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俺の異世界転生が完全にやっている件  作者: 箸乃やすめ
二章 俺の異世界転生は前途多難
70/90

終曲


「……………す、素晴らしい!!!!


まさか炎魔人ですら倒してしまう能力を秘めていたとは、私の想像を遥かに超えておりました!!

私は今実に、実に感動しています!!


いやー、良いものを見せてもらった!!」


離れた位置でこちらの戦いを伺っていたハイネは、戯けるようにこちらへと歩み寄ってくる。

そして、いつものニタリ顔を浮かべた後、俺に尋ねてきた。


「で、晴れて強敵を打ち破った今の心境は如何でしょう?」


「黙れ。殺すぞ」


ようやくと上半身を起こした俺は、殺意を込めてハイネを恫喝する。

その発言にびくりと身体を震わせたハイネは、一歩後ろに飛び退くようにして、怯えた様子を見せた。


「ひぇぇ…嫌だなぁ。そんなに怒らなくてもいいじゃないですかぁ………」


「チッ…」


更に苛立つ気持ちを、無理矢理と抑え込む。


しかし、少し自分を落ち着かせることで一つ分かったことがある。

コイツは俺がこんな状態に陥っていてさえも、すぐに殺るということはしないらしい。


まあ、本当にハイネが俺をどうする事など出来ない、実力皆無の凡人の可能性もあるにはある。

だが、どのみちこんな変態の考えている事を理解するなど、無駄な労力であることに変わりはない。

そう考え、まずはとにかく頭の中を一度整理することに切り替える。


まず現在の自分の状態といえば、簡単に言えばすっからかんだった。


これほどまでに体力、魔法力を使い切っちまっている俺なんざ、ミラにとっては足を引っ張ることしか出来ねぇゴミと言っていい。


しかも俺の抱えている懸念が現実のものとなるとしたら、それこそ俺はハイネ以上の道化と化すことだろう。


「……ったく。考えりゃ考える程、自分にとって予想できた結末だっつーのによ……」


気づくと俺は苦笑を浮かべ、そんな事を呟いていたのだった。



ーー


「…………?」


俺が恥も外聞も投げ捨てて、体力回復の為に地べたに突っ伏していた、ちょうどその時。


聳え立つ巨大な氷の彫像から放たれる冷気が辺りを包む中、そのツンとした空気とは違う何かが、確かに入り混じっている感覚があった。


俺がそんな身体の中を警報が鳴り響く感覚に襲われたのとほぼ同時に、その事態は呆気なく訪れた。


「……ケッ。んなことだろーと思ったぜ。とんだ茶番じゃねーか…」


そこには、言うなれば『黒炎』の渦が在った。


その突如として現れた黒い炎は、氷の彫像の周りをとぐろを巻いているかの如く渦巻いている。

そうして、ユベールを縛り付けていた俺のとっておきの『氷』は、嘘のように蒸発していった。


驚くべき速度で『氷』が蒸発しきってしまった事で、短いお務めから晴れて自由の身となったユベールは、首に手を充てがい、ポキポキと音を立てながらこちらへ近づいてくる。


「…………」


その無表情の容貌には、まるで先程まで氷漬けにされていた影響など微塵も感じさせない。

また、その身の周りには、たった今『氷』を溶かし尽くしたのと同じ、禍々しい色合いのドス黒い炎が包み込んでいる。


そんな中で、再びとハイネが関心を示したといったように、言葉を漏らした。


「……ほう。この短時間で『黒炎』の域にまで達したようですね。 


まあ彼も炎魔人なワケですし、遠からずそうなるとは思っておりましたが。

案外本当に逸材であったのかもしれません。


…うん、面白い。ふふふ…」



……ああ、そんなこと心底どうでもいい。

本当に殺してやりたいくらい五月蝿せぇ奴だ…。


要するに俺は今、ハイネの戯言を流すことが出来ない程余裕がないんだろう。

そんな自分自身が単純に不快だ。


…でもまあいいか。

このあとすぐ死ぬらしいしな。


そんなふうに酷く冷静になって思考を働かせている自分に、多少の驚きを覚えながらも、時は無慈悲に終曲へ向かって流れていく。


ゆっくりと俺の目の前にまで近づいたユベールは、先程の状況を再現するかのように俺の首元を握り締め、片腕で軽々と持ち上げた。


「グッ!…………ぐぐっ……ぐはぁっ……」


「……………」


恐らくは、このまま俺を絞め殺すか、焼き尽くし灰にでもするつもりだろう。


もういい。好きにしてくれ。


そうして、とうに限界を迎えていたらしい俺の身体と精神は、まるで終わりを悟るかのようにそこでプツリと事切れてしまったのだった。



□□□□□□



ーーー昔、本で読んだことがある。



人間は死の間際に、走馬灯というやつが走るらしい。


それは、時間の感覚を間延びさせるかのように脳内で錯覚を起こし、昔の記憶や感情を呼び寄せるものだそうだ。


どうやらそんなやつが今、俺にも訪れているらしい。


いや、我ながらクソみたいな人生だったぜ?

何せ、短い生涯での記憶にある大半以上は、芥溜での生活だったからな。


……だが、嘲笑っちまうことに。

 俺は今の生活が嫌いじゃなかった。


アホ二人組のソラとラル。


いつも何考えてんだかよくわかったもんじゃねぇ、ミラ。


俺より頭が良く器用で、なにより単純に性格が良いミント。


なんだかんだ言いながらも、俺を迎え入れやがったオッサン。


後はまあ、俺に会えるからとかいうバカみてぇな理由で店にくる、客どもも入れてやってもいい。

とにかくだ。認めてやる。

俺ってやつは、この居場所が単に気に入ってたんだ。



………いや、ちょっと待て。

つーことは俺は死んじまうと、ここから離れてちまうってことなのか?

   


……嫌だ。離したくない。

 

もっと、もっとこの居心地の良いこの場所で、奴らに囲まれてぬくぬくと生きていたい。



嫌だ。


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。



生きていたい。


生きていたい生きていたい生きていたい生きていたい生きていたい生きていたい生きていたい生きていたい生きていたい。


誰でもいい。


誰でもいいから、



俺を生かしやがれ。



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