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俺の異世界転生が完全にやっている件  作者: 箸乃やすめ
二章 俺の異世界転生は前途多難
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序曲


その人の姿を象った化物の出で立ちは、まるで昔読んだ幻想小説の中に登場する火の魔人のようだった。


化物の身体の周りには、もはや肉眼でも捉えられる程の魔力が渦巻くようにして、赤、黄、青色の炎が混ざり合うように燃え滾っている。 


「………」


少し前までユベールという人間であったはずの化物は、感情などまるで覗かせない機械の如くその場に立ち尽くし、こちらに無機質な視線を送っている。


その貴族独特の金髪は、炎のような色合いの赤長髪へと変貌し、先程まであった貴族特有の自信に満ちた表情も、仄暗い瞳を覗かせ、生気を感じられないものへと変わっていた。


そんな化物を前に、ハイネは先程までの興奮を自ら落ち着かせるようにして、こちらに話しかけてくる。


「…ふふっ。どうやら取り乱してしまったようです。

お見苦しい所をお見せしてしまい、大変申し訳ありません」


ハイネはコホンと一息ついた後、さらに仰々しくこちらに一礼した。


「改めましてご紹介致しましょう。


こちらは『炎魔人』こと、ユミール男爵です。


先程まで人のお姿でおられましたが、見事、人など遥か超越した存在となられました」


「……炎魔人だと?」


「ええ。実に素敵なお姿になられたと貴方も思いませんか?

まぁ、私としては以前の滑稽なお姿も、非常に愉快で好みでしたがね。ふふふっ…」


以前のユベールの醜態に、嘲笑が抑えられないといった様子のハイネは、口元に軽く握った手を翳し、込み上げてくる笑いと共に身体を小さく揺らしている。


「テメェ……あの馬鹿貴族に一体何をしやがったんだ?」


俺はこの絶望的な状況を前に、身体全身から自然と嫌な冷や汗が噴き出す感覚に襲われていた。

そんな様子をハイネに悟られないよう、自分を落ち着かせる意味も込め、質問を重ねる。


「いやー実はちょうど実験用に用意していた物がありまして。こんなにも早くに結果を確認できる事になるとは、今日の私はすこぶる運が向いているようです」


ハイネは羽織っている白衣の隙間から、銀色の容器を取り出して相変わらずのヘラヘラとした様子を見せている。


あれに人を魔人へと変えてしまうような、そんな無茶苦茶な絡繰が隠されているなど、にわかには信じがたい。

しかし、こいつならやりかねないとも同時に感じていた。


「…チッ。こっちの運勢は最低だっつーの…」


苦虫を噛み締めながら、少しでも落ち着こうと小さく呟く。


「…で、その容器にゃ、何が入ってる?詳しく聞かせろ」


ハイネは俺の本当の考えを知ってか知らずか、少し意外といった表情を浮かべて答えた。


「ほう。そうですかそうですか。


……まあ、いいでしょう。それもまた愉しそうだ。


少し小難しい話になるので、長くなるかもしれませんが宜しいですか?

貴方ほどの頭の良い人に理解できるよう端的に話すというのは、私も腕がなります。ふふっ」


…やはり、博打した甲斐があった。


コイツは戦いの結果というより、会話の内容やその場の雰囲気に合わせ、自分の愉しいといった感情を優先させる節があるのではないかと、賭けに出たのが功を奏したようだ。


先程の半人半獣もそうだったが、基本的にはハイネの命令に従うように、あのユベールだった化物も命令に従うであろうことが予測できる。

となればコイツが気持ちよく話している限り、こちらへの攻撃はないと、多少楽観的ながら予測も出来る。


まあもしそうでなかった場合は、素直に殺されるだけだろう。

恐らく策がなければ敵わない相手なのは間違い無い。


ではハイネがどうでもいい話に熱中しているうちに、改めて今後の対策を練る意味でも、思考を改めて整理することにする。



…まず、先にどうにかしねーとならないのが、あの化物。


俺の『水圧砲』に対し、片腕で掻き消すといった芸当が、本当に可能であるのか?


ミラの教え曰く、魔法には相性が存在している。

奴が行使している魔法は『火』属性に該当するのは間違い無い筈だ。

そして、『水』は『火』に対して圧倒的に効力が高いというのが、魔法一般における常識の1つである。


だが、あのようにこちらの多量の『水』が蒸発するかのように消え失せてしまったということは、考え得る可能性は2つある。


一つはハイネが助力し、何かしらの仕掛けで防いでしまった可能性。

この場合、あそこにいる化物の実力は未知数である。


もう一つは、純粋にあの化物の繰り出す『火』魔法が、まさに化け物じみた火力を誇るという可能性。


俺の知識では『火』にはそれぞれ火力によって段階が存在している。


それを識別するには単純に赤、白、黄、青色といった色の変化が1つの指標として存在するらしい。

よって、奴が身に纏っていた『火』がそれに当てはまるもので、自由自在に火力調整が可能な代物だとしたら……。


考えたくもねぇが、俺なんて一瞬に灰すら残さず消されるだろうな。


…要するに、俺に残された生き残る可能性はたった一つだけだ。

それを成功させなきゃ、死ぬっていう簡単な図式は分かりやすくて助かる。


「……であるからしてですね?私としては、まだまだ生物的遺伝情報の因子を、完全な形で継承、もしくはクローン化する方法を模索しながらですね………ってあれれっ?」


ハイネの奴は、未だに誰も聞いていない講釈を垂れ続けた結果、ようやくとこちらの意図に気づいたようだった。


しかし、俺といえば既に身体から溢れ出してきた冷気の制御に、確かな感触を感じ始めていた。


俺は俯けていた顔をゆっくりと上げるようにして、奴らに宣戦布告する。


「………言っとくが、俺はこの世界で一番の魔法使いの、一番有能な弟子だ。

舐めんなよ?


そう簡単に殺られてやるつもりはねぇから、覚悟しやがれ」


そうやって、込み上げてくる武者震いに身体を震わせ、改めてこんなところで死ねるかと決意を新たにしたのだった。


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