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玉響の列車旅行

作者: 燕雀

『……は〜、次は根の国〜、根の国〜、お降りのお客様は、お支度をお願いします〜。まもなく〜、根の国〜、根の国〜。』


微睡みの中から意識が引き戻される。


ガタンゴトン


あれ……何してたんだっけ……


意識の覚醒を待ちながら、ゆっくり記憶を辿り始める。


たしか……そうだ、家に帰る途中だっけ……


ガタンゴトン


新社会人として意気揚々と就職したものの、くらったことの無いストレスの猛攻に加え、長時間の馬車馬生活。毎日のように終電で帰っていた。


電車に飛び乗って……それで……どうしたんだっけ?


プシュゥゥゥ


電車が止まった。


『〜、〜です。』


なんだその駅……知らない駅だな……


『扉が閉まります。ご注意ください。』


扉の外から流れてくる外気がやけに気持ち悪い。いつもなら飛び起きて外へ出るところであったが、本能がその体を静止させた。


そして、列車が動き出す。


ガタンゴトン


ガタンゴトン


「これより、車掌が車内へ参ります。何か御用件のございますお客様は、車掌まで、お尋ね下さい。』


ガタンゴトン


へぇ……ここまで来るのか……


あたりは閑散としていて、車掌が来ても話しかけるような人は見受けられない。ここは何処なのか聞くチャンスだ。


ガタンゴトン

ガチャ


連結部の扉が開き、車掌らしき服を着た人物が出てきた。


コツコツコツコツ


声をかけようと顔を見ると、見覚えがあった。


「……もしかして、佐藤か?」


「お客様どうされ……田代ちゃん?」


「やっぱそうだよな……久しぶりじゃん」


「えっ……なんで……そんなはず……いや……」


佐藤は高校の同級生だ。それなりに仲は良かったと思う。高校から連絡をとってないからよく知らないが、電車会社に就職なんてしてないはずだ。


ガタンゴトン


「……どうしたんだ?」


それに、焦ったような、訝しがるような反応を見せた。


「ひとつ聞きたいんだけど……」


「お前、どうやって此処に乗った?」


「……は?」


ガタンゴトン


今からそれを聞こうとしてたのに。


「……今からそれを聞こうとしたんだ」


ガタンゴトン


「ふむ……そうか……わかった」


何かわかったのだろうか。


「次で降りよう。」


何故その結論に至ったのかよく分からないが、なにか知ってそうな感じなので、言う通りにしようと思う。


ガタンゴトン


「とりあえず、私はまだやることがあるから行くけど、田代ちゃんは目を瞑ってじっとしていて。何か聞こえてきても動かないこと、いいね?」


静かに頷いた。


コツコツコツコツ


足音が遠ざかって行った。


ガチャ

ガタンゴトン


ガタンゴトン


「…………ちゃん。田代ちゃん」


気づいたら寝てしまっていたようだ。


「もうすぐつくから」


そうか、そうか。


ガタンゴトン


「もう目を開けても大丈夫」


スっと目を開けると、目の前に手荷物を持った佐藤が居た。


ガタンゴトン


車内がやけに暗く感じた。


ガタンゴトン


「そういえば、立てるかい?」


疲れきってはいるが何とか立てそうだ。


プシュゥゥゥ


「さぁ、降りよう」


佐藤に手を引かれ列車を降りるとそこは大きな駅だった。


だが、大きい割にやけに閑散としているというか古ぼったいというか。よく知る駅とは違うようだった。


「行くぞ?」


駅を眺めているうちに交代を済ませたようで佐藤が戻ってきた。


プシュゥゥゥ

ガタン、ゴトン

ポォォォォォ

ガタンゴトン


列車も行ってしまった。というか、いつからSLに変わったんだ?乗った記憶なんて残ってないのだが。


コツコツコツコツ


突然、佐藤が振り返り、何かを握らせてきた。見ると御守りのようだった。


「これ持ってて」


頷く


コツコツコツコツ


駅の改札口まで行くと改札がなかった。車掌も居ない……これでは無賃乗車し放題では無いか。


「……改札とかはないのか?」


「ん?あぁ〜いいんだよ。ここは」


