サラ
「では、貴方達に質問です。『生と死』について、どう考えますか?」
男はこちらに一礼した後、こちらを試すような表情を浮かべ、そんなことを口にした。
「…残念ですが、貴方の無駄話に付き合っている暇はないのです」
そのまま振り向き、後ろの二人に告げる。
「お二人共、手加減してどうにかなる相手では無さそうです。すぐにこの部屋から離れて外に状況報告に向かって下さい」
「分かったぜ!」
すぐに二人は私の意図を汲んで、出口に向けて走り出した。
「…ですから、お話の途中といったでしょう?」
しかし、その男の言葉が合図となったように、あっという間に入口の扉が上から下にめがけて落ちてくる。
気づけば反対の扉も閉じ、八方塞がりの状況に陥ってしまっていた。
「…やってくれますね」
「何度も言っているように、私は貴方達とお話がしたいだけなのです。いい加減手間をかけさせないで欲しいものです」
男はほとほと呆れ果てたという表情を浮かべている。
「…というわけで申し訳ありませんがお二人共、ご自分の身はご自分で守って貰うこととなりました。ご了承下さい」
二人に対し、苦し紛れにそう話すことしか出来ない。こうなってしまっては最早、そうしてもらうしかない状況にまで追い詰められていた。
「へっ、舐めんなよ?自分のことくらいなんとかしてやらぁ」
「……」
私はそんな二人の様子に、思わず小さな笑みを浮べてしまう。
「フフッ…それなら良いでしょう。ここからは私も形振り構ってられません。
…そうですね。私のことは忘れてもらって結構です」
「は?お前何言って……」
「ふふ。直にわかりますよ。ミラさん、後のことは頼みますよ?」
「……」
ミラさんはコクリと顔を頷くようにしてそれに応えてくれた。
きっと、この方は私以上の実力を秘めている。
未熟な私でも、それくらいのことは流石に分かるものだ。
「さて…」
私は改めて正面の敵を見据える。
私の氷を軽々と破る実力を隠す、あの男。
そして、師父の身体を上半身に要し、実力も未知数であるあの生物。
…今の私では、あれらに到底敵わないだろう。
では、どうするか。
答えは一つしかない。
ーー私には、普段から必ず身につけていなくてはならないものがある。
これは私を、サラという一人の王国の騎士として、成り立たせてくれる掛け替えのないものだった。
これを外すということは、私がこの世で最も忌み嫌う、本来の私に戻るということを意味する。
私は眼鏡を外し、放り投げる。
途端に私の身体から、普段の私では扱いきれない程の冷気が溢れ出した。
それと同時に、頭の中で何かが弾けた音が響く。
その何かは、私の中を侵食するように一目散に這入りまわっていく。
こうなってしまっては、もう後戻りは決して出来ないだろう。
だが、任務のためにこの身を捧げる事に悔いはない。
…でも。
これが私の最後だというのに、何故か頭には、あの人の事が浮かんでいた。
任務においては文句のつけどころのない成果を挙げる癖に、普段は滅法だらしがないあの人。
私があの人に浪費させられた時間は、もはや取り返しのつかない程、負債として積み重なっている。
最後にあの人に、文句の一つでも言えたら良かったな。
そんな私の些細な想いも、まるで心を全て上書きされていくように、深い深い闇へと飲み込んでいく。
そうして気づけば私の中に、なんとも言えない快楽が生まれていた。
きっとこれが、私の最後。
『さよなら』
…さよなら?
ええ、『さよなら』
もうひとりの私。
本当は殺してやりたい程憎いけど、みっともなく消えてくれるならいいでしょう。
赦してあげるわ。
それにしても。
…ああ、愉しい。
なんという快感。
もう、気持ちが良くってたまらない。
誰でもいい。誰でもいいの。
私の快楽に付き合ってくれるものはいないのかしら?
あら?
あそこに美味しそうなのがいるじゃない。
しかも人間の男。
そうね。
あの人間は身体中を弄り回して、私色に染め上げて一緒に遊んであげましょう。
もう一方は上半身は人間で、下半身は獣のよう。
こっちは下半身を氷漬けにして、壊れるまで犯し続けてやろうかしら。
ああ。
想像するだけで、興奮が収まらない。
身体が震えちゃうわ。
愉しい、愉しい愉しい愉しい!
愉しくて愉しくて愉しくて…。
だって、だってこんな快楽堪えられない。
それじゃあ、愉しい時間の始まり始まり。
みーんな、私の玩具にしてあげる。




