ミラ先生のよく分かる魔法教室
ミラとのやりとりの後、早速と食事の準備にとりかかる。
店で下準備もしてきているおかげか、残りの食材を上手く活用し、比較的短時間で仕度が整った。
出来上がったものを目の前に並べ、ようやく遅めの食事の時間となった。
隣には約束を律儀に守ってくれているミラが、ちょこんと座っている。
俺はそんなミラを横目に手を合わせ、食材に感謝を込めて深くお辞儀した。
「いただきます」
そうやって昼飯にありつこうとしたところ、それを遮るように隣にいるミラが、突然手を上げていた。
「…はい、ミラくん?」
「私も」
「今なんと?」
「物足りない」
ぐぅぅぅぅぅぅ……
まさにバッチリのタイミングといったように、ミラさんのお腹に住む魔獣さん(年齢不詳大食い)が、悲鳴を上げていた。先程、多量の餌をあなたに与えたはずですがねと小一時間問い詰めたい。
とはいえまさか、自分から食事に付き合ってくれと言ったものの、またもやミラも飯を食べる事になるとは予想外だった。
そういう訳で俺は、一度手を付けようとした食事をミラに譲るようにして、大急ぎで追加の分の食事をこしらえることとなったのだった。
〜
その後、当然の様に追加分もペロリと平らげたミラさんは、ようやくお腹を満たせたようで、満足感に満ち溢れた表情をしていた。
今更ながらその底無しの食欲には、もはや脱帽しかない。
きっと、こちらでも大食い番組の企画などがあれば、間違いなくスターになること請け合いである。
それはともかく、ようやくと自らの食事にもありつけたことで昼食を終えることができた。
そのことで一休憩していた俺たちだったが、ちょうどそのタイミングで、教会を探索していたラルと少年もこちらに戻ってきたようだった。
そんな訳で、俺たち少年少女一行は、ミラに連れられて教会の前に集合していた。
ミラは集まった俺たちに向かって、開口一番に言い放った。
「魔法、教える」
あまりの突拍子さと予想外の発言に、驚きが隠せない俺たち。
それをよそに、ミラは俺が抱えてきた大量の荷物の中にあったノートを、各々に配布していく。
そういえば先日のこと。
ミラが珍しく話しかけてきて、俺が持っていたノートを数冊程欲しいと言ってきたことを思い出す。
今にして思えば、こんな伏線に繋がっていたわけか。
ようやくと謎が解けた思いがしていた。
ミラはノートを皆に配り終え、その場の皆に語りかけた。
「冒頭から読んでみて」
「うへえ…俺、字読めないんだよ。どうしよ…」
「なんだーラル。てめえ、字も読めねえのかよ。
しょうがねえなあ、俺が…」
そこまで言いかけた少年の発言を、遮るようにしてミラが言葉をかける。
「心配ない。字をなぞってみて」
そのミラの発言に、いかにも不思議そうな表情でノートを広げたラルは、言われた通りにそれを実践していた。
「…え。分かる。すげえなんだこれ?頭のなかに響き渡る感じがするぜ!」
「…こりゃあ、どんな仕組みだってんだ?」
「…」
少年たちが二人してワイワイしているのを、無言で見守っているミラの表情は、少し鼻高々なようにも見えた。
どうやら悪い気はしてないみたいだな。
ーー
『よく分かる魔法基礎の実践と概略』
初めに。
私は話すのがめんどくさ…いや苦手な人間である為、この本を参照して事に臨むべし。
魔法は、基本的に火、水、風、地など自然界に存在するもの、発生する現象を引き起こすものである。
まずは私が実践するので、それを見ていて欲しい。
ーー
ミラに言われた通り、冒頭から読み進めていくと、早速と実践のコーナーに辿り着いた。
そこまで読み終えてミラの方に視線を向けると、他の少年二人もほぼ同時といったように視線を向ける。
そんな俺たちを見計らったように、ミラは実践を開始していた。
「…まず、火」
ミラは右の手のひらを上に向けるようにして、こちらに差し出した。
俺たち三人はミラを取り囲むようにして、それを食い入るように見つめている。
すると、ちょうどロウソクくらいの火力の火が、ミラの手のひらの上空に浮かび上がってくる。
「お、おお~」
思わず感嘆の声をあげる俺たち。
「火力調整、空間把握、位置調整…」
ミラがそのように言葉を続けるのと同時のタイミングで、ロウソクくらいの火加減だったものが、小さくなったり大きくなったり、青い炎になったりと様々に変化する。
また、手のひらの上にあったはずの火は、ミラが指をピンと鳴らしたのと同時に、俺たちの周りをクルクルと回りだした。
「水、風、土…」
ミラは淡々といった表情で、次々と上記の元素物をテンポ良く、手のひらの上に出していく。
「応用。水、温度調整、氷…」
そこで俺たち三人は、もう抑えきれないといったように声を上げてしまっていた。
「す、すげえええええええええ!」
「な、なななななっ?」
「うおおおおおぉおおお!異世界ぃぃいい!」
一人だけこの世界では謎の言葉を発する怪しい人物がいた気がしたが、この場合セーフということにして欲しい。
まあ要するに、一様に気分が高揚してしまっていたのだ。
「ここまで」
ミラは一通りの説明を終えたとばかりに、そうとだけ言って魔法のお披露目を終了した。
「じゃ、次の項目まで読んで。質問は常時受け付ける」
ミラは引き続き読んでどうぞといったように、俺たちに手を差し出してくる。
どうやら詳しい魔法についての説明は、このように本を参照にして、この場で各自が読み進めていくというスタイルをとっているらしい。
なるほど、確かにこの方法ならこのぎっしりと書き記されているノートの内容にも納得できる気がする。
さしずめ魔法の教科書といった役割ということか。
昔のこと過ぎてよく覚えてないはないが、学校の授業もこんな感じだったのだろう。
一つ言えることは、この魔法の授業は今まで受けたどんな学校の授業よりも、自分自身で楽しいと感じているということだ。
それだけ、自分の興味のある事を学べているということなんだろうが、その熱意が勉強には全く活かされなかったのは残念だった。
では、そんなミラ先生の授業をより良い時間にできるよう、生徒として精一杯励むとしようかね。