そういうものなのだろうか。


コツコツコツコツ


佐藤はずんずん行ってしまうので、多少の罪悪感を感じながらも進む。


コツコツコツコツ


すると階段が現れた。数えるのも嫌になるような100段は有りそうな長い階段だった。


「降りれそうかい?」


「……まぁ、何とか」


「そうか、足元気を付けてな」


コツコツコツコツ


階段を降りて行く


コツコツコツコツ


降りきった先は、どこか暗い住宅街だった。


「あっちだ」


佐藤は迷うこと無く歩いて行く。


コツコツコツコツ


特に喋ることも無く


コツコツコツコツ


歩いて行く


ジャリジャリ


気付けばあたりは、舗装されてない道に変わっていた。前には森しかなさそうだ。どこへ向かうつもりなのだろうか。


「……ど」


「喋るな」


聞こうかと思い口を開いた矢先言われてしまった。見ると険しい顔をしている。どうやら唯ならぬ理由が有るようだ。従うことにする。


ジャリジャリ


前方にひとつ、あかりが見えてきた。


ジャリジャリ


蕎麦屋のようだ。


ジャリジャリ


佐藤はそこに入っていった。続いてはいる。


「おやじ、かけ2つ」


どこからも返事のような声は聞こえてこなかったが、佐藤はカウンターのひとつに座った。


「座りなよ。ところで、かけでよかった?」


頷く


「あ、ここなら喋ってもいいよ」


何かあるらしいが、これでやっと聞ける。


「どこに向かってるんだ?」


「道の先にさ、木々が生い茂る場所が見えた?」


頷く


「そこ」


そうか、よく分からないが目的地ははっきりした。


「ここはどこだ?」


「何処って蕎麦屋だよ?」


「そういう事じゃなくてだなぁ……」


コトッ、コトッ


蕎麦が来た。よく見ていなかったが、黒いモヤがかかったような、半透明の腕が運んでいる様に見えた。


気にしないことにする。


ズズズッ

ズズズッ


蕎麦を啜る音が響く。


店内には誰もいない。


明かりはついているが、どうにも暗く感じてしまう。


腹が減っていたのか、あっという間に食べ終わってしまった。


「さ、行こうか」


「お勘定は?」


「ここはいいんだよ」


またこれだ。ここにはお金という概念がないのだろうか。


佐藤がさっさと行ってしまうので、ついて行く。


ジャリジャリ


気持ち、外が明るくなった気がした。


ジャリジャリ


見ると、鳥居が見えてきた。立派な鳥居だ。古そうだが。


「道の真ん中は歩くなよ」


頷く


ジャリジャリ


鳥居をくぐると突然、あたりが明るくなった。


コツコツコツコツ


社らしきものが見えてきた。


「家に帰れるように、お祈りしときな」


そう言うならしようと思う。賽銭箱も無かったので、ただ手を合わせるだけになってしまったが。


「こっちだ」


また、ずんずん進んで行く。


コツコツコツコツ


あちこちで、動物が動く気配がする。


コツコツコツコツ


住宅街では無かった事だ。


コツコツコツコツ


突然あたりが開け駅が現れた。


コツコツコツコツ


相変わらず何も無い、改札口であろう所を抜けてホームに入る。


コツコツコツコツ


タイミングを合わせたように電車がそこにいた。


コツコツコツコツ


何も言わずに乗り込む。


スっと佐藤が座ったので、隣に座った。


プシュゥゥゥ

ガタン、ゴトン

ガタンゴトン


電車が走り出した。


何だか凄く眠くなってきてしまった。


隣で佐藤は楽しそうにこちらを見ている。


ガタンゴトン


意識が深いところに引きずり込まれる瀬戸際、声を聞いた。


「今度はちゃんと人界で会おうね」


……


……


……


どのぐらい寝たであろうか。パッっと目を覚ますと、そこはいつも乗る電車の中だった。


どうやら次が降りる駅のようだ。


胸を撫で下ろすと手の中に温もりを感じふと見ると、御守りが握られていた。


「連絡……とってみるか」


とりあえず、今日は帰って寝ることにする。


『まもなく〜……』


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