ミラ先生のよく分かる魔法教室2
目を瞑り、掌の上に全ての意識を集中させる。
頭に思い浮かべるのは、真っ暗闇の中に浮かぶ小さな灯火。
『火』とは。
温度や臭いはどのようなものか。
色合いはどうであったか。
そうやって、自分の中にある一つ一つの『火』の情報を深く思い返し、心に染み込ませていく。
次第に全ての意識が一つに集約されていく感覚があった。
そうして、自分の中で何かがカチリと嵌る。
今だ。今なら、きっとできる。
次の瞬間、右の掌が燃えるほど熱くなっている感覚に気づく。
いや、というか実際に皮膚が焦げて煙がプスプスと上がっているようだった。
「…て、燃えとるがなっ!?あっ、あちい!ふーふー!ふーふー!」
そんな突如として襲ってきた猛烈な痛みに、取り乱しながらその場に転がりまくっていた。
〜
ミラ先生の魔法授業が開講され、数時間が経過していた。
まさしく現在は、各々が授業に沿った形で魔法の特訓に精を出している真っ最中である。
そんな中で俺は一人、両膝をつきながら落ち込んでいた。
「なぜだ…なぜ俺にはこうも才能がないのか…恨むぜ神さん…」
『火』の魔法を実践した掌を見てみると、まるで直接火で炙られた後のような生々しい火傷の後が残っている。
確かにこれは調整が効かないと、ただのリスクにしかならない代物だと再認識することになった。
ミラの言うとおり、魔法というものを扱うということが、いかに高度な技術であるということが身に染みる。
そんな時、近くで同じように魔法の練習に打ち込んでいたラルが声をかけてきた。
「ソラ兄ちゃん!見てくれよこれ!」
「またかよ。さっきから何べんも見せられてるっつーの…。嫌みかキサマ…」
ラルは手の上に小さな風の塊を浮かべ、こちらに満面の笑みを向けている。
先ほど興味本位で触らせてもらったりもしたのだが、あの小さな塊の中だけ、明らかに空気が渦巻くように流れが変わっているようだった。
そもそもミラ先生曰く、魔法というものには適正が大きく関わっているらしく、大抵は自分に一番合う適正がどの元素に属しているか見極めるところから始まるらしい。
ラルはその中でも『風』の属性と相性が良いようで、早速こんな芸当までマスターし、俺に格の違いを見せつけていた。
思い返すと最初にラルを追いかけた時も、あの年齢にしては異様な速度を保ち走り続けていた事を思い出す。
もしかしたら、本人も知らずと風の加護を受けていたのかもしれない。
また『風』の属性は応用できるととんでもなく便利な能力であるらしく、足の早さは勿論のこと、いかなる自分の行動にもプラスでスピードを乗せることができるらしい。
しかし、それを使いこなすにはそれ相応に肉体を鍛え、尚且つ緻密な空間把握、位置調整などをスムーズに行わなくてはならず、さらには失敗して自滅するリスクもはらんでいるという。
やはり異世界だからといって全てが都合良くはいかないらしい。
ちなみに魔法の適正判別の方法は、ミラに言わせると、「見ればだいたい分かる」とのことだった。果たしてそれがこの世界での通例であるかは謎である。
そうやってラルとの会話をしていると、突然と少年が横から口を挟んでくる。
「ふん、ラル。てめえも俺に比べればまだまだだぜ。ソラに関しては論外だがな」
「ぐぬぬぬ…」
少年と相性が良いのは『水』の属性。
こちらは両の掌の上にプカプカと水の塊を出しており、さらには多少の水量の変化にも応用を利かせられる段階に至っているらしい。
ミラに言わせれば、「特に優秀」とのことである。
クソ忌々しい事この上ない。
まあ、人は人、自分は自分という言葉があるように、人と自分を比べてしまうのはナンセンスということも十分理解している。
だが残念ながら、俺はそこまで人として成熟していない。
なにせ、どの魔法に適正があるのかとワクワクしながら目を輝かせていた俺に、ミラからかけられた言葉は「絶望的に適正がない」というあまりにも辛辣なものであったのである。
嫌みの一つくらい許してくれ。
兎にも角にも、魔法適正がないらしい俺に与えられたのは、どの属性にも果敢にチャレンジしていくというシンプルな選択のみだった。
以下は俺がこの異世界で達成した、記念すべき魔法の成果だ。
・『火』魔法〜手のひらを火傷
・『水』魔法〜スポイトから出した程の極小量の水滴を生成
・『風』魔法〜手のひらの上に風吹いてるのかな?という感覚のみ
・『地』砂一粒を生成
このように改めて列挙してみると、いかに俺が才能に恵まれていないか分かってくれただろうか。
しかし、俺ときたら嫌なことはすぐに投げ出しがちの性分であるが、興味のある分野に関しては諦めの悪いことに定評がある。
何せ向こうの世界では苦手だが好きな格ゲーを徹夜でやり込んで、休みの日を一日睡眠に費やすという頭の悪い事を繰り返していたわけだ。
こうなりゃ逆に開き直って、とことん打ち込んでやろうじゃないかという気分だ。
そうやって、改めて気持ちを奮い立たせていた俺なのだった。




