変貌
あそこにいる女は、一体誰だ?
「はぁはぁ…ううっ…うぅう……ふ…ふふふっ……あは、あははははは!…はぁ…はぁ…ぅうん……。
んっ…んんっ…くっ、あはっ、あははは!ははぁ……」
その女は、まるで矯声を上げるように、愉しそうに嗤っていた。
顔を紅潮させながら、息も絶え絶えに身体を拗らせる様子は、まるで性行為中の快楽に溺れる娼婦のように見える。
いや、頭では分かっている。
しかし、理解はできるが納得が出来ない。
あれは確かにサラの筈だ。
だがその姿は、先程までの彼女とは大きく変質している。
紺碧だった長髪の髪色は、降り注ぐ雪のようにまっさらな白に変わっていた。
また眼鏡を外したその姿は、以前のサラとはもはや別人のような印象に写る。
俺はそんな彼女から後退し、大きく距離を取るようにして、身体をガクガクと震わせていた。
「クソッタレ…ど、どどどうなってんだっつーの……へっ、ヘックショイ!!ゔ〜〜……ざびぃ……」
立ち尽くしているだけで、自然と身体中の熱が根こそぎ奪われていく感覚がある。
裸で極寒の地に降り立つという比喩ですら、生温い程に思えた。
現在この部屋は、サラの変貌と共に突然吹き荒れ始めた猛烈な吹雪により、部屋一体が豪雪地帯のように変わり果ててしまった。
ミラが咄嗟に俺を連れ立ち、外界を遮る防御壁のようなものを展開してくれなかったら、きっと今頃俺は氷の彫刻と化していたことだろう。
…それにしても。
あの時、サラの口から思わず零れ出た、あの台詞。
『私のことは忘れて構いません』
あの言葉の本当の意味とは、まさか…。
そうやって、悪い想像ばかりが頭によぎってしまっていた。
「なあミラ。サラの奴、本当に大丈夫なのかよ?」
「……」
ミラは顔の表情を変えることなく、頷くこともない。
とにかく、確かなことが一つある。
この状況では俺たちがここから動くことなど、到底無理であるということだ。
俺は無力な自分に歯痒さを覚えながら、奥歯を強く噛み締める。
「サラ…頼んだぜ」
ーー
「素晴らしい…」
白衣を着た男は、心からの感嘆を漏らすかのように、癖になっている眼鏡を直す仕草をみせる。
「……」
隣には、半人半獣の生物が顔色も変えず静かに佇む。
こちらもこの状況に特に反応を見せることもない。
「ぁあん、ようやく少しは涼しくなったわぁ。
私ってぇ、暑苦しいのとか堅苦しいのは大嫌いなの。
あっ、でもでも〜。不思議と男の場合は、そっちの方が美味しい時もあるのよねぇ。ふふっ」
吹き荒れる吹雪の中、サラは艷やかな微笑を浮かべながら、ゆっくりと近づいていく。
その姿は、騎士の正装である制服を大きく着崩してしまうことで、胸元が露出し、白くしなやかな肢体も大部分露わになっている。
「…それで、貴方達が私と遊んでくれるのかしらぁ?」
「それでしたら、この方と是非。興奮冷めやまぬ体験を提供できることをお約束しますよ」
「ふぅん。どうせなら二人一緒でもいいのだけれどぉ?」
サラは人差し指をゆっくりと唇に充てがいながら、誘うような視線を男に送った。
「…大変魅力的なご提案なのですが、私にも大事なお役目がありまして。先にこの方とお手合わせ願いましょう」
「へぇ…それはざぁんねん」
サラはそう口にすると、身体全体で伸びをする。
すると、部屋一面に吹き荒れていた吹雪も、それと同時に止んでしまっていた。
「んじゃ、よろしくねぇ?二人で愉しく踊り狂いましょう」
そんなサラの表情は、愉悦に満ち溢れていたのだった。




