すべてはここからはじまった
編集
伊月 小毬【いづきこまり】
18歳。高校を卒業してすぐ、編集社comixに入社。かなり低い身長と、ふたつのおだんごにした髪型から、実年齢よりもかなり幼く見える風貌。本人はそれをコンプレックスに思っており、オフィスカジュアルではなく絶対にスーツを着用することで、軽減を図っている。性格は明るく前向きで、愛想もいいが、言葉のチョイスが辛辣であり、時に目上の人にも失礼なことを言ってしまう悪い癖がある。コミュニケーション能力に長けている反面、自身の話をあまり深くはせず謎に包まれているが、言葉の端々や身のこなしから、どこかのお嬢様ではないかと噂されている。
七里 叶実【ななざと かなみ】
27歳。小毬の教育担当。マックスminiのチーフマネージャー。穏やかな性格で、常に糸目。高卒で入社してきた小毬をなにかと気にかけ、心配している。自身は作家を担当しておらず、常に会社にいるため、総合的な指示を同期である藍川と担当。駄目な上司をもち、藍川と一緒にminiを廃刊の危機から救った敏腕マネージャー。
藍川 綴【あいかわ つづら】
27歳。七里と同期であり、幼少期からの幼なじみ。真面目な性格で、怒ると怖い。Miniで唯一、相葉に苦言を呈すことのできる人物。憧れの編集社へ七里と入社時、落ち目の現状に廃刊になってしまうことを危惧し、七里と共に建て直した敏腕キャップ。
相葉 翠【あいば みどり】
30歳。マックスminiの部長。だらしない性格で、常にデスク上でだらけている。現金なところがあり、ご褒美に乗せられて一時的にやる気になることもあるが、ほとんどの場合は熱意がない。暇になれば社員にちょっかいをかけ、全ての仕事を七里と藍川に任せていることから、判子を押すことだけが仕事だと言われている。
笹野 ねね【ささの ねね】
23歳。小毬と同期の新入社員。大学卒業後、一年だけデザイン会社に勤めていたが、あまりのブラックさに退社。縋る思いでcomixに入社したため、miniへの配属にも不満はない。それなりに、そつなく、をモットーにしているが、個性的な作家に振り回され、また前の会社とは別の意味で苦労している。かなりの甘党で、甘いものならどれだけでも食べられるらしい。可愛いものが好き。
作家
五十嵐 青葉【いがらし あおば】
ペンネーム ブルー婆【ぶるーばばあ】。28歳。miniで連載中の【たなからぼたもち】(通称たなぼた)を連載中。独特の世界観で恋愛を描き、読み切りで人気が出て連載中。間違いなく目玉作品として、週刊マックスからも声がかかっているが、移行できない理由があることとと、本人が希望していないことから、miniで連載を続けている。あまり創作意欲に長けているタイプではなく、常に仕事を辞めたいと零しているが、締切は必ず守る。婚期に焦っているらしい。
田端 マリー【たばた まりー】
ペンネーム 右京 左々【うきょう ささ】。25歳。miniで連載中の【とびだせ青春納言!!】の作者。自身はロシアとのハーフで綺麗な顔立ち、スラッとした体型だが、コンプレックスに感じているようであまり触れられたくないらしい。その反動で日本文化や和装を好み、過去の作品も全て和に関連している。青春納言は3年連載が続いており、人気からもminiの看板作品。性格は内向的で、ほとんど家から出ない。
第一話 すべてはここからはじまった
都内某所、大都会の真ん中に佇むビルを見上げると、ビル上部にcomixの文字が見え、思わず口角が上がる。
(よーし、夢のcomix編集社!ぜっっったい、内定もらうんだ!)
自分の頬をぺちりと叩き、ビルの入口へと意気込んで歩みを進めた。
「では、お名前をお願いします。」
「はい…!伊月小毬です!よろしくお願いします!」
殺風景の部屋の真ん中に座らされた小毬は、床につかない足を少し弄ぶ癖がでてしまうほどに興奮していた。次々と投げかけられる質問にも、緊張の色を見せることなく、目を輝かせて答えていく。
「ありがとうございます。では────」
続く面接官の言葉に、小毬の顔が初めて固まった。その変わりように、面接官も困惑しながら、再び言葉を繰り返す。
「え?」
「…ですので、今年はminiへの配属も有り得るのですが、その点は────」
もう一度突きつけられる言葉に、小毬は呆然とした。考えもしなかった言葉に、部屋が回っているような、座っていられないような感覚に、渦の中に放り込まれたような感覚になった。
「…いえ、」
思いがけない小毬の返答に、面接官は目を丸めた。その様子にも気に止めることなく、小毬は続けた。
「マックスへの…マックス無印への配属を希望します!」
そう笑顔をうかべる彼女の目には、さっきまでとは違い、光がない────
…
「って、言ったのにーーーーーーー!!!!」
思わずベッドに投げつけた携帯には、“配属部署のお知らせ”の文字。顔を手で挟む癖は変わらず、そのまま天を仰ぐように天井を見上げ、今度はズルズルとヘタリ混んだ。
「ん────!!!!」
ぼすぼす、とベッドに拳を叩きつける。そうしていると少し気が楽になったように感じ、投げつけてしまった携帯を今度は優しく手に取った。
「はあ…」
憧れのcomix編集社に入社が決まり、大喜びしたのが二ヶ月前。そして入社式が一週間後に控えていた小毬にとって、久方ぶりのショックな出来事だったのだ。
「いや、諦めない────」
スクッと立ち上がり、本棚から週刊マックスを手に取る。何度めくったか分からない表紙の縁をなぞり、小毬はまた決意を固めた。
「ぜっっっったい、miniで実績あげて、無印に昇格してもらうんだー!!!!」
小さな拳をふたつ、今度は天に掲げ、小鞠は大声をあげた。