辿り着いた先に
決して少なくない魔獣の群れをあっという間に退けたサラは、息をつく間もなく次の扉を開こうとしていた。
そこに遅れまいと必死に追いついた俺は、思わず声をかける。
「…お前、少し休んだりしなくて平気なのかよ?」
「お気遣い有難うございます。大丈夫です」
そう答えたサラは、薄っすらと額に汗を滲ませている。
多少の無理をしてでも、今は一刻を争うと判断したのだろう。
俺はそんなサラの決断に、無言で頷くことで応えることにした。
そうしてすぐに次の扉を開けると、今度は一見して実験室のような部屋に出る。
その部屋の中心部には、人が三人分は入る程の大きさの寝台があり、その四方には手足を拘束する用途と思われる分厚い鉄鎖があった。
また辺りを見渡してみると、壁には形や種類が様々である刃物が、一面に立て掛けてあるのが分かる。
先程の部屋で見た生物の事を考えると、ここにある道具がロクでもない使い方をされていることを、嫌でも予想出来てしまった。
「…いい加減うんざりしてきたぜ。ここは本当に地下なのか?これだけ広い空間が拡がってんのは、どう考えたっておかしいだろうがよ」
「それも含めて、黒幕とやらには全て吐いてもらうことにしましょう」
「…っておい!待てって!」
もはやサラも、部屋の事を気にしている時間すら惜しいといったように、早々にここを離れようとしていた。
そうして、サラに急かされるように足早に次の部屋に入った瞬間。
俺は今迄とは随分と毛色の違う部屋の雰囲気に、思わずはっとしてしまう。
その部屋には取り囲むようにずらりと本棚が並んでおり、鼻につくような独特な紙の匂いが充満している。
そんな部屋の中心部には、小さな机と椅子が配置されており、そこには一人の男が座して本を読んでいるようだった。
その白衣を纏った男は、暫くした後に俺達の存在にようやくと気づいたようで、読んでいた本の頁を広げるようにして、机にそっと置いた。
「…おや。こんなところまでご苦労様です」
柔らかな微笑を浮かべ、落ち着いた様子で語りかけてくるその姿は、まるで友人同士の何気ない挨拶かのようだった。
さらに俺は、その男が最近出会った人物と一致している事に気づき、改めて驚愕する。
「なっ…てめえは…」
今俺の目の前にいる男は、あの時宿り木亭にラルの容態を診察しに来た、医者を名乗る人物に他ならない。
「はて、そちらの方とは何処かでお会いしたことでもありましたか?」
不思議そうに首を傾げるその男。
その態度に思わず声を荒らげようとする俺を、横にいたサラがすぐに手を伸ばして諌めていた。
「くっ…」
「落ち着いてください。相手の調子に合わせてはいけませんよ?
…では、貴方。今回の一連の事件は貴方の仕業でしょうか?
そうなのでしたら余計な抵抗は即刻辞め、さっさと降伏することをお勧めします。如何ですか?」
サラは俺に忠告をするのとほぼ同時に、男との距離を縮める。
その余りの身のこなしの速さに驚いていたのも束の間、気がつくと男の首元には、サラの手から生成された円錐形の氷柱が突き付けられていた。
「…ふむ。これは困りましたね」
この状況でもその男は、貼り付いたような笑顔を浮かべ続けている。
その姿は、この男の無気味さを更に際立たせていたのだった。




