とある悪党の独り言
人間とは結局、死ぬために生きてるようなものだ。
そんな生に対して、普通の人間ってのはそれなりに輝きを見出すのであろう。
以前の俺がそうであったように。
ではその輝きを無くした時、人はどうしたらいい?
それなら、人生を終わらせる為に自殺すればいい。
確かにそれも一つの解決手段になるだろう。
しかしそれを行うには、やはり苦痛からは逃れられない。では、その苦痛すら御免被りたい人間はいったいどうするのか。
答えは簡単だ。
要するに、死んでるように生きればいい。
考えることを辞め、とにかく毎日美味い飯を食って、良い女を抱いて、適当に生きる。
最後は楽に死ねればそれでいい。
成程。そう考えると、人生ってやつは実に良く出来ているーー。
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「兄貴、そろそろ飯にしやせんか?俺腹減っちまって」
「…おう」
俺は椅子に背中を押し付けるように座り、ゴーツの提案に適当に相槌を打つ。
内心で考え事をしていたせいで、気もそぞろになってしまっていることも自分自身で気づいていた。
「へへっ。何食おうかな」
ゴーツの奴が、何か食い物は無いかと奥の部屋に消えようとする。
「おいゴーツ。待て」
「はい?なんっすか」
「先に下の奴らだ」
「ええっ?奴らすか?いや俺、腹減ってんすけど」
「あ?大事な商品よりお前の空腹を優先させる訳があるか?」
「…すみませんっす」
「チッ…」
俺は何をしていても襲ってくる、理由がつかない苛立ちの感情を抑えきれずにいた。
ここトリニータは、俺たちのような悪党が隠れ家とするには絶好の環境が整っている。
王国の奴等もこの一帯に関しては迂闊に手出しすることは出来ず、また複数に拠点を持つ事で、居場所も特定出来させないって寸法だ。
俺とゴーツは現在、その拠点の中の一つを依頼主から任されており、ここの地下には攫ってきた女達を監禁していた。
依頼主によれば、奴ら女の身柄は順次、王都の貴族や権力者に見定められ、買われていく予定となっている。その用途としては、奴隷や使用人など様々であろうが、俺たちにその後の事まで知るすべはなかった。
考えようによっては、ここでの生活よりも裕福になるものもいるだろう。勿論、逆もまた然りだが。
「くっだらねぇ」
「えっ?どうしました?」
「チッ、なんでもねーよ。行くぞ」
「あ、兄貴!ちょっと待って下さいよ!」
俺たち二人は地下の監禁場所へと向かう。
ここの構造はかなり特殊な作りになっている。
外見ではただの小さなボロ屋にしか見えることはないが、その実、地下には膨大な敷地が広がっていた。
こんな無駄に金がかかるものを依頼主がわざわざ建造したのには、何か理由があるのだろうが、俺には全く持って興味がない。
要するに金を貰えればそれで終いな関係であり、それ以上深く取り入る気もなかった。
向こう様もそんな俺の態度が気に入ったのか、こうして少し前から仕事を回してくれるようになっていた。
俺とゴーツは下に移動しようと、普段は見えないよう布で覆ってある隠し扉を開き、そのまま梯子を降りる。
下に到着し、蝋燭の火で照らされた薄暗い通路を歩く。
少し歩いた先には、女達の幽閉されている場所があった。
そこは地下にしては広々とした空間となっており、牢屋は10人程の女なら一度に収監できるくらいの広さを備えていた。
また、牢屋の出入り口は無数の鉄柱で強固に固められており、とてもではないが女には脱出が不可能な構造になっている。
ここには現在、3人の女を監禁している。
その中の二人は、ここに来てから早々に全てを悟り、諦めの表情を見せていた。
女というのは、強い生き物だ。
大抵の女はその諦めの表情の裏で、自分の身の振り方について冷静に頭の中で計算することが出来る。
具体的に言えば、ここを訪ねてくる権力者のお眼鏡に何としても叶おうと、他の女を平気で蹴落とし自らを売ろうとすることも珍しくない。
事実、そんな女を何人も見てきた。
しかし、そんな中にも当然例外はいる。
絶望して無気力になる者。
或いは、最後まで自分の誇りを貫こうとする者。
まあ結局、女心など男の俺が知れたものではない。
堅牢な牢屋を前にして、俺とゴーツは改めて中の様子を伺う。
中にいる女二人は俺達の様子に気づくと、横たえた身体を這いつくばるようにして、こちらに摺り寄ってくる。
「お願い…食事と水を…」
身体は痩せこけ、今にも力尽きそうな緩慢な動きとは対照的に、こいつ等がこちらに向ける瞳には、明確な意思が宿っている。
この二人はきっと、生きるという目的の為に手段を選ばない類の女だろう。
しかし俺はそんな牢獄の中で、その二人とは明らかに違う様子でいる、もう一人の女に目を奪われていた。
その女は俺達の存在に気づきつつも、他の女どもと違い反応を見せることもない。
一人佇んでこちらを睨みつけるような視線を送っていた。
…ふん。コイツは余程、誇り高い女ってところか。
だがこの夢も希望もない状況の中で、それがいつまで続くものか。
これがその女に対して抱いた、最初の感想だった。




