02
「オシリスⅡ、準備ヨシ!朝飯、準備ヨシ!昼飯替わりのゼリー、準備ヨシ!ネット回線、問題ナシ!天気は曇天!馬場快調!全馬ゲートイン!!」
男の一人暮らしが長いと独り言もこんな感じになるから皆気を付けるんだぞ?おじさんとの約束だ。
さて、指差し確認も終わった事でオシリスⅡを装着する。
ハンドグローブを付け、レッグギアをくるぶしに巻き付ける。
専用のマットレスをベッドの上に広げ、ヘルメット型のコントローラーを被って本体の電源を入れるといよいよ準備完了だ。
VRゲーム用の各種ギアは数年前から画一化されて、ある程度安価になってきたとはいえ、未だに結構大がかりな準備が必要なのは、その構造上仕方のない事なのだそうだ。
詳しくは詳しい人が説明しているから省くが、筋肉への電気信号がどうとか、フィードバックがどうとか、五感のシャットダウンがどうとかいう話だ。詳しいことはよく知らん。詳しいことを知らなくても安全性が担保されているのが和製ゲームの良い所じゃねぇか。今まで一度もゲームで死者なんて、お隣の国では出ても我が国では出てないんだから。出てないよな?
マットレスの上に寝っ転がると自動的にヘルメットの前部ガラス面がブラックアウトしていく、これも詳しい仕組みは知らんが睡眠導入の為だかなんだかだ。人によっては設定を変更したりするらしいが、俺は平々凡々一般人なので標準設定から変えていない。
――――――――――
”Osiriss Ⅱ”
気付いたら一面の青い空間を背景に眼前でロゴが踊っていた。
いや、本当に文字が踊っている、VRゲームは初めてだが手を伸ばせば届く位置で揺れ動いている。
「うおっ、本当に触れた!」
肌触りは風船みたいだ。凄いな、触感も再現されている。多分実際には触れたように感じているだけなのかもしれないが、それでも感動を覚えるぜ。
(さて、ソフトは……)
左手を胸の前に持ってくると、ARウィンドウの様な画面が目の前に浮かび上がる。VRの中でARの様な、というのも何かおかしいんだが、現代人にはこの構えが癖付いているから分かりやすくて良いのかな?
ウィンドウの中には正立方体型のタイトルが回っている。これを指で触れてピンチすると周囲の光景が暗くなっていく。
――suitの力に導かれよ
「おぉ、原作再現。第一話1ページ目のナレーションじゃねぇか、凝ってんなぁ」
ナレーションが薄暗い空間に染み渡ると、目の前にスポットライトが当たり丸机が現れている。こんなに丁寧な原作再現も中々粋な演出だ。確か机の上にカードが置かれていて、それを選ぶところから物語が始まるんだよな。
(こういうのって光源を見つけようとしちゃうの俺だけなんだろうか……うっ……目がぁっ……)
※良い子は真似してはいけません。という注釈が付きそうな行動から冷静になり少しすると目がはっきりしてきた、VRゲームなのに目潰しされるとは一体なんなんだ。
机の上を見るとカードが四枚並んでいる。それぞれスペード、ハート、クラブ、ダイヤだ。原作では主人公がスペード、ヒロインがハート、の様に主人公たち四人がバラバラのスートをモチーフに特性を生かして冒険していた。
事前の動画サイトの情報でそれぞれ説明文が付いてたな、と思いながらカードをそれぞれ手に持ってみる。
――――
≪スペード≫
勇気と力の象徴
攻撃力と肉体に影響を及ぼす。自分の肉体で戦いたいプレイヤー向けのスート。
スキルを覚えるのは遅いが、ベースポイントに補正が乗る。
オススメ初期職業:
剣士、樵士、格闘家、悪漢
――――――
≪ハート≫
慈愛と純真の象徴
肉体と精神に影響を及ぼす。他人を守りたいプレイヤー向けのスート。
バランスよく育ちやすく、スキルポイント/ベースポイントに少しだけ補正が乗る。
オススメ初期職業:
治療師、行商人、羊飼い、
――――――
≪クラブ≫
友情と知識の象徴
精神と器用さに影響を及ぼす。他人の力を引き出したいプレイヤー向けのスート。
バランスよく育ちやすく、ベースポイント/スキルポイントに少しだけ補正が乗る。
オススメ初期職業:
魔術師、弓術師、索敵師
――――――
≪ダイヤ≫
誠実と希望の象徴
器用さと幸運に影響を及ぼす。人々を支えたいプレイヤー向けのスート。
ベースポイントは伸びづらいが、スキルポイントに補正が乗る。
オススメ初期職業:
農民、釣り人
――――――
そうそう、こんな感じってカード見りゃ横に文字が煙のように浮かび上がりやがったじゃねぇか!
