悲劇は繰り返すもの
さあて。はれて復讐を誓った俺だが、具体的にどうしたもんか。
現在聴衆の皆様方にとって、俺とダンスをしているこのお姫様がどう映っているのかというと、おそらくお淑やかに上品な微笑を浮かべている優雅な天使のようにみえていることだろう。
しかしその実、事実は全く異なることを俺だけは知っている。ヤツは明らかに腹黒な悪魔である。
もちろん、そうやって断定的に物事を決めつけることが正しいことなのかという疑問も残る。だが、俺の直感が言っている。奴はクロだと告げてやまない。
まず3回も足を滑らせて転倒するなど、どう考えてもおかしい。しかもこの状況下においては、あら不思議。俺のダンススキルが至らない故に、足を滑らせて転びまくっているという図式にみえてしまうわけだ。まったくもって良くできているシステムだと感心すらしてしまう。
しかし当の本人である俺には、お姫様とタイミングが合わず足が交差した感覚もなければ、持病により突然意識を失って倒れたこともないわけで、他に思い当たる節もない。
というわけで、まさに摩訶不思議アドベンチャーであるこの状況で、たった1つ思い当たることがある。この目の前のお姫様が、あの日に相対したクソ忌々しい貴族様そのものであるとしよう。とすればあの日に起きた出来事を思い返すと、この仕打ちにも説明がつく。
では、俺が毎度否応なしに転倒してしまうことについてはどうなのか。それについて思いつく限りだと、風魔法の影響あたりが順当か。ラルの修行に付き合っていた際も、色々と使い方次第で便利なものだと関心していたものだが、なるほどこういった活用方法もあったりするのかもしれない。思い返してみると、たしかに風圧のような物体のない圧が、突然身体に伸し掛かってきたように感じた。ほんの一瞬だったせいか、自覚も出来ないほどの早業を受けたのだとすると、油断も隙もあったものではないと薄ら寒くなる思いだ。
といったように悶々と頭を捻らせている間にも、踊りの時間は着々と終わりに向かって進んでいた。とどのつまり、このお姫様ならぬ性悪小娘に復讐する機会も着々と失われつつあるわけである。
そろそろ考えを纏め、行動に移したほうが良さそうだ。
「…これだ」
「……?」
ニヤリと不敵で不気味な笑みを浮かべる俺に対し、お姫様は張り付いていた笑顔を曇らせる。
しかし、そんなお姫様の些細な疑心などもはやどうでも良かった。なぜなら、ついに頭の中に雷光のような閃きが訪れたからだ。そう、俺は思いついてしまったのだ。とっておきの復讐方法を。
「ふふふ……」
「………」
では、そのとっておきの復讐方法とは。名付けて、【目には目を歯には歯を。ニセのお姫様には天罰を大作戦】である。作戦は至ってシンプルこの上ない為、張り切って説明しよう。
1、俺のターン!最近、コツコツと積み上げてきた修行によって、精度、威力の増したマイウィンドマジックを発動!
2、俺の身体は風を纏うことによって、突如二人のダンススピードは爆速に!
3、突然の爆速のダンスについていけないヤツは、すってんころりん!おっといけねぇ!もちろん安全には考慮してやるつもりだぜ!
4、ヤツが転んだ後、優しく手を差し伸べ邪悪な笑顔を浮かべる俺!勿論、場にふさわしい紳士な態度はかかせない!
ふふん。我ながら完璧すぎる作戦に称賛の拍手を自ら送りたい。さあてそうと決まれば、早速準備に取り掛かろう。
たしかに、このように動きながら魔法を練り上げるのは、俺のように魔法初級者にとってはかなり難易度の高い作業ではある。しかし、それくらい乗り越えられるはずだ。大丈夫。俺はいずれ、世界一の魔法使いになる男だ。
心の雑念を取り払い、集中していく。目の焦点が合っているはずが、見ているものがまるで違うような感覚に襲われる。カチリとスイッチが入り、もはや日常の中で何千回も繰り返してきた作業に遷る。…よし、いけそうだ。
「……さあて、覚悟は良いな?」
「……なんだと?」
俺のボソリとした呟きに、どうやらコイツの素顔を覗かせることに成功したようだ。だが、もう遅い。なにもかもが遅い。
「はああああ!!!!」
掛け声とともに、俺の中から産まれた風が身体を包んでいく。よし。この感覚は成功時のものに他ならない。あとは魔力調節を意識し、身体強化に繋げるだけである。
「はあああぁアアアアアアアア!!!!!………………………ん?」
おかしい。なにかがおかしい。具体的に言うと何故かスースーする。突然頭が悪くなったのかもしれないが、やたらと全身がスースーしている。しかし、その異変に気づいたのはヤツも同時だった。
「き、きゃああああぁああああ!!!!!へんたいぃいいいいいぃいいいいいい!!!」
目の前のお姫様の悲鳴が辺りに響き渡る中、俺といえば冷静そのものであった。暴発した風魔法のせいで服がすべて破れ散り、俺の身体が一糸纏わぬ全裸になっている事実。そんな自分を素直に受け入れよう。人はどうしようもないことに直面すると、案外冷静なものなんだなぁ。




