波乱の予感
あれから時間が過ぎ、その夜。
屋根裏部屋には、従業員一同が勢揃いしていた。
その中には、さらにここの従業員ではない人物もいる。
その人物は、ラルの様子を一通り確認した後、こう結論づけた。
「…これは、過労からくるものでほぼ間違いないでしょう。このまま寝ていれば大事はないですよ」
「良かった…。先生、夜も遅くに急に呼び出してしまい、申し訳ありませんでした。本当に有難うございます」
ミントちゃんは深々と頭を下げるようにして、そう答える。
「いえいえ。私もラル君とは面識もありますし、安心しました。それに医者という立場では、それは当然の事ですよ」
この街でも名の知れた医者であるハイネ先生は、柔らかい微笑を称えている。
あの時。
突然意識を失ってしまったラルを、急遽この部屋に運び込んだ。
しかしそれからというもの、ラルは全くといって目を覚ます様子が見られなかった。
それを心配したミントちゃんは、こうして念の為医者を手配し、俺たちもラルを心配して部屋に集合していたのだった。
先生は、言葉を続ける。
「しかし、無理は禁物です。この様子だとそろそろ目覚めてもおかしくはないとは思いますが、ラル君の性格上、またすぐに無理をしてしまいそうで…。医者としては是非とも止めたいところです」
「……」
その場にいた一同は、顔を見合わせ、微妙な表情をしていた。
「…う、ううっ…」
そんなやり取りがあった矢先、ラルは苦しそうにうめき声を上げる。
「ラル君?大丈夫?」
ミントちゃんが心配のあまり声をかけ、ラルはその瞳をゆっくりといったように開いた。
「ここは…。ソラ兄ちゃんの部屋か?俺は……なんでここに」
「ラル君、無理しすぎて倒れちゃったんだよ?」
「そっか…。皆、ありがとうな?後、店にも迷惑かけちゃって…ほんとごめん」
「いいんだよ、そんなこと!それより、身体は大丈夫なの?」
「ミント…ああ。しっかり寝たおかげで身体は楽だよ」
「本当に良かった…」
ミントちゃんは心の底から安心した表情を見せていた。
「ケッ。ったく、ほんといい迷惑だっつーの」
「……良かった」
その場にいた少年とミラも、安心した表情とともに、そんな台詞を漏らす。
少し落ち着いたところを見計らって俺は、今回の事の経緯をラルに話すことにした。
さすがにこの件に関しては、ラル本人にも話しておかねばならない。
「ラル。その、なんだ…。お前のお母さんの事なんだが…」
「ん、大丈夫。お陰ですっかり頭も冷えた。そうだ、あの時の変わり者の騎士はどうしたんだ?」
「ああ。アインの事か。あいつはな……」
〜〜
「お前の覚悟、確かに受け取ったぜ」
アインは、ラルがまさに意識を失って倒れ込むその瞬間、優しくその身体を包み込んでいた。
「おい、ラル!」
俺は突然の事に驚きのあまり、アインとラルに走り寄る。
「心配すんな。限界まで身体を酷使して、気の抜けただけだろう。すまんが、この店で寝かせてやれるか?」
アインがオッサンに視線を投げかける。
「…ソラ。てめぇの部屋にでも寝かせとけ」
「は、はい!」
俺はすぐさまラルを抱えるようにして、屋根裏部屋へと駆け上がって行った。
「…おい、アイン。ラルにああ言ったのはいいが、てめぇもこれから無茶するって顔に描いてあるじゃねぇか」
「ったく、オッサンはいつも一言多いな。大丈夫だよ。んなこと分かってるっつーの。いい加減、俺もガキじゃねーよ」
図星とばかりにアインは、照れ笑いを浮かべる。
「…しかし、今回の一連の事件、許せねぇ。まあ、大人には大人なりのやり方ってもんがあるからな。残念ながら俺は、大人になる事でそのやり方も学んじまった。
…この件だけは、手段を選ばず解決してやる」
そう話すアインの表情は、彼らしくない酷く冷徹なものに変わっていた。
「ったく、お前ときたら変わってねぇな」
「そうか?まあ、『豪腕』のアンタに色々と鍛えられたからな」
「昔のことだ。んなこといい加減忘れちまえ」
「へいへい」
二人はそのようにして、短いやり取りを交わし、その場を後にしたのだった。




