晩餐会
といったわけで、華やかなパーティーに潜り込んだ俺たち一行は、各々がそれぞれの時間を過ごしていた。
ミントちゃんはというと、さっそくと顔見知りの人々に挨拶周りを始めている。
その振る舞いは素人の俺が見ても、礼儀作法や所作に不自然さがなく、場馴れしていることがわかる。まあ、そこは何故あの若さでそこまでの社会性が育まれるのかといった感情が生まれてくるところだが、それにはもはや驚きもないくらいにはミントちゃんの有能さは理解していた。
一方、リサの周りには貴族の男どもがわらわらと集まって来ていた。しかし当の本人はというと、そんな逆ハーレムとも言える状況の中で、なんともバツの悪そうな表情を浮かべている。
考えてみると、仕事ではNO1イケメン店員としてブイブイ言わせ、御婦人方を唸らせているわけだが、反対にこうやって多数の男性に言い寄られる事は慣れてないのかもしれない。
時折こちらに助けを求めるような視線を投げかけてきている気がするが、そこはあえて心を鬼にして無視してやった。
リサも黙っていればただの美人なわけだし、こういう機会も今後の彼女の人生において必要な経験だろう。父になった気分で生暖かく見守ってやろうではないか。
ラルとミラについては、当初の予想が的中した形だ。2人が向かった先からは絶えずどよめきの波が押し寄せきており、「なんだコイツ等は?!」「た、食べ物が吸い込まれていく‥」「いいぞもっとやれ!」等々のギャラリーからの悲鳴や歓声がこちらまで届いていた。予想通りの展開になったと頭が痛い思いがするが、もはやどうにもできない俺には静観を決め込むことしかできない。
驚きなのはそれに負けじと、料理番を任されているのであろう白装束の男たちが、次から次へと血相を変え、蕎麦屋の出前ばりに走り回っていることだ。
しかし残念、あの二人(主にミラ)の無限の胃袋を舐めてはいけないと専属シェフとしての直感が告げている。やはり高級食材をふんだんに使用していることなどを考えると、ご愁傷さま運が悪かったねと手を合わせたくなる気分だった。
さてさて。俺の方も、あの2人にせっかくの贅沢な料理をすべて平らげられてしまのは非常に惜しい気持ちがある。
その前になんとかせねばと考え、適当に近くの料理に手を伸ばし味見をさせてもらうことにした。
「‥う、美味い‥。これはザンビエか?しかしこの味付けは‥うむむ」
あまりの上品かつ味の伴う料理たちに思わず呟きが漏れる。店長の味こそ至高と信じてやまない舌に、新しい世界が飛び込んできた驚きがあった。この経験ができただけでも、ここに来て正解だったかもしれない。今後のメニュー考案などに大いに参考にさせてもらうとしよう。
そうやってしばらく時間が経過し、例の二人もようやくとお腹が満たされたのか騒ぎも一段落を迎えた頃、突如として凛とした声が場内に鳴り響いた。
「ご来場の皆様。今宵は我がエリザベート家にお集まり頂き、誠にありがとうございます。
我が娘の支度がようやくと整いましたので、改めてご挨拶させて頂きたく思います」
白髭の似合う恰幅のいい紳士が、一同の視線を集めながら堂々とした振る舞いで頭を下げる。おそらくエリザベート家の当主であるだろうその男性が横に退くと、背中まで伸びた金髪をたなびかせた女性が姿を現した。
その女性はシンデレラが着ているような純白のドレスのスカート部分を両手でつまみ、片足を後ろに引いて、膝を曲げてみせた。
そこでようやく、俺は本日の主役であるらしいその女性の容姿を拝むことになった。
「皆様、本日はお集まり頂き‥‥‥」
「あーーー!!!!」
その女性の言葉を遮るようにして、何者かが大声を張り上げる。当然、周りの視線はその何者かに一斉に集まることとなった。
その声の主というのは何を隠そう、俺自身であったのだった。




