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俺の異世界転生が完全にやっている件  作者: 箸乃やすめ
二章 俺の異世界転生は前途多難
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氷の嘲笑


現在の時刻は朝5時。

まだ外も薄暗い時間帯である。 


店の前には、俺たち宿り木亭のメンバーであるミラ、ラル、少年、俺の4人と、王国の第三騎士団副隊長であるサラさんが勢揃いしていた。


昨夜。

突然のサラさんの来訪で、ようやくラルの母親に繋がる希望を見い出せた俺たち。

最後サラさんのお腹が豪快に鳴るというハプニングもあったが、そこは俺とオッサンが腕を振るうことで、今日に向けての英気を養ってもらった。

何故かミラの分まで作る羽目となったが、それはご愛嬌といったところだ。


「…昨日は、御馳走様でした」


サラさんは今迄のキツイ態度を少し改めてくれたように、俺に話しかける。

普段は冷徹なイメージが強いサラさんであるが、こういう所を見ると、きっとそれは彼女の本質ではないのではないかと感じた。


「では、参りましょう」


サラさんの一言で場の空気感が引き締まる。

とにかく、ここからが本番だった。



出発して特に障害もなく目的地に到着した俺たち一行は、物陰から隠れるようにして現場を伺っていた。


「ここです」


そこは一見すると、他の民家と変わらないボロボロの建物だった。


「…余程この場所に自信があるのでしょう。事前の情報では、中には悪党が少数しかいないとありました。しかし、その情報を鵜呑みにするのはおやめください。ここからは何が起こっても不思議はありません」


それを聴いた俺たちは、一同に頷いて見せる。

サラさんは時刻を確認し、改めて俺たちに声をかけた。


「突入します」


サラさんはそう短く言葉を言い残すと、腰を深く屈めるようにして、その建物へと突入を開始した。

俺たちも遅れをとらぬようにと、物音をたてぬようにすぐにそれに続いていく。


どうやらこの建物は施錠もされていないようで、俺たちはすんなりと屋内へ侵入することが出来た。

入ってすぐの部屋には、男がだらしない格好で横になっている。

目を瞑りイビキをかいている様子をみると、こちらの作戦が奴らに漏れていないということが分かる。

まずは順調といった所だろう。


サラさんは一瞬にしてその男の側に近づくと、ナイフのような短剣を男のこめかみに突き付ける。

その男も異変を察知したようで、咄嗟に声を上げようと抵抗する意志を見せた。

しかし、サラさんはそれすらも事前に分かっていた事かのように、言葉が発せぬよう口を押さえつけていた。

流れるように男の耳元に向けて、囁く。


「…捕らえられている彼女達の居場所と、黒幕を吐きなさい。それ以外の内容を話した際は、即処分します」


サラさんは、まるで死刑判決を下すかのように、仄暗い瞳でそう告げる。

俺の全身を悪寒が駆け巡り、嫌な汗が吹き出す。

それ程に彼女の放つ冷徹なオーラが、その場一帯を支配しているような感覚があった。


「……」


まさに絶体絶命といったその男は、言葉の代わりに首を横に向け、こちらの要望に答える気がないことを態度で示していた。


「…成程。話す気はないということですか。それではその口、二度と開かないようにして差し上げましょう」


サラさんは、男の口を塞いでいた手をそっと離し、そのまま人差し指を口元に近づけていく。

するとその指で、男の口の端からゆっくりとなぞりだした。


「……っ?!な、何だ?!辞めむむむんむ!?」


男の口元は、サラさんがなぞるように動かす指と同時に、嘘のように凍りついていく。

まるで口にチャックをされている状態に陥ったその男は、恐怖と混乱で声にならない声を上げていた。


「んんん??!んむんんんんん!!」


「…ふふふっ…なんと情けない姿…。ふふふっ…はははっ…」


サラさんはそんな男の姿に、実に愉しそうに嘲笑っていた。

サラさんのそんな姿に、改めて昨日ミントちゃんが言っていた言葉を思い返す。


「…ずっと頭に引っ掛かっていましたが、やっと思い出せました。

あの方は王国でも屈指の使い手と名高い、


『氷の嘲笑』サラ=エドゥアール。


彼女が唯一嗤う姿を見せるのは、相手を貶めて愉悦に浸る時のみ。


…そんな噂を聴いたことがあります」


まさにその異名に恥じない姿に、ここにいる皆は誰一人として言葉を発することができなかった。


「……ふふっ。では、このまま永遠に口を閉ざして差し上げても良いのですが、もう一度だけ問いましょう。先程私が申し上げた質問に答える気はありませんか?」


男は顔を上げ下げし、必死にサラさんに命乞いをしていた。

サラさんはそれに返事するかのように、再び男の口の端に人差し指を当て、チャックを開けるようにゆっくりと動かす。


「ぷっ?!…ぶはぁ!!……はあはあ……」


余程息が苦しかったのだろう、その男は肩で息をして呼吸を乱している。


「では、改めてお尋ねします。先程の私の質問のみ答えてください。…余計な事をされるようでしたら、今度は容赦しません」


サラさんの目が細まり、怪しく光を帯びる。

すると、その男はようやく諦めたようにゆっくりと口を開いた。


「…そこに下に続く隠し通路がある。下に降りて道なりに行きゃあ、すぐに兄貴と女共がいる場所に辿り着くはずだ。俺はそれ以外のこと詳しくは知らされてねぇんだよ。信じてくれ…」


男は身体から力が抜けきっており、地面にへたり込んでいる。

その姿は抵抗する気を完全に失っているように見えた。


「…良いでしょう。では」


サラさんはそう言うと、今度は男に対して手をかざしていた。


「な、なんだ?!ちゃんと喋ったじゃねーか?!や、辞めてくれ!!」


男は動揺して再び取り乱す様子を見せていた。

必要な情報を吐いてしまったせいで、用済みになった自分を処分されると考えていたのだろう。


しかし次の瞬間。

実際に起こったことといえば、男の頭から下の身体を全て包むように、一瞬にして分厚い氷が現れた。


「………っ?!」


その場にいる誰しもが目を疑う景色に、その男も状況を理解できないといった表情を浮かべる。

しかし、それを行ったサラさん本人は全く動じることもなく、男に告げていた。


「せいぜいそこで極寒に耐えながら、気長に待っていて下さい。貴方が耐えられなくなるのが先か、助けられるのが先か…ふふふっ…実に愉快ですね…」


サラさんは嘲笑いながらそう告げると、すぐに男に興味を無くしたように俺達の方に向き直した。


「申し訳ありません。貴重な時間を浪費してしまいました。それでは、下に参りましょう」


俺たちは、頷くようにしてそれに応えていた。


「…兄貴、すまねぇ…」


首から上だけ自由が利く状況のその男は、力なく小さく呟く。

俺はその男に見覚えがあった事を口に出さず伏せておいた。

それは、今そのことを話題に上げても、大切な時間を無駄に費やしてしまう気がしたからだった。

ラルも恐らく同様であるのだろう。


とにかく今は、ラルの母親を助ける事が最優先事項であることに違いなかった。

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