仲間
「クソっ……」
俺は一人自室に戻り、横になりながら先程の事を思い返していた。
自分には関係のない話だと、頭ではとうに理解している。
その証拠に同行することも断った。
その筈なのだが、何故か苛立つ気持ちが抑えられない。
そんな自分に、得も言われぬ戸惑いを覚えていた。
正直、ラルの母親がそうなってしまったことに対しては、同情の余地もある。
しかしそれと同時に、致し方ない事態であると諦めの気持ちがあったのも事実だった。
何故ならラルにも言った通り、あの場所は何が起きてもおかしくない場所である。
そこで起きることに関しては、全て自己責任に当たる。
恐らくラルの母親も、それを理解しているだろう。
あそこに住むものならば誰しもが頭に思い描くことだ。
もしかしたらその上で、ラルに危険を犯してまで来て欲しくないとすら、考えている可能性もある。
そこまで考えを巡らせたところで、こんな事をしていても何もならない事に改めて気がついた。
「ふん…勝手にしろ」
捨て台詞のようにそんなことを呟く。
もういい。
さっさと寝てしまうことにしよう。
そう考え目を閉じようとした時の事だった。
トントン
突如、扉を叩く音がする。
その後すぐに、扉の外にいる人物が話しかけてきた。
「…ソラだ。すまんが入ってもいいか?手短に済ます」
「今留守にしてる。明日にしろ」
「留守にしてたら返事できるわけねーだろ…。入るぞ」
「チッ。勝手にしろ」
そんなやり取りの後、ソラは扉を開けて部屋に入ってきた。
しかし俺はこの時、何故かソラと顔を合わせる気分ではなかった。
早く追い返そうと、ヤツとは身体を反対に向けるようにして、言葉を放り投げる。
「何の用だ?明日も朝早くから仕事なんだ。テメーらの穴埋めもあるから、さっさと寝させてもらわねーとな」
「…それに関しても、これからの俺の話に大きく関係してるんでな。まあ、宣言通り手短に話させてもらうぜ」
ソラはそんなことを話し、俺が寝ている寝具の横に腰掛ける。
「ふん…」
大方、用というのは先程の話の事だろう。
しかし、俺の中での結論は決まっている。
結局、人間というのは何かを行う際に、動機や理由がなければ行動を起こさない。
今回の事でいうと、こいつ等に同行するという事は、結果的に自分の身を危険に晒すということである。
そこに動機を乗せるとすれば、俺が一番嫌いな仲間意識や友情といった、反吐が出る言葉を理由にしなくてはならない。
それだけは違う。
そんなものは、決して認めるわけにはいかない。
そうやって改めて頭の中で考えを纏めた俺は、ソラがこれから話すことに対しても、その姿勢を決して崩さないことを決めていた。
そうして、ようやくソラが口を開いた。
「お前に依頼したい事がある」
「…は?」
ソラが発した言葉が、予想していた言葉とは全く違った事に驚きを覚える。
そして、思わず寝ていた身体を起こし、ソラに視線を向けてしまっていた。
そんな俺の反応を気にする素振りも見せず、ソラはこちらに視線を送り、話を続ける。
「…依頼内容としては、俺たちと同行し、ラルのお母さんを救出する事。そして、これに関わるとされる一連の事件の解決に助力する事。
これには敵との戦闘が発生する可能性が大いにあり、その際はお前の魔法の力の行使も大いに期待させてもらう。
従って、それ相応の働きに対しても追加報酬を払うつもりだ。
勿論、基本的な依頼料も発生するのは言うまでもない」
ソラはそのように言葉を捲し立てる。
「…てめぇ。どういうつもりだ?」
俺はあえて睨むようにソラに語りかける。
しかしソラは、そんな俺の剣幕をかわすように、顔の表情を緩め、溜息をついていた。
「はあ…どういうって、今言った通りだけど?あっ、店の事なら事前に店長とミントちゃんの了承済みだから。あしからず」
「……ふざけてんのか?」
俺はこいつが今話していた内容に関しては、当然理解していた。
しかし、それをわかった上でもう一度聞き直す。
するとソラは、頭を掻くような動作を見せた後、仕方がないといったように口を開いた。
「…お前、昔俺がお前に会ったばかりの頃にやらかしちまったこと覚えているか?」
「は?んだそれ。なんの事だ?」
「覚えてねーのかよ…。とにかくだ。俺が言いたいのは、俺達の関係は決して友達同士なんかじゃないってことだ。要するに仕事仲間、同僚だな。そんな相手にあの時は一線を超えるような事をしちまったのは、今更ながら愚か者だなと痛感するよ」
「……」
「だから、今回の事はどう考えても同僚同士でやるようなことじゃないと気づいてな。それならって事で、依頼という形ならどうかと思った訳だ。俺と違って頭の良いお前なら、簡単に理解できる理屈だろ?」
…まったく、コイツと来たらなんて事思いつきやがるのか。
それを言うなら、あの時すぐについていくと言ったソラとミラはどうなる?
しかし、俺がこれから口にしようとする事を考えると、あながち俺もその馬鹿どもの一員であるのかもしれない。
そんな事を頭に思い浮かべていた俺は、急に今迄真面目に考え込んでいた自分が、馬鹿らしくなる思いがしていた。
「…ぷっ…あはは…。全く、お前は本当に馬鹿だな」
「笑うことねーだろ。これでも、無い頭必死に絞って捻り出した答えなんだからな」
ソラは恥ずかしそうに腕を組んで顔を逸していた。
その顔は余程恥ずかしかったのか、全面的に赤みがかかっている。
俺は、その場に立ち上がり宣言する。
「…よし、いいだろう。だが、俺みたいな有能な人間を雇うには、それ相応の報酬を用意してもらう。それに、追加報酬についても交渉するつもりだから、覚悟しやがれ」
「げっ。あの…私の予算の都合上ですね…ある程度お情けを頂けると…」
ソラは情けなく青い顔をしている。
いい気味だ。
そこに、俺はトドメとばかりに言ってやる事にする。
「そこに、慈悲はねぇ」
「なんと…」
顔をガックリと落とすように落ち込むソラ。
俺といえば、不思議と先程までの苛々した気持ちが晴れやかになったように、心が軽くなっていたのだった。




