事後報告
皆様ハロー、こんにちは。
今回の大騒動の最中、先陣を切っていち早く気絶してしまい、一番の役立たずと成り下がった無能のソラです。
……とまあ、こんなどうしようもない自虐も程々にして、事の顛末を話すことにする。
まず俺、ラルと筋肉男の決着についてから。
俺があの男に容易く気絶させられた後、どうやらラルがあの場をなんとかひっくり返す形でドローに持ち込み、暫く3人揃って仲良く寝ていたということらしかった。
ここで言うらしかったというのは、当のラル本人も記憶があやふやで、戦っていた時の事を殆ど憶えていないとのことだからだ。
こうなっては事の真相はあの筋肉男しか知らないわけで、正直そこが気にならないといったら嘘になる。
しかしあの後男はすぐに、騎士団に連行されていってしまったらしい。
要するに結果的に、事の真相を知ることは叶わず終わってしまったわけだ。
まあ俺としては、やはりラルの気持ちの落とし所が気になっていたわけで、そこのところをラルに率直に訊ねることにした。
「思いっきりぶん殴れたし、スッキリしたぜ!!!」
俺の問いかけにラルは、満面の笑みでそんな事を言い返した。
まあラルのお母さんも割と無事に済んだわけだし、結果としてみりゃ合格点ってとこか。
そうそう。ラルのお母さんといえば。
もはや宿り木亭の恒例となった、新しい変化にも触れておく。
ーー
「いらっしゃい!あらアンタ達、また来たの?」
「いやー綺麗な姉ちゃんたちがこんな増えたなんて、おじさん嬉しいぞ〜。お前らもそうだろ?!」
「いやーホントだぜ!正直この店にゃ、何でも揃ってると思ってたんだが!!実はべっぴんな姉ちゃんだけは揃ってなかったことに気付いたぜ!がはははは!!」
「ったく、いっつも調子いいんだから。ほらそっちの席ね」
「野郎ども!!今夜は定例の祝杯だ!!」
「ガハハハハ!!!そりゃ毎日の事じゃ定例に違いねぇや!!!」
あの一件があった後、あの場所にいたラルのお母さんとその他の捕らえられていた女性達は、ここ宿り木亭の住み込み店員として、新たに働く事となった。
事件後、騎士団の人達が彼女たちに話を聞くと、流石に今すぐトリニータに戻るという選択肢を選べなかった程には落ち込んでしまっていたそうだ。まあ無理もない。
その中でもラルのかーちゃんだけは別の考えだったようだが、あの人ならそう言うだろうと変に納得してしまった。
とにかくそんな困った彼女たちに救いの手を差し伸べたのは、やはり我らが宿り木亭の頼れる経営責任者こと、ミントちゃんだった。
〜〜
皆でようやくと宿り木亭に戻った時の事。
俺たちから一連の事情を聞いたミントちゃんは、暫く黙って真剣な表情を浮かべた後、改めてといったように口を開いた。
「…店長。突然ですが、我らが宿り木亭に足りない成分は何だと思いますか?」
ミントちゃんの目が怪しく輝る。
相変わらずのその迫力に、宿り木亭の亭主であるはずのおっさんは気圧されていた。
「なんだよ藪から棒に……。成分ってお前、いったい何の話をしてんだ?」
「………ふふふ……そうですかそうですか………いいでしょう。
それではまず、私達が現在抱えている大切な人材について、改めて懇切丁寧にご紹介しようではありませんか?
ふふふ、腕がなる音しか聞こえません……。
やだなにを言っているのミント?
少し落ち着きなさい………ふふふ………」
ミントちゃんは顔を俯向け、クックックという不気味な笑顔の効果音が似合いそうな空気を漂わせている。
そしてついに顔をバッと上げた彼女は、その恐るべきプレゼンを開始した。
「まず一人目!!偏屈だけど性根は優しいと噂の店長ことお父さん!
この店は元々料理の味で評判になっている為、ここは絶対的に外せない大黒柱のごとく大事な人材です!
次に、無口だけど思わず護りたくなってしまうと評判のミラさん!
言っときますが彼女はもはや、ウチの男性固定客の大半を占めているという実績を引き下げ、絶対的な稼ぎ頭的存在です!
うーん外せない!
そしてそして、天才的知謀と上品さを兼ね備える美形男子こと彼!
その恐るべき有能さをもって、ウチの店の客層は全てひっくり返ったとも言っても良いでしょう!
こちらは改めて説明する必要性すらない程の逸材と、店長もお分かりの筈です!
あとは……えっと、そう!
ウチの店長の味を継承してくれそうなソラさん!
………ふう。少し語り足りない気がしますが、この辺にしといてあげましょう」
「…………お、おう。それで結局、何なんだよ………」
おっさんはミントちゃんのあまりのハジケぶりに、座っていた椅子から体勢を崩さんとばかりにたじろいでしまっている。
いや、そんなことより。
ミントちゃん、君は気づいているかな?
僕の説明の所だけ短いし、要約すると凡人だと言っていることを。
そしてそれは恐らく、君の無意識下にあるもの。
そう、本音ってやつさ。
うん、いいんだ、知ってる。
なんなら前世から知ってる。
でも、この自然と流れてくる涙は我慢しなくてもいいよね?
……いいよね?
そんな俺の虚しい心の叫びなど差し置いて、ミントちゃんは目の前のテーブルにバンと手を置くようにして宣言した。
「要するに、その方たちをまるっとウチで雇います!!」
「な、なんだとぉ?!?!」
これには流石におっさんも暫く難儀を示していたようだが、結局ミントちゃんの熱い説得に簡単に負けてしまったのだった。
〜~
そんな経緯があり、うちには晴れて新しい店員が増えたというわけだ。
ラルのお母さんも結局、「楽しそう」という単純な理由でウチに来てくれたのは本当に良かったと思う。
ラルもこれで一安心といったところだろう。




