実は人気VTuberのあいつは俺にだけパスワードをしかける
おいおい、またかよ――返されたスマホを見て俺は呆れた。
パスワードを変えるのは何度目だ? 両手じゃ数えきれないぞ。
郷野杏がチロリと舌を出す。こいつ、二人きりの時はいつもこれだ。油断してると俺のスマホを勝手にいじくる。
「だって気になるじゃん。変な子から何かきてないか、とか?」
ねーよそんなの。メッセはオトンとオカンとお前だけだよ。
仕掛けられたパスワードはこいつが出すクイズの答えなのだが、独特すぎていつも苦労させられる。前回は「14106分前に私が食べた物は?」、解除までに三日かかった。
で、今回はどんな奇問難問なんだ?
「それは今晩のお楽しみ。だから絶対見てね、死んでもだよ!」
クラスメイトが来たのに気づいた郷野はそそくさと教室を出ていった。
死んだら見れねーだろ。
郷野はVTuberだ。
学校では「地味アンコウ」と呼ばれてるあいつが大人気不思議系魔法少女〝トオル☆茂地〟だという。興味のない俺でも知ってるビッグネームだ。
ちなみに高校で再会した幼なじみのあいつが実は女で、ひょんなことからVTuberだと知ってしまった上に秘密にしろと脅迫された事はどーでもいいので省略。
その夜、俺はパソコンの前で放送を待った。
時間きっかりにあいつのアバターがどアップで登場する。
ピンクのツインテ、フリフリの衣装、ウインクすればマジカルパワー、そして始まるミラクルドジっ子日常トーク。
いいから早く問題を出してくれ、と舌打ちしていると画面の様子が一気に変わった。
『実はトオル、みんなに魔法かけちゃいましたー』
【えー、どんな魔法】【ミラクルトオルん☆】【かけてかけてー】コメントが画面に溢れる。
『みんなのスマホにパスかけちゃいましたっ。答えはあなたのことずっと想ってる女の子の名前だよっ』
【トオルたんハァハァ】【おまいら落ち着け】【既にスマホ開いてるオレは無敵】延々と続くコメント。
今回の答えは楽でよかった。人気Vtuberともなるとファンサも大変だな。
俺はスマホを開いて、toorumoji、と打つ。
しかし出てきたのは「正しくありません」の文字。
設定ミスったな、自分の名前くらい間違えずに打てよ、郷野杏。
やる気をなくした俺は急激な睡魔に襲われスマホと一緒にベッドにダイブする。
明日、直接言えばいいか――俺は重い瞼に従った。
「なんでそっちの名前なのよ、ばかぁっ!」
翌日、理不尽な罵声を浴びるのだが、それはまた別のお話し。
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この作品はラブコメですがシリアス寄りな長編も書いてます。
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