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花と初恋  作者: 来海 空々瑠
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出会いの桜

「はあっ……!」


胸の息苦しさを感じた雪乃(ゆきの)は、布団から飛び起きた。


目を覚ませば、そこにはいつもと変わらない景色。6畳ほどの部屋に、化粧道具や髪飾りが散乱している鏡台、梅の絵が描かれた障子、壁に並べている華やかな柄の着物たち。


「また、あの夢……」


まだ、どきどきと脈打つ心臓の辺りをぎゅっと握りしめ、大きく息を吐く。額に手をやった彼女は、心を落ち着かせるためにそっと目を閉じた。


脳裏によぎるのは、麗しい男の歪んだ顔。


頭の高い位置で結んだ長髪をなびかせ、こちらを見つめる切れ長の瞳は悲しみに満ちていた。その顔を見るたびに、雪乃の胸は引き裂かれそうに痛むのだ。


最初はただの夢の中の話だと思っていたのだが、胸に残る切なさと恋しさはどうしてか心の中から消えてくれないから困る。時折、ふと現れるその残像は確かに身に覚えがあるものばかりで、どの記憶も鮮明だった。


自分の中に突如、現れた別の記憶。それを雪乃は「前世の記憶」と考えている。


人は死ぬと、また生まれ変わるという話があるように、自分もまた誰かの生まれ変わりなのかもしれない。理由は分からないが、その頃の記憶を思い出したのではないか。今は、そう結論を出して折り合いをつけている。


「……けど、どうして突然」


顔を上げた雪乃は抱えた膝に顎を乗せて、ぽつりと呟いた。これまで、そんな「前世の記憶」が現れる片鱗など微塵もなかったのに、なぜ……?  そんな疑問が頭の中をぐるぐると巡る。


「ああ、もう! これ考え始めたら切りがないのよね!」


すっかり考えこんでしまいそうになった雪乃は、慌てて首を左右に振り、別のことを考えることにした。窓の方を見れば、外はほんのりと明るくなってきた時間だ。窓に近寄り、障子を開いて丸窓から空を見上げると、そこには雲一つない澄んだ空が広がっていた。


通りにはすでに、ちらほらと店開きの準備をしている商人たちがおり、朝からせっせと忙しなく働いている。変わりない日常に、先ほどとは打って変わって雪乃の口元はにこりと弧を描いた。


「今日は快晴ね。こんな天気の良い日は、何かいいことが起こるかも」


天気一つで淀んだ気持ちを吹き飛ばした雪乃は、「よし!」と気合いを入れて明るい声を出す。布団一式はそのまま掛け布団と敷布団、枕も一緒に畳んで部屋の隅へ。布団を片づけたあとは障子を閉め、部屋に向き直り、鏡台の前に背筋をぴんと伸ばして座る。


「さあ、今日も頑張って働きますか」


着物の袖を捲り上げ、鏡に向かってにっこりと笑顔を浮かべた。暗い気分になりそうなときは、こうして前向きな言葉を口にしたり、無理矢理にでも笑うに限るというものだ。


軽く化粧を済ましたあとは、するすると寝巻きの帯を解きながら壁に掛かった着物を眺める。鼻歌を歌う楽しげな表情からは、先ほどのどんよりとした空気は消え去っていた。


「今日は、どの着物にしようかな、っと」


とはいえ、人生とは何が起こるか分からないもの。「一寸先は闇」という言葉があるように先のことは予測がつきにくいものである。


お気に入りの着物を手に取った雪乃は、ご機嫌な様子で身支度を行っていたのだが、「何かいいことが起こるかも」と期待に胸を膨らませていた彼女の予想は、残念ながら外れてしまうのだった。

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