すげぇ暗記しちゃったよ!くそっ!ありがてぇ!
説明文にあるベースポイントとスキルポイントだが、ベースポイントについては通常の行動――戦闘や回復、製作、採取――全般の行動で上がる経験値の事で、それを消費して割り振ることで攻撃力や防御力を上げることになるのだとか。そしてスキルポイントだが、スキルを覚えるためには各職業での行動経験値が必要で、ある程度溜まるとポイントを消費して覚えることになる、らしい。
事前動画では職業毎に様々なスキルがあり、総数は未知数!みたいな事が告知されてたからアップデートで追加したりするんじゃないかな。未知数て、現状の全体だけでも教えてくれたっていいじゃない。
さて、もう一つの初期職業だが、これは事前告知動画によると13種類から選べるらしい。
それぞれスートによってオススメがあるらしいが、こういうのは逆張りしても面白いし、意外とそれが流行だったりするから分かんねぇんだよなぁ。
確かに原作だと最初は主人公がスペードの剣士、ヒロインがハートの治療師で旅してたから大体はその辺に照らし合わせてたりするんだろう。
(さて、どれにしようかなぁ……)
――suitを選ばれよ
「ナレーション早いぞ、ちょっと待ってくれ」
中々手に取らない人向けのナレーションなんだろうか、せかされる様な感じがしてあんまりだな、俺はゆっくり選びてぇんだ。
事前情報で分かってたんだから決めとけって?仰る通り、でも仕方ないだろ、こういうのは悩んでる時が一番面白ぇんだよ。前線で戦うか、仲間を助けるか、敵をせん滅するか、はたまたスローライフってのも良い。やっぱどれも悩ましいな。
職業も決めてはいるし、オススメにあるのに合わせておこうか、なんてプレイ前までは思ってたが、選ぶと変えられなさそうじゃん。原作では刻み込まれたら変わらない設定だったし。
(だが待てよ……)
ゲームだし後で変更できるようになったりするんだろうか。もしくは補正値がそこまででもない、かのどっちかだな。割とこの辺の説明文があっさりしてるからその辺の選択は後々どうにでもなるんだろう。あとはプレイング次第だったり、かな。
一発決定変更できませーん!なんて運営が生き残れないのはMMOの歴史が証明している。Q.E.D。よし、さくっと選んじゃえ。
スペードのカードを選び、他のカードを机の上に伏せる。
事前情報では職業の転職については割と自由度が高いらしく、気に入らなかったら転職すれば良いだろうし、最悪キャラクターを作り直せば良いだろう。
――Spade――勇気と力の象徴を選ばれるか
机の上に小さな木製の土台が現れる、カードを入れるスリットが中央にあるのでここにセットすれば選んだことになるんだろう。これは原作には演出だな。ゲーマー的基本を履修している現代人の諸君諸兄であればご理解頂けるだろう、と言われているような感じだ。
とりあえずスリットにスペードのカードを差し込んでみると、パッと机の奥にスポットライトが当たる。
四枚の扉と大鏡が現れた。
(現れた、のかな……?最初は無かった、のかな……?)
カードがライトアップされて視線誘導されて全然気にしてなかった。まぁどうでもいいや。
キャラクリエイトの時間だぞ、っと。
次回、キャラクリエイト