副隊長
久方振りの再開となったサラさんは、登場するなり何故か俺の赤裸々な身体情報を暴露してしまった。
現在それを受けて俺は、恥ずかしさで身悶えしている最中である。
当のサラさんといえば、そんな俺の様子を一切意に介さず、早速話の本題に入ろうとしていた。
「こうやって突然お邪魔させて頂いたのは他でもありません。夜分も遅いので単刀直入に参ります。
『女攫い』の犯人の身元が割れました。
つきましては、実行犯の潜伏先、市民の軟禁場所が複数の拠点にある事が判明した為、我々騎士団も兵を分散して事に当たる次第です。
作戦予定時刻は明朝6時。同時刻に全隊突入予定です」
突然もたらされた濃密な情報量に、その場にいた全員が息を呑んでその話に聴き入っていた。
サラさんはそんな俺達の様子を一通り確認した上、さらに話を続ける。
「…では、ここからは何故貴方達のような一般人に、このような重大な機密事項を話したのかという問題に移ります。
これには今回の事件の総指揮を執る、我が隊の隊長からの言葉をそのまま引用します。
『情報と戦力は提供してやった。後はお前らの好きにしろ』
とのことです」
サラさんは時折、右手の中指でクイッと眼鏡を直す仕草を見せながらも、淡々と俺たちに告げていた。
この中で唯一サラさんと面識があるだろう俺は、この場を代表して質問をぶつけてみる。
「その情報と戦力というのは、どういったことでしょうか?」
サラさんは俺の言葉に、眉間に皺を寄せ、不機嫌を絵に描いたような表情を浮かべた。
「…理解が悪いですね。まあ良いでしょう。情報というのは、そこにいる少年の母君が捕らえられている居場所についてです。
言っておきますが、これについては有力な情報筋があることを保証しましょう。
あと戦力というのは恐らく私のことですね」
サラさんのもたらした情報といえば、まさに俺たちが今喉から手が出る程欲しがっていたものに違いない。
こうして突然と明るい兆しが降って湧いたことで、自然と俺たちは互いに視線を交わし、頷き合った。
よし。これならイケるかもしれない。
しかし、俺はサラさんが最後に付け加えた自分を戦力と評した言葉に、少々引っ掛かりを覚えていた。
「情報ありがとうございます。ちょうど俺たち、そのことで頭を悩ませていた所なんです。あと、サラさんが戦力というのは、どういう意味なのでしょうか?」
「いえ、そのままの意味ですが。それがなにか?」
サラさんは何を今更といった様子で、こちらを睨みつける。
しかし改めて考えてみると、彼女の肩書は副隊長。
実力が伴っていることも当然の訳で、そこに俺は変なツッコミを入れてしまったわけだ。
我ながら考えの浅はかさにウンザリする。
サラさんは、話を続ける。
「…では、改めましてお尋ねします。貴方達はこれからどうするおつもりですか?」
そんなサラさんの最終確認を行うような質問に、俺は決意を新たに応えていた。
「俺たち、ラルと一緒にサラさんについて行きます。ミラと少年もいいな?」
「……うん」
「まあ、お前に雇われてるわけだしな。行かねぇと何も始まんねぇだろうが」
二人は俺の問いかけにそのように返事をする。
そして、その場にいるミントちゃんも、それに続くように口を開いた。
「お店のことは何も心配いりませんから、皆さんラル君とお母さんの事、どうかよろしくお願いします。
…くれぐれも身の安全にだけは気をつけて」
「ありがとう。ミントちゃん」
ミントちゃんは心から心配そうな表情を浮かべながらも、俺達の背中を押してくれる。
この期待に何としても応えなくちゃならないなと身が引き締まる思いがしていた。
「…話が纏まったようですね。では、明朝5時に店の前に集合です。遅刻厳禁ですので、あしからず。では」
「おい待て。俺からも質問させろ。騎士団はなんで俺たちみてぇな信用できるかもわからねぇ輩を同行させる許可を出した?」
少年は咄嗟にサラさんを呼び止める。
「…愚問ですね。隊長のお考えは私にも解りかねますが、一つだけ確かな事だけお伝えしましょう。私にとって、貴方達のような存在がいようがいまいが、それは些細なことに過ぎません。任務遂行の邪魔をするようでしたら、誰であろうと殲滅するのみです」
サラさんは、そんな牽制にも近い言葉を俺たちに向けていた。
鋭い眼光をこちらに送るその様は、騎士団の副隊長を名乗るに申し分ないオーラを放っているように見えた。
少年も彼女のあまりの威圧感に、それ以上追求する様子を見せない。
「では、また明日に」
サラさんはそれが捨て台詞のように、こちらに背を向け、颯爽とここから立ち去ろうとしていた。
ぐぎゅるるるるる……
そんな時、突如として鳴り響く腹の音。
俺たちは聞き慣れたものとミラに視線を向ける。
しかし、ミラはそんな俺たちに向かって意外な一言を発した。
「…私じゃない」
「へ?」
こんな轟音をたてて腹の音を鳴らせる人物は、正直ミラ以外見当がつかなかった。
はて、では誰がと皆の頭に一様に疑問符が浮かぶ。
「…わ、私です…」
今まさに扉を出ようとしていたサラさんは、顔を俯けるように小さく呟いていた。
その両耳が赤くなっているように見えたのは、恐らく見間違いではないのだろうと感じる俺だった。




