戦いの行方
一つの戦いが決着を迎えた、その後。
もう一方のサラ達の戦いは、重大な局面を迎えようとしていた。
〜〜
「はぁ……はぁ………はぁ………。
ふ、ふふっ……貴方、本当にやるじゃない……もう愉しすぎて、何度イっちゃったかもわからないわぁ………」
「…………」
サラとその生物は、一定の距離を置きながら、息を弾ませていた。
そのお互いの身体には、激しいぶつかり合いの中で生まれた、無数の切り傷が刻まれている。
しかしそんな傷だらけの二人は、まるでこの状況を最大限に愉んでいるかのように、お互いに愉悦の表情を浮かべていた。
ーー
「……ったく、アイツら無茶苦茶すぎねぇか…」
少し離れた位置から二人の戦いを見つめていた少年が、額に汗を滲ませながら口を開く。
「そうですねぇ。そろそろ戦局が動いても良い頃合いだとは思いますが。それだけ、お互いの実力が拮抗しているのでしょうねぇ」
そこに白衣を着た男が、眼鏡をくいと上げる仕草をみせて口を挟んでいた。
「…って、テメぇ?!いつの間にこんなに近づきやがった?!」
「はははっ、やだなぁ。私とあなた方の深い仲じゃありませんか。
大丈夫ですよ。基本的に私って、最高にヨワヨワですので。
今あなた方と事を構えるなど、逆に私が死ぬだけです。何も得がない」
「…テメぇが本当に雑魚だったらの話だがな?」
少年は臨戦態勢を整えるように、鋭い視線をその男に向け、構える。
「……おやまあ、恐ろしい」
男はニヤリと口の端を釣り上げる。
その場を張り詰めた空気が包み込むことで、一触即発といった様相を呈していた。
「……そこまで」
突然、ミラは二人の間に入るようにして、そんな緊迫した空気をピシャリと遮ってしまう。
「…おい、どういうつもりだ?ミラ」
少年は訝しい視線をミラに投げかける。
「………」
しかしミラはそれきり言葉を発する事なく、黙ってしまう。
「ふふっ、そちらの方は分かってらっしゃるようで何よりです。では、ゆっくりと続きの観戦と行きましょう。
…っと、そんな事を話していたら、どうやら動きがあったようですね」
ーー
「…はぁ……ねぇん?もうチマチマやるのも飽きて来ちゃったし、そろそろ決着といかない?」
「……………」
その生物はサラのそんな問いかけに対し一度視線を向けると、突然手にしていた槍を後ろに放り投げた。
「………ヴゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
聴いたものの心を揺さぶる、魂の雄叫びが響き渡る。
雄叫びと同時に、その生物の上半身を司る男性は、サラに向かって両手を翳す。
すると、男性の両手の先から岩塊が生成され始め、次第にその岩塊に大小様々な大きさの岩石が重なり合っていく。
そうして、気づくとそれらは一つの大きな岩塊となっていった。
その大きさは留まることを知らず、ついにはこの空間の上下を埋め尽くす程の質量を得ようとしていた。
「ヴゥオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
ついに巨大な岩塊と化したそれが、猛烈なスピードと圧力を伴ってサラを押し潰そうと襲いかかる。
「……やだ……ほんっとぉに……素敵……」
サラは今にも自分に襲いかかろうとしている巨大な岩塊に、恍惚の表情を浮かべる。
しかし、次の瞬間。
「はぁああああああぁああああああああ!!」
サラは生物がやったことを模倣するかのように、全身の冷気を圧縮し、両掌に集め始める。
あっという間に巨大な氷塊と化したそれは、もはや生物が生成した岩塊と比べても遜色無い大きさに到達した。
こうして今まさに、氷と岩の巨大な質量同士が、衝突しようとしていた。
「グウオオオオオオオオオオオ!!!!」
「だあああああああああああ!!!!」
お互いに猛烈な速度と質量を伴った岩と氷の衝突は、轟音と共に空間を揺さぶる。
飛散する大小の岩や氷の塊は、もはやそれ自体が攻撃と呼べる代物となり果てて、無差別に辺りへ飛散していく。
まさにこの空間自体が、完全に二人によって支配されていたのだった。
ーー
「純粋な力比べ…ですか。面白いですねぇ」
眼前で繰り広げられている光景を前にして、男は呟く。
「はっ?どういう意味だよ」
少年は突然の男の呟きに、咄嗟に反応していた。
「…いえいえ。文字通りの意味ですよ。
それより貴女。何だか私も一緒に護って頂いているようで、すみませんねぇ。
正直こんな空間に投げ出されていたら、間違いなく即死だったと思います。いやぁ、有り難いことこの上ありません」
「………」
ミラはその男の言葉にも全く反応を見せる様子は無かった。
そんな中を少年が、思わずといったように言葉を漏らす。
「しかし、あんな無茶苦茶な魔法同士だっつーのに、拮抗するなんてことありえんのかよ…」
「ふふっ。確かにこれ程の実力を持った者同士の実力が拮抗するなど場面など、中々お目にかかれるものではありませんね。
…さて、運命の女神様はどちらに微笑むのでしょうか」
男は今まで見せたことのない神妙な顔つきで、そんな一言を付け足したのだった。




