第10話 合格、そして静かな旅立ち

合格発表の日。

少年は震える手で筆箱を握りしめ、学校へ向かった。


「……みんな、一緒に行こうな」


その言葉に、筆箱の中がそっと揺れた。

俺も、赤鉛筆さんも、消しゴム先輩も、シャーペン後輩も。

みんな、少年の胸の鼓動を感じていた。


掲示板の前には、すでに多くの受験生が集まっていた。

ざわざわとした空気の中、少年はゆっくりと歩みを進める。


「……あった……?」


少年の目が一点で止まった。


「……あった……!僕の番号……あった……!!」


その瞬間、少年の膝が崩れ落ちた。

涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。


「やった……やったよ……!」


筆箱の中で、文房具たちが一斉に歓声を上げた。


赤鉛筆さんが涙ぐむ。


「本当に……よく頑張ったわね……!」


消しゴム先輩がぼそっと言う。


「……間違いだらけだったあの頃が嘘みてぇだな」


シャーペン後輩が震えながら叫ぶ。


「せ、先輩! 僕たち……勝ちましたよ……!」


(ああ……本当に……よかった……)


少年は筆箱を胸に抱きしめた。


「……ありがとう。君たちがいたから……ここまで来れたんだ」


その言葉に、俺の芯が静かに震えた。


――これでいい。

――俺の役目は、ここで終わりだ。



春。少年は中学校を卒業し、高校へ入学した。


だが、高校の授業は大きく変わっていた。


「今日からタブレットで授業を行います」


黒板の代わりにモニターが光り、ノートの代わりにタブレットが配られた。


少年は筆箱を開いたが、授業中に使うことはほとんどなかった。


赤鉛筆さんが寂しそうに言う。


「時代が……変わったのね」


消しゴム先輩がぼそっとつぶやく。


「……まあ、仕方ねぇよ。俺たちは“必要とされた時代”に働いたんだ」


シャーペン後輩は震えながら言った。


「ぼ、僕……出番……ないんですね……」


(……そうだな。でも、それでいいんだ)


やがて少年は筆箱を家に置いていくようになった。

タブレットと教科書だけを持って学校へ行く日々。


机の隅に置かれた筆箱の中で、俺は静かに時を過ごした。


(……短くなったな、俺も)


もう、少年の指にすらつまめないほど短い。

書くことも、削ることもできない。


でも——


(満足だ……)


少年が努力し、成長し、未来へ進んでいく姿を俺はずっと見てきた。


それだけで、十分だった。


ある日、少年がふと筆箱を開けた。


「……ありがとう。君は……僕の原点だよ」


その言葉を最後に、俺の芯は静かに、音もなく消えていった。


痛みはなかった。

寂しさもなかった。


ただ——


少年の未来が、明るく続いていくような気がした。



最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

一本の鉛筆が少年を支えた物語、楽しんでいただけたなら幸いです。

また別の作品でお会いできる日を楽しみにしています。


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