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魔犬と少女  作者: KAIN
第二章
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第四話

 一夜が明ける。

 ラッシュは、ゆっくりと目を開けた。温かい感触に包まれている。気が落ち着く……ここは、一体何処だろう? そんな事をぼんやりと考えたけれど、すぐに思い出す。魔王城が、あの四人の戦士達によって陥落させられた事、魔王がどうなったのかは知らないけれど、きっとあの四人に……そして自分は、奴らに吹き飛ばされ、川に落ちて流され、そして岸に打ち上げられ、見つけた小屋の中で少女に保護されて……

 あの少女、確か名前は……

「ラッシュ?」

 声がする。

 聞き覚えのある声、少し掠れているのは寝起きだからだろう。

 そうだ。自分は……あの少女、リルに引き取られて……

 そこで、ラッシュという名を与えられた。

 リルはそのまま、自分を抱きしめ、薄汚い毛布にくるまり、そのまま寝てしまった。

 リルはゆっくりと、自分から腕を離して起き上がる。

 ラッシュはそのまま、そっと立ち上がり、リルに近づいた。そっと足首に軽く頬をこすらせる。

「おはよう、ラッシュ」

 リルは言いながら、優しく自分の頭を撫でてくれる。その手は心地良い。

「でもごめんね、私……」

 リルは小さい声で言う。その先の言葉は聞くまでも無く解った。彼女は目が見えていない、この森が、どれくらいの広さなのかは知らないが、決して狭くは無いだろう、そんな場所でこの少女は……この薄汚い小屋の中で、たった一人で生きてきたのだろうか?

 食べ物や水は、一体どうしていたのだろう? それに……彼女はどうして一人でこんな場所にいるのだろう? 人間という生き物は、群れを成して行動するものだと、魔王からは聞かされてきたのに。

「大丈夫よ、貴方の事は決して苦しませないから……」

 リルはそう言って、また優しく自分の頭を撫でてくれる。ラッシュは黙ってされるがままになっていた。この少女は一体……

 一体、何者なのだろう?

 ラッシュは、ぼんやりとそう思った。


 やがてリルは、自分の身体を撫で終えた後、ふらふらと家を出て行った。

 ラッシュは不安に思いながら、そっとその後に続く。彼女はふらふらしながら手探りで小屋の近くの壁をベタベタと振れ、近くに立てかけてあった鍬を取り、ゆっくりと森の中に入って行く。ラッシュは後に続いた。

 潰されてしまった右目は、残念ながらまだ治ってはいないが、身体の傷は少しずつ治って来ている、動くのに支障は無いだろう。そう思いながら歩いているうちに、リルは森の奥へと辿り着いた、足下を探りながら、そこらに生えている草やキノコを採り始めた。

 どうやら食料をああして確保しているらしい、あれならば、まあ簡単に飢える事は無いだろう。ラッシュは安堵しながら、それを見ていた。

 彼女はそのまま、次々とキノコや草を身につけている汚れた服のポケットにねじ込んでいく、ラッシュは黙ったままでリルを見守っていた。しばらくの間そうしていた時……

「っ」

 ラッシュは、ぴくっ、と身体を震わせる。

 微かな音、大気が震える雰囲気、そして……肌にビシビシと伝わって来る殺気。獣のそれでは無い、もっと強い……

 魔物の気配。

 ラッシュは、ぐるる、と唸る。

 その唸り声が聞こえたのだろう、黙ってキノコや草を採っていたリルが、肩を震わせてこちらを振り返る。

「ラッシュ?」

 呼びかけた直後。リルの前方の草ががさり、と揺れる。こちらを振り向いている彼女は、その事に気づいていない。

 そして。

 ざあっ!! と音がして、目の前茂みが揺れ、顔を出したのは黒い熊だった。

 否。

 違う。

 あれは……魔物だ。

「……え?」

 リルが、魔物の気配を感じたのか、そちらを振り向く。ラッシュは咄嗟に隠れていた茂みから飛び出し、地面を走ると、魔物とリルの間にざざっ、と割って入る。

 ぐぉおおおう!! と魔物が吠える。口元が血に濡れているのが見えた、ついさっき、この森の中で人か、或いは森の動物か、そんな奴らの血肉を漁ったばかりというところだろう。

 それで食い足りないか?

 ラッシュは思った。そのまま唸る。

「ラッシュ? そこにいるの?」

 リルが言うのが聞こえる。ラッシュは安心させる様に、彼女の方を見て一声鳴こうとした。

 だけど。

 視線を逸らしたのがいけなかった、ぶんっ、と音がして、熊の魔物が右腕を振り上げ、一気に振り下ろす。ばしっ、と音がしてラッシュの身体が吹き飛ばされる。

 ぎゃうんっ!! と声が出る、ラッシュの身体はそのままどんっ、と近くの地面に叩きつけられる。

「ラッシュ!?」

 リルが叫ぶ。熊の魔物が、どすん、どすん、と足音をさせながら、ラッシュの方に向き直り、ゆっくりと近づいて来る。

 ラッシュは起き上がった、リルに気を取られてしまうとは……

 ラッシュはぐるる、と唸る。何故……

 何故、自分はこんなにも、あの少女に固執しているのだろう?

 魔王が死んで、自分を保護してくれた彼女に恩義を感じているからだ。

 その程度の事でか?

 名前を与えてくれた。ラッシュという名前。

 それしきの事で……彼女に対してそんなにも恩義を感じているのか? 解らない。

 そんな事を考えている間にも、熊の魔物はこちらに近づいて来る。どうする? 今の自分は、身体の傷はほとんど癒えているとはいえ……ほとんど力が無い、こいつと戦う事が出来るのだろうか? 考えていた時だった。


「ラッシュ!!」


 声がする。

 ざっ、と音がして、リルが走りより、自分の身体をぎゅっ、と抱きしめる。


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