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コックピット開けたら死にかけだったとき気まずい

 転生したら剣と魔法の世界だと思っていた時期が俺にもありました。


 実際はロボットvsロボットばっかやってる殺伐としたSF世界でした。しょんぼり。

 こんなんなるならもっと前の人生でロボットアニメを見ていればよかった。

 転生ものはいっぱい見てきたからギリギリセーフだ。


 よくある転生ものよろしく、俺はロボットをめちゃくちゃうまく操れるというチートを持っており、それには大満足だった。

 おかげで死なないで済むし、スラム街で出会った血のつながらないきょうだいたちを養うことができている。

 でもきっと俺はお話の主人公ではないのだろうな、と思っていた。


 理由としては、俺が参加している戦いが小規模なものだからだ。

 一個の星の中にある、小さな地区同士の小競り合い。

 俺はそれにもう3年も傭兵として参加し、小銭を稼いでいる。


 俺達の暮らしているA07地区は治安がカスだ。ロクな人間もあんまりいない。

 とっとと負けて、紛争相手のB29地区に領土や権利を譲ってしまえばいいのに、とはずっと思っている。

 でも俺は金を稼いで妹と弟を食わせなきゃいけないから、金を払ってくれるA07の上層部に従い、襲い来るロボットを捌き続けているのだ。


 今日も今日とて、しょうもない紛争に参加し、きょうだいが食っていけるギリギリの金を貰う。

 命かけた日当にしては、本当に少ないよな。

 チート能力貰うなら体からおにぎり出せる能力とかの方がよかったのかもしれない、と泥水をすすっているときに思うのだ。


 いつもと変わらない戦闘のはずだったが、その日は様子が違った。


 ざ、ザザ――。


 俺の耳がノイズを拾い、一瞬困惑するが、発信源が昨日搭載されたばかりの通信機であることに気づく。

 きょうだいのうち、2番目の妹シセルは機械いじりが得意だ。

 この機体のメンテナンスも、もはや俺以上にうまくできるようになりつつある。

 そんなシセルが、俺があげたお小遣いと拾ってきたジャンク品を組み合わせ、作ってくれたのがこの通信機である。

 俺には戦場において仲間がいないため、今まで必要になったことがなかった。使い所も思いつかなかったが、妹からのプレゼントだから搭載した。


『ヴォルフ傭兵団募集通信、第207回!』


 ノイズばかりであった通信機が突如明朗に喋り始め、心臓が止まりかけるほど驚いた。

 同時に目の前に敵の機体が突っ込んできたため、冷静に対処する。


『戦場のパイロット諸君、ごきげんよう! そこの君、今の戦場に満足しているか?』


 ラジオのような語り口だった。

 誰か個人に向けたものではなく、広く大衆――それも戦場にいるパイロットに向けたニッチなラジオ。

 敵から繰り出される鋭い攻撃を捌き、弾幕を避けるために機体を後方に動かすと、通信機は再びノイズに包まれた。

 なんというかつまり、この放送はあの機体に近づくと聞こえるらしい。簡単な推測、発信源はあそこ。


 ――やだなあ、あの機体と戦うのは初めてではないが、強いんだよなあ。


 腕におそろいのマークを入れた機体は、他の機体より動きが数段違う。

 B29地区のエース、あるいは上層部お抱えの軍人とかかな、と思っていたが――その答えを聞くには、近接戦闘をしなければならないらしい。


 俺は覚悟を決めて、鉄パイプのようなチャチな武器を握った。

 ほんとね、一撃必殺で決めるとき以外、こんなオモチャで敵に近づいてはいけない。

 しかし俺はチートを持っているので、やろうと思えばやれるのだ。

 通信機から聞こえる声が、この先何を言うのか聞きたいという好奇心は抑えられない。


『我々ヴォルフ傭兵団は、常に優秀なパイロットを求めている!  乗機を持っていなくてもOK! これまで敵だった? そんなの関係ない! 過去の戦績も不問! 加入者には充実した待遇を保証ぅおっ! あぶねっ!』


 どうやらこの放送はリアルタイムで行われているらしい。

 あまりによどみなく流れ続けていたため、てっきり録音かと思った。


 ラジオ電波を飛ばしている機体の腕関節部に俺の武器が入り込み、そのままテコの原理でねじれば腕をもぎとれる、というとこまで行くと、ラジオからは慌てた声が聞こえた。

 俺は思わず手を止め、その隙に機体は逃げていった。傷つける気は失われたが、ラジオの続きを聞くために距離を詰める。

 ラジオ機体は俺から距離を取ろうと後退し続けるため、俺にしては珍しくどんどん敵陣に突っ込んでいった。


『確実な報酬支払い――今の上司は本当に充分な金を払ってくれてるか?  高度な整備サポート! まともなパーツ使えてる?  戦場外の安全な居住区! 君の寝床は瓦礫の隙間じゃないか?  家族の移住も可能! 大事な人を戦場に置き去りにしてないか?』


 最後のはまさに《《殺し文句》》だった。

 動揺した俺は隙を突かれ、手痛い一撃をもらってしまう。

 俺がチートを持っていなかったら、文字通りの殺しになっていた。

 向こうに一撃いれかけたとき、ラジオから《《動揺した声》》が聞こえたのも原因だ。


 俺が今まで敵機体を次々に壊してこれたのは、その見た目が機械だったからだ。

 中に人が乗っていて、壊したら人が死ぬとわかったら、そりゃためらう。殺人癖はない。

 俺だってロボットに乗ってんだから、その可能性は当然考えていた。


 でも、向こうの地区のが金があるって聞くし、ワンチャン無人機で戦ってないかなって――ジャンク品組み合わせて機体をつくった経験から言って、人乗ってなさそうな形してるし――そう自分を誤魔化して、これまで戦ってきたのだ。


 希望が打ち砕かれた俺は、ついでに機体も砕かれた。

 機体の一部が大きくへしゃげ、ほとんど戦闘不能状態だ。

 しかし足は無事だ。撤退に専念すれば、まだ命はつなげられる。


『入隊希望の者は 暗号コード、ヴォルフ・コールを返信せよ! 古典的に白旗をあげるのでも構わないぜ! それでは、次の戦場で会おう!』


 ラジオは最後にそう言って、再びノイズを吐き出し始めた。


 這う這うの体で逃げ出した俺は、なんとか居住区にまで逃げ込めた。

 ラジオで聞かされた声が頭の中でリピートされる。


『戦場外の安全な居住区! 君の寝床は瓦礫の隙間じゃないか?』


 ため息をつきたい。俺ときょうだいが住んでいるのは、まさにそういう瓦礫の隙間だった。


 倒壊した家屋の壁と壁を、トランプタワーのように組み立てただけの、名ばかりなドックに機体を押し込み、一息つく。


 すぐさま機体の外からトンテンカンテン音がして、わずかにコックピットが揺れる。

 きょうだいの一人で、いちばん機械に詳しいシセルが、俺が乗ったまま機体を修復し始めたのだろう。


 俺はロボットを操縦し、ジェスチャーでリサを呼んだ。

 彼女はきょうだいのなかでも歳が上で、マルコと同じくまとめ役をやってくれている。

 この時間ならマルコはジャンクを拾いに行っていて、リサの方がトトやナギの面倒を見ているはずだった。

 呼ばれて出てきたリサは慣れた動きでロボットの手の上に乗り、リサがコックピットを開けられるようそっとロボットの胸元に運んだ。


 内側から操作してコックピットを開けられるようにするが、扉を開けるのにリサは手間取ったようだった。

 戦闘の際、枠が歪んだのだろう。よくあることだ。

 特に今回の機体の損傷位置的に、ハッチが歪むのは仕方がない。

 しかし幸運なことに、ハッチの歪みは、ロボットの手で扉を引きちぎらなくても良い程度だった。


「にいさん、話って……」


 ハッチを開けたリサは、続きを言えなかった。


 コックピットの操縦席に座る俺の体が、一本の武骨な金属に貫かれていたからだ。


 先の戦闘でコックピットが損傷し、エネルギー伝導ケーブルが俺の腹部を貫通したのだ。

 しかし、そのケーブルは高温を帯びており、肉は焼け焦げたものの、出血は最小限に抑えられた。今は出力を切り、熱は失われている。


 幸いにも、内臓に致命的な損傷はなかったようだ。

 ただし、高温によりケーブルと体組織が溶着しており、取り除くのは容易ではない。

 単純にケーブルを引き抜けば事態が解決するわけではなく、俺はその場から動けずに固まっていた。

 まあ操縦席に座ったまま動けなくなっただけで、俺は最近日がな一日操縦席に座って戦闘に赴いていたので、そんなに問題じゃないかも、などと楽観的に考えるようにしていた。

 しかしリサの青ざめた顔を見ると、その楽観が崩れそうになる。だが俺は立派な兄ちゃんを心がけているので、表情を変えず、安心させるべく声をかけた。


「だいじょうぶ」


 俺がそう言うと、リサの止まっていた時間が動き出した。

 素早くハッチを閉め、操縦席近くまで滑り込んでくると、足元のキャビネットを開ける。

 中には緊急治療セットが入っており、中身を検分し、テキパキと俺に処置し始めた。

 しかしその手もすぐに止まる。もうできることがない、という俺と同じ結論に達したのだ。


 もうこれを三本目の手や、足としてしまったほうが自然かもな、というくらいケーブルが俺の体にひっついている。

 引きはがした場合、腕を千切るのと同じくらい出血するだろう。

 この世界はSFで、傷口にスプレーを吹きかけるだけで、痛みがなくなり血がピタッと止まるくらいの超医療は存在する。

 しかしこの世界における救急箱程度の物資で、この世界でもER並みの緊急手術を行うチートは、俺もリサも持ち合わせていなかった。


「医者を……呼ぶわ。ハズレのリカルドなら、なんとかできるかも」


 俺は首を横に振った。


「むりだ」


 さて、俺には医者としてのチートはない。

 しかしパイロットとしてめっちゃ強い、以外にもチートを持っている。


 ちょっとした未来視、予知能力があるのだ。


 俺がいくらパイロットとして最上級でも、この力がなければ死んでいたと言い切れる。

 どんな機体と戦ったとしても、ロボットとしての性能差はとんでもなく開いている。

 なぜなら俺が使っている機体は、ゴミ捨て場から拾ってきたジャンク品のパッチワークだからだ。


 その状態で相手の使う性能まあまあな量産型と渡り合うには、未来でも視えていなければ不可能、ということである。

 だからリサは俺の言うことをすぐに信じた。


「B29に投降しましょう。向こうなら良い医者がきっといるわ」

「リサ。いちど、おれのけがはわすれて、はなしをきいて、ほしい」

「……わかった。なに?」


 地球に生まれていたら中学生くらいの女の子だが、リサは大人よりも聞き分けが良い。

 あらゆる理不尽を、一度は飲み込めてしまう子だった。

 そうならなければ、生きていけない環境だったのだ。

 俺はそれを何とかしたくて、ずっと足掻いてきたのである。

 リサが普通のこどものように笑って、わがままを言えるようにするのが、俺の夢のひとつだ。


「B29の、ようへいだんに、はいるっていったら、どうする?」

「できるかどうかや、罠である可能性を考えなくて良いのなら、当然良い。A07は地獄だと、皆が口を揃えて言うわ。つまりそれって、他のところは、ここよりちょっとはマシだってことよ」


 リサがそう言うことは、俺にはわかっていた。

 なにしろチート能力の予知で、ちょっとした未来のことならばわかるからだ。

 だが、リサ自身がそう言ったという彼女にとっての事実が、俺にとっては大事なのである。

 俺は独断専行をする兄ちゃんにはなりたくない。家族とのコミュニケーションって大事だ。


 今のところ俺はまだ生きているが、今後やらなければならないことを考えると、さほど時間はない。


 俺はリサを通じて、ほかのきょうだいたちにやってほしいことを伝えた。

 リサが頷いて、コックピットから出ようとする前に、もうひとつ言う。


「おれのきず、ひみつに、できる?」

「……秘密にしたことを、私が後悔しないと誓えるのなら、いいわよ」

「ちかう。おれも、しぬきはない」

「あなたを信じるわ、兄さん」


 俺が死んだらきょうだいたちも道連れになってしまう。そんな愚は犯せない。

 リサは最後にぎゅっと、俺に抱き着いた。

 こわばった手で、リサの背中を何度かさすってやる。


 体に刺さったケーブルは超高温で俺の血液を蒸発させ切っていたから、リサの服に血がつくことを心配しなくてよかった。

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