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俺の異世界転生が完全にやっている件  作者: 箸乃やすめ
二章 俺の異世界転生は前途多難
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騎士


先程の俺のやり過ぎた失言の結果、アインは散々笑い終えた後に、ようやく落ち着きを取り戻したようだった。


「…ふう。いやー笑ったぜー。とまあ、大分スッキリした事だし、ここらでホントに邪魔するぜ?」


「さっさと消えちまえ」


俺は自分史上最高に不機嫌な表情を浮かべた上、仕返しとばかりにシッシッと追い払うような仕草を見せていた。


「ははっ。じゃあな」


そうして、今度こそといったようにアインは別れの挨拶を口にし、店の扉が開かれる。


しかし、扉を開けたその先に、何故か呆然と立ち尽くしている人物がいた。


そんな姿に見覚えがあった俺は、思わず声を掛けていた。

 

「……ラル?」

 

そこには、いつもと明らかに違う雰囲気を纏うラルの姿があった。


ラルはその場で顔を俯けたまま、何も言葉を発する素振りをみせない。

その姿は普段元気一杯で店に押しかけてくる少年と、とても同一人物とは思えなかった。


暫くした後、ラルはようやくといったように、ポツポツと俺たちに語りかけてくる。


「母ちゃんが……何処にもいないんだ……。

俺、このへん全部捜し回ったんだけど、どうしても見つからなくて……」


ラルは顔を俯けたまま、身体を小刻みに震わせている。

まるでその事態を引き起こってしまった悔しさに、自分自身を許すことが出来ないといったようだった。 

その証拠に、ラルが強く握りしめた右手からは、ポタポタと血が滴り落ちてしまっていた。


俺はそんなラルの深刻な様子に、かける言葉を失ってしまう。

事の重大さを鑑みるに、大事なのはどうしたらこいつの力になれるのかという事だ。


だというのに、さっきからどれだけ頭を使っても、全くと言っていい程上手い策が浮かんでこない。

そんな己の無力さに、吐き気がする思いがしていた。


そんな時、意外な人物がラルに対して口を開く。


「…少年。初対面でいきなり悪いが、聴かせてもらいたい事がある」


アインは両腕を組むようにして、真剣な表情を浮かべている。


「……」


返答する様子もなく、口をつぐんでしまっているラル。

それをよそ目に、アインは話を続ける。


「お前の母親がいないと分かったのはいつだ?」


「……昨日の晩だ」


「それで、お前はどうした?」


「っ!?すぐに探しにいったに決まってんだろ?!オマエは一体なにが聞きたいってんだよ!!」


ラルはアインの真意を測りかねる質問に、憤る感情を抑えられないといったような様子を見せていた。

そんなラルの取り乱した様子にも、至って冷静な姿勢を崩さないアインは、溜息をつく。


「…まあその様子じゃ、昨日から今の今まで一人で探し回ってたってところか。

はっきり言うぞ。夜に宛もなく一人で探し回るなんざ、馬鹿のすることだ。

そんな行為はただ効率も悪けりゃ、自分の気を紛らわす自己満足にしかすぎない」


「てめぇ…。言わせておけばこの野郎!」


ラルは次の瞬間、怒りのあまり腕を振り上げアインに殴り掛かった。


確かに俺にはそう見えた筈だった。


しかし、その後俺が目にしたのは、アインの手がラルの頭にポンと置かれる光景だった。


「…まあ、落ち着け。話を最後まで聴けよ。結果的にお前が今やっている『人に頼る』って選択肢はな、お前のようなガキにしたら及第点ってとこだ」


アインは先程までの真剣な表情から、顔の表情を少し緩めていた。


「しいて言うなら、お前の母親がいないと分かった時点で、その選択肢を取れたらもっと良かった。とにかく、お前は十分良くやったよ。後は俺に任せろ」


「………」


ラルは、最後までアインの言葉に口を出さず、聴き入っているようだった。

しかし、依然としてラルは顔を俯けたままである。


その姿は、頭では理解できていても、心では到底納得が出来ないといった、そんなラルの中の葛藤を酷く表しているようにも見えた。


アインはそんなラルの様子に、軽く頭を掻くように顔を背ける。


「…ったく、本当は堅苦しいからやりたくはないんだが、しょうがねえ。よく見とけよ?」


そう言葉にしたアインは突然、片膝を地面につけ、その場に跪く。


そして、そっと手を胸に添えるようにし、ラルを下から正面に見据えた。


「…我、栄光あるカッシフォードの名に懸けて、必ずしやこの忌まわしき事件を早期に解決に導くことを、ここに誓う」


場の空気感が、突如として一変する。

この場にいる誰しもが、言葉を忘れ、その騎士の姿に目を奪われていた。


果たして、このように敢えて振る舞うアインの瞳の奥に写るのは、これまで幾多の責任と役割を果たしてきた、自信の表れなのであろうか。


それとも、こうやって自分を追い込みながらも、ラルに対して最大の敬意と責任を負おうとする、彼の不器用な照れ隠しなのだろうか。


そんなものはきっと、後者に違いないのだろう。

俺は嫌ほどそれを知っている。

こいつはそういうヤツだ。


「…っと」


アインは跪いた態勢から一瞬で立ち上がり、元の気の抜けた表情に戻ってしまっていた。


そんなアインの様子を、最後まで固唾を呑んで見守っていたラルは、それまで俯いていた顔を上げ、呆然とした表情を浮かべている。


「あんたは…一体何者なんだ……?」


「ん、俺か?そうだな。この国のしがない一介の騎士ってとこさ」


「…騎士?あんた、騎士なのか。…そうか、それなら…」


もはやラルは、先程までアインに向けていた敵意ある感情を捨て去っている。

そしてそこには、自分の恥も外聞も全て捨て去ってでも、大事な人を守りたいという、強い決意があった。


「頼む。俺の母ちゃんをどうか……助けて……くれ……」


「任せろ」


ラルはそのまま意識を失ってしまったのだった。

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