第六話
熊の魔物の肉は、自分に力をもたらしてくれた。
身体は少しずつ大きくなり、魔力も戻りつつある。
リルを守れるだけの強さを、自分は少しずつ身につけつつある。
それがどういう感情なのかは、まだ解らないけれど……
それでも。自分は彼女を……守りたい。
リルは、ゆっくりと目覚めた。
身体をゆっくりと起こす、昨日は、森の中で食べ物を探していた時に、突如として現れた魔物に襲われ、そして……その魔物はどうやら何かがあって死んでしまったらしい。それが何だったのか、自分には解らない。だけど……
すぐ近くで何かが動く。あの日拾った小さい犬、ラッシュだ。かつて両親に聞いた、故郷に伝わる犬の怪物の名前、ふわふわとした毛並みが特徴的な魔物で、早く寝ない子供はその魔物に喰われる、という昔話があった。いつもいつも夜更かしばかりの自分を戒める為、亡き両親が語ってくれた昔話、その当時は怖かったけれど、母が優しく抱きしめてくれたおかげで眠る事が出来た。
始めて会った時に、そのふわり、とした毛並みが、その昔話を聞いた時に感じた恐怖と、自分を抱きしめてくれた母の温もりを思い出させてくれた。
だから、思わずその怪物の名前を付けてしまっていた。
だがもう、両親はいない。
自分は一人……
この家の中で、孤独に生きていくしか無いんだ。
そう思っていた。
だけど。
すっ、と。
床についた腕に、誰かが頬ずりをしてくる。見えずとも解る。ラッシュだ。
温かい。今朝と、その前の夜、ラッシュを抱きしめて眠った時にも感じた温もり、あんなにも……温かかったのは……とても久しぶりだった。
ラッシュと……ずっと一緒にいたい、そう思った。
だけど……もしかしたら……
もしかしたら、ラッシュは……
リルは、目をぎゅっと閉じ、またしても自分を抱きしめてくれた。
何かを考えていた様子のリルが手を伸ばして、自分をぎゅっ、と抱きしめてくれた。
ラッシュはその温もりを感じながらも、リルの頬に頬ずりをしていた。
そうしてしばらくの間、リルに抱きしめられていたが、やがて眠くなったのか、そのまますう、すう、と寝息をたて始めていた。自分は、例え生の肉だろうと食べられるが、彼女は……
彼女は、大丈夫なのだろうか?
解らない。
少し……調べるべきかも知れない。
ラッシュは、寝息をたて始めたリルの腕から、するりと抜け出す。
そして。
小屋の中から、そっと抜け出した。