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俺の異世界転生が完全にやっている件  作者: 箸乃やすめ
二章 俺の異世界転生は前途多難
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悪夢の再演


「だ、男爵様っ?!」


ユベールとかいう貴族様が馬鹿すぎたお陰で至極簡単に俺に倒されてしまった結果、ハイネは慌てふためいた様子をみせて奴の元へ駆け寄っていっていた。


そんな姿を傍目に入れながら、俺は抑えられない溜息をつく。


「はぁ……皆が死ぬ思いして辿り着いた黒幕との決着が、こんなクソみてぇなもんでいいのか…?

まあ、俺としちゃあ楽できたからいいっちゃいいんだが、なんだかな…」


そう独り言を呟いた俺は、一度ミラとサラがいる場へ戻ろうと、歩を進めることにしたのだった。


ーー


「おう、ミラ。早々と戻ったぜ。奴は俺が考えていた以上に、正真正銘の馬鹿だったみてぇだ。

んで、そっちの方はどうだ?」


「…もう少し」


ミラは、依然としてサラを元に戻す為、治療のようなものを続けていた。


「そうか、まあ気長にやってくれや」


「………」


ミラはそんな台詞を吐いた俺に対し、視線だけを送ってくる。


しかし、ミラのいつもの無表情の中に、珍しくこちらに言いたいことがあるかのような感情が見え隠れしているように感じた俺は、それに答えるように語りかけた。


「テメェの言いたいことは分かってる。ここからが本番だって言いたいんだろ?それくらい俺だって気づいてるさ。


…あの不気味な眼鏡男…。

ぜってぇ実力を隠しているに違いねぇ。

アイツをどうにかしねーと、恐らくこの一連の事件は、何の解決にもなんねぇんだろうよ。


まあここまで足を踏み入れたからには、最後まで付き合ってやろうじゃねぇか。

何せこれが終わったら、ソラの奴からガッポリと金をふんだくんなきゃなんねーからな?」


「………ふふ。そうだね」


ミラは少しだけ頬を緩めるようにして、そう返事をしていた。


「…そうだな。これが俺の最期になるかもしんねーから、一応お前には教えておく」


「………?」


ミラが不思議そうに首を傾げる。


…全く、俺ときたら。

こんなことを今更告げる気になるとは、本当にどうかしている。

以前の俺だったら、間違いなく馬鹿げていると鼻で笑っていただろう。


これというのも、全て宿り木亭の馬鹿どもに影響を受けたせいだろうか。

だが、自分がそのように変化していったことにも、不思議と悪い気はしていない自分に気づく。


「…ケッ、なんてこたぁねぇ。

結局一番の馬鹿野郎は、テメェ自身っつーことか」


自然と浮かんでくる苦笑と共に、そんなことを呟いた俺だった。


ーー


ちょうど反対側にある壁の付近まで歩を進めた俺は、ユベールとかいう馬鹿貴族の安否を確認するように、こちらに背後を向けてしゃがんでいるハイネに向かって声を掛けた。


「ハイネ、テメェいい加減本気でかかってきたらどうだ?


もうこちとらその薄ら寒い演技にいい加減飽き飽きしてんだよ。

こんだけやりやがったら、流石にテメェの手駒も打ち止めだろ?」


その言葉にびくりと反応を見せたハイネは、慌てた様子でこちらに振り向いた。


「何をおっしゃいます。演技だなんてとんでもない。

貴方も見ましたでしょう?私が殴り飛ばされ、情けなく赦しを乞う姿を」


俺はそのあまりにも白々しいハイネの様子に、ありのままの感情を全てぶつけるかのように吐き出す。


「チッ…あー苛々してくるぜ…。


テメェと話してるだけじゃ埒が明かねぇことは重々と分かった。

つーわけで、身体にでも聞いてみることにするぜ」


「っ?!ひ、ひいいいい、か、身体に!?

一体、何をするというのですか!お、お助けぇええええ!?」


ハイネは俺の脅しともとれるその発言に、相変わらずの反応を見せる。


しかし俺は、もはやそんなハイネの様子など無視し、集中力を加速させ始めていた。


…よし。


手始めに、先程の馬鹿貴族にも見せた、己基準で『威力指数67』の水魔法を発動し、奴の化けの皮を剥がすことにする。


…残りの『33』は防御に回す。

これならある程度大きな反撃が来たとしても、即死は逃れるくらいには、瞬間的に水力操作も行える筈だ。


ミラ曰く、魔法の行使は感覚で行うものもいれば、俺のように魔法力を数値化して身体に刻むものなど、人により様々らしい。

俺はその変わりの者の一人であると、繰り返してきた修練の中で気づく事が出来た。


必要になる思考をそうやって頭に張り巡らせると同時に、物理的な魔法発動の準備も整えていく。


両手を前に突き出し、手根部だけ重ねるようにして手の平を拡げる。

さらに腰を深く落とすようにし、これから訪れる衝撃に、自らの身体を吹き飛ばされないように構えた。


「ハアあああああああ!!」


掛け声は、魔法発動における必要な思考過程と、身体準備が整った合図となる。


そして俺は、『水圧砲』を発射した。


俺の両手の先から、自らの身体より一周り程大きい魔法円が宙に描かれる。

その魔法円からは、大量の『水』が出現する。


しかしその多量の水流は、この空間を一面に水湖に変えてしまうことはない。

まるで生成した魔法円がハイネまで続く1つの大きな筒となったように、その中を激流が一直線にハイネに向かって突き進んでいった。


それは、水圧という圧倒的な力であらゆるものを押し流し、押し潰すという、本来防御面で用いられる事が基本とされている『水』魔法を、攻撃と転じられるよう調整した代物である。


俺のこの『水圧砲』は、言わば牽制に近いものだった。


要するにハイネにとっては、今までの如何なる状況も自分を脅かす脅威とも呼べないものだったとすると、これがどの程度まで通用するのかは、正直たかが知れていた。



だが。



「……まぁ俺としても、流石にこれで倒せるなんて思っちゃいなかったが……。


……こんなん聞いてねぇぞ?」



そこには、ハイネともう一人。


忽然とその場に現れたその化物は、俺の『水圧砲』を片腕だけで掻き消していた。



「…ふっ、ふふふ………あははははははははは!!


その表情。

私が求めているのは、まさにそれなのです。


………如何です?

自分が有利な強者として相手に襲いかかろうとした時、それが一瞬にして覆るという気分というのは?


そういえば、先程まで道化だったこちらの彼も、実に良い表情を見せてくださりましたねぇ?


やはり人間が見せる様々な感情の波というのは、何度見ても辞められるものではありません。


……くくくっ……あははははは!!」


もはや愉悦を隠すこともなく爆発させるように、ハイネは感情を露わにしている。


だが俺は、『水圧砲』を右腕で全て飲み込むように掻き消した、身体全体を焔に包まれたかのような化物に、視線を奪われていた。


「………」


その化物は、無表情にこちらに視線を向けている。


俺は、もはや何度めかになるかも分からない絶望的な悪夢の再来に、


「わ、悪い冗談……だろ?」


そうやって辟易したように、言葉を漏らしてしまうのだった。



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