リスタート
…ここは、どこだったか。
ぼやけた頭のままに薄っすらと両瞳を開くと、眼前にはいつの日か見た、昭和の薫り漂う懐かしい景色があった。
そう。そうだ。
俺はここを良く知っている。
ここは確か、こうやって既に何度か訪れている場所だった筈だ。
…だが、なにか違和感がある。
ここがもし俺が知っている場所であるとしたら、毎度毎度しつこいといった程に強烈な人物が、目の前にふんぞり返って偉そうにしていなくてはならない気がする。
しかし、俺の目の前には誰も存在してはいない。
この場には人の気配が全くないことを裏付けるように、ただ静寂のみが支配しているのみである。
またこの場所は、暑くもなく寒くもない。
ちょうど現在が春か秋のような、冷房も暖房もつけなくて済む丁度良い季節なのかなと、そんな場違いな感想を抱いてしまうほどには快適な気候に思えた。
そうやって他愛も無いことを考えているうちに、徐々に頭の中がクリアになっていく感覚があった。
しかしそれと共に俺の脳には、不思議となにやら強迫観念にまで近いその謎の人物に対するイメージが、自然と沸々と湧き上がってきていた。
『とにかくめんどくさいことこの上なし』
『時間がないからとにかく効率良くテキパキと』
『ほんとうにこの神は大丈夫な方の神なのか』
こんな断片的な謎のワードが次々と頭にふっと浮かんでくるのは何故なのだろう。
……。
そうやってようやくと時間の経過と共に全てを思い出し始めた俺は、とりあえず一度大きく溜息をつくことにした。
しかしそんな時。
突如として、部屋の襖の先から響く、凛とした女性の声があった。
「失礼してよろしいでしょうか」
咄嗟に胡座をかいていた足を、正座に組み替える。
軽く自分の服装を確認したところ、俺は今どうやら前世で毎日が辛くて吐きそうになりながらも着ていたスーツを着用し、愛用していた黒縁眼鏡をかけているらしい。
何故かは知らんが、この場はおそらく面接会場みたいなものであると認識する。
あまりにも場所が昭和チックな気がするが、それはたぶんどうでもいいことなのだ。
うん。たぶん。
「どうぞ、お入りください」
「失礼致します」
今回ウチを受けに来てくれたクソめんどくさいその女性は、座った状態で襖を数回に分け開く。
そうやって、着物特有の柔らかな所作を全てマスターしているかのごとく、行儀良く入室してきた。
しかし格好としてはビシッと決めたビジネススーツのその彼女は、その後何故か突然とその場に立ち上がり、軍隊式の敬礼とばかりにピンと伸ばした手を額の横に添えた。
「わ。わたくしは!!本日付けでこちらに配属となりま」
「はい。これからそのための面接となりますので、色々と早いです。
それと、今回は一般会社を想定して行っております故、その所作に謎が多すぎて私は混乱しています。
まあ、とりあえずお座りください」
「は!了解であります!!」
「……」
この時点で既に、めんどくさという感情に支配されつつあった俺であった。




