間奏
現在。
炎魔人となったユベールと少年との戦いは、完全に攻撃側と防御側に別れる形で、お互いに一歩も譲らないといった展開を迎えていた。
そんな中ついに、その膠着状態が動き出す。
「………?」
ユベールは少年に対し放ち続けていた炎の塊を、突如として打ち止める。
そして、魔法を放っていた自分の人差し指をじっと見つめるような仕草を見せ、首を傾げた。
それはユベールにとって、現在の状況が何故こうなっているのかを理解できないといった、困惑した感情の現れだった。
そこに少し離れた位置からその様子を伺っていた少年が、口を挟む。
「おいおい、どうしたどうした炎魔人さんよぉ?!まさかこれで終わりってわけじゃねぇだろうな?!
ケッ!テメェの炎なんざ、全て俺の『水』魔法で相殺してやるぜ?!
悔しかったらなんとかしてみやがれこのバーカ!!」
少年は、大声で罵るように挑発的な言葉をユベールに浴びせかける。
そして、それをさらにエスカレートさせるように、今度は身体全体を使って挑発をし始めた。
「ベロベロべー!あっかんべー!お前のかーちゃんでーべそ!!」
「…………」
ユベールはそんな少年の挑発にも、相変わらずの無表情を浮かべているのみなのであった。
〜
少年が挑発するかのような行為を始めて、数分が経過した。
「おたんこなす!高慢ちき!!……えっと、それからそれから………バーカ!とにかくバーカ!!驚天動地バーカ!!!!」
しかし、対象的にユベールには未だに反応が見られることはない。
ただその場で静かに佇むように、少年に無感情を伺わす視線を向けていた。
そんなユベールの様子に、少年は溜息をつく。
「………もしかして、俺の方こそ奴の策に嵌ってんじゃねーのか……はぁ……。
……いや、まだまだだ!!バーカ!!ウルトラバーカ!!!!」
しかし、そんな少年の気が緩みそうになっていた時を狙ったかのように、突如としてユベールの両の拳に、爆炎のごとく炎の渦が出現した。
「っ!?」
それは、先程まで少年に向けて放っていた火炎の塊よりも、2倍近くの大きさを誇る、禍々しい真っ赤な炎の渦だった。
ユベールはその炎の渦を両手に宿したままの状態で、ゆっくりと少年に向かって歩を進め始める。
少年はその炎魔人の様子に、それを待っていたとばかりに両手を突き出して構え、魔法の準備を整え始めていた。
そうして、ユベールが再びと歩き出し、少年まであと2メートル程の所まで来た時のことだった。
少年がそれまでとは違った緊迫した雰囲気を纏い、改めて口を開く。
「……おっと、それ以上踏み込むのは、おすすめしねぇぜ?
そこから先は、俺の『領域』だ。
もし踏み込む覚悟があるんなら、テメェは必ず後悔することになる」
少年は、ユベールに向けて真っ直ぐと視線を向けながら、そう告げる。
「………」
しかしユベールは、それでも歩みを止めることはなかった。
そしてついに、少年の言う『領域』に、ユベールが足を踏み入れた。
すると突然、ユベールが両手に纏っていた炎の渦が、みるみると消失していった。
「………っ?」
ユベールが自分に起こっていることを理解できず、身体全体を見回すような仕草を見せる。
少年はそんなユベールの姿を、両腕を拡げるようにして迎え入れる。
「ようこそ、『水』の領域へ。無事、俺の忠告を無視してくれたようで、嬉しい限りだぜ?
……これで、テメェの『火』は全て、俺の支配下になった。
ここはいわば、テメェにとっての地獄ってわけだ」
「…………っ?!」
ユベールの目が、大きく見開かれる。
それは、炎魔人となったユベールの身に初めて訪れた、本能的な危機感となる。
そして次の瞬間。
ユベールの身体は、無意識化で少年の元へと一直線に駆け出していた。
「っ?!」
少年はユベールのその行動に、全くと身体を反応させる事が出来ない。
そんな無防備状態の少年にあっという間に近づいたユベールは、まず手始めといったように、少年の下腹部に向けて抉るような拳を繰り出した。
「がはっ!?」
堪らず少年の口から、悶絶した声が漏れる。
その衝撃に思わず身体を前屈みにした少年は、下腹部を抑えながら両膝から地べたに崩れ落ちた。
「くっ……ごほっごほっ……」
身体を身悶えさせながら、ピクピクと震えることしか出来ない少年。
そんな少年の姿を、遥か上から見下ろすユベールは、
「…………ふふっ、ふはははははははっっ!!!!」
まるで貴族であった時の自分を思い出したかのように、侮蔑に満ちた笑い声を上げ続けるのだった。




