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第四話 懐疑心

目の前で、漫画のキャラクターが動いている。

俺は未だ、その衝撃から抜け出せないでいた。

「君、ほんとうに大丈夫かい?ぼんやりしているし、まだ顔色も悪い。少し待ってね、今医者を呼ぶから」

固まったままの俺を尻目に、彼は、サイドテーブルにあったベルを鳴らした。

直後、数回のノックが聞こえる。アルトゥールが入室の許可を出すと、執事服を着た初老の男が部屋に入ってきた。

彼はアルトゥールに一礼した後、俺を見て、ああ、目が覚めたのですねと無感動に言う。

「うん。まだ少しぼんやりしているようだから、念のため医者を呼んでくれ。それから、悪いけど僕は今から用事があるから、医者が帰った後は彼の世話を頼めるかい、ローデリック」

執事らしき男の名は、ローデリックというらしかった。

両手に3本線の入った白手袋をはめ、白髪混じりの黒髪をかっちりとオールバックにした彼は、まさに前世の記憶のアニメや漫画に出てくるような執事そのものである。

こんな執事の見本のような人物がいるのかと思うと少し面白かった。

そんな俺の内心とは裏腹に、ローデリックは慇懃に礼をする。

「畏まりました」

ローデリックが恭しく頭を下げたのを満足そうに見て、再び俺に向き直った。

「用事が全部済んだら、またここに戻ってくるよ。その時体調が落ち着いてたら、ちゃんと話をしよう」

じゃあね、と俺に微笑みかけて、なぜかついでのように頭を撫でて部屋を出ていった。

それから俺は、あれよあれよという間に執事の連れてきた老年の医者に診られて、メイドに風呂に入れられて、髪を切られた。

色々と混乱していた俺は、ただただされるがままで、全部終わってやっとベットに戻された時、時計を見たら計2時間くらい経っていた。少々ハードスケジュールだったので病み上がりの体には負担だったのか、用の済んだアルトゥールが部屋に戻ってきた時には、俺はくたくただった。

「今戻ったよ。ああ、髪を切ったのか。見違えたようだ」

にこやかに、アルトゥールが俺のいるベットの前の椅子に腰掛ける。

「医師によれば、傷は塞がり切ってはいないものの、命の危機は脱したと。しばらく安静にしていれば大丈夫だろうということです」

後ろに控えていたローデリックが、彼に俺の診断結果を伝えた。

そうかい、それはよかったと、アルトゥールは満足そうに微笑む。

あまりにきらきらしい笑みに、ありもしない後光が差して見えた気がして、思わず目を瞬かせた。

「そうか。痛み止めを処方されたと聞いた。少しでも痛みはひいたかい?」

俺は返事をする代わりに、こくりと頷く。

「よかった。では、君には引き続きゆっくり休んでもらうとして、この話は終わりだ。それとね、後もう一つ話があって、これはどちらかというと僕からのお願いになるんだけど」

アルトゥールは、一瞬俺を見つめた後、再び口を開いた。

「君、僕の執事になってくれないかい?」


「アルトゥール様?!」


それまでただ黙って俺たちのやり取りを聞いていたローデリックが、思わずと言った様に大きな声を上げた。

無理もないことだ。

路地裏で得体の知れない、明らかに訳ありの子供を拾ってきた挙句、しまいには自分の執事になってくれというなどと。


今のアルトゥールは、俺よりも年下だろうが、それでも、背格好からして9歳、10歳と言ったところに見える。

貴族の子供だ、もう色々な教育は受けているだろうし、漫画のアルトゥールから考えても、考えの浅い馬鹿であるとは考えにくい。むしろ、余人よりずっと賢しらであると考えるべき。


こいつは、一体、何を企んでいる?


一度は薄れていた警戒心が、再び湧き上がってきた。


いや、そもそも、一度でも警戒を解いたのが間違いだったのだ。

考えてみれば、今はのこれは、「傷を負った暗殺者が貴族に見つかって邸宅に運び込まれた」という状況だ。

普通に考えればわかることだ。貴族が、そこら辺に転がっている汚い平民の子供をなんの目的もなく助けるはずがない。

きっと、ついにうちの組織がこれまで犯した罪がばれたのだろう。

その情報を吐かせるために、俺を捕まえたのではないか?

さっきの突拍子のない発言は、俺を引き取り生活を保証すると見せかけて、証拠が集まるまで自分の手元に留めおくための策なのでは?

そう考えると、組織の奴らに殺されかけたことも、口封じで説明がつく。



なんということだ。

些細なことに気を取られて、こんな考えるまでもないことを思いつかなかったなんて。



帝国において、貴族殺しは重罪。現代日本の様に少年法などというものは存在しないのだ。

バレたら即刻死刑。

俺を捕まえた貴族が、たまたま前世で見覚えのある悪役の少年時代の姿をしていただけで、危機的な状況であることになんら変化はない。



逃げなければ。

せっかく命が助かったのだ。これを無駄にする道理はない。


俺は、今後の計画の算段を始めた。


